「よりを戻さないとレイプする」被害者は胸から大量出血、生死をさまよう事態に…26歳女性が元恋人に殺されかけた理由(平成28年の事件)〉から続く

 交際わずか1カ月で始まった異常な束縛。耐えかねた26歳の愛梨さんが別れを告げると、22歳の男の狂気は一気に加速した。実家に張り付き、被害妄想に満ちた「監視日記」をスマホに綴る日々。そして男は、「復縁しなければ監禁レイプ、断れば殺す」という最悪の犯行計画を立案する――。

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 前編で綴られたストーカー男の暴走は、ついに最悪の結末へと向かう。GPSや盗聴器で動向を掴み、大量のアダルトグッズと凶器の包丁を手に夜の駐車場で待ち伏せした男。一瞬の隙を突いて逃げ出した愛梨さんを執拗に追い詰め、その胸を容赦なく……。平成28年、大阪で起きた事件の結末とは。なお登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)


写真はイメージ ©getty

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スマホに綴った「監視日記」

〈○月○日…愛梨、どっかへ行ってた。バイト休みで家にもいないけど。なぜなんだ〉

〈○月○日…愛梨の車内に一つずつ飲み物があった。男がいる証拠かもしれない〉

〈○月○日…バイト休みなのにまたどこか行ってる。多分男と会っているんだろう。白いワンボックスカーの男か〉

〈○月○日…家に車あった。パチンコ店にも車ない。遅番。シフト変わっている。男に送り迎えしてもらっているのか〉

〈○月○日…車の中に子どもの靴下があった。家に入る前に電話している。妻子持ちの男と不倫か?〉

 辻橋は自分と別れたのは別の男ができたからだと邪推し、「よりを戻さなければ拉致監禁してレイプ。婚姻届に判を押さなければ殺す」というとんでもない犯行計画を立てた。

「用意するものはカミソリ、電マ…」

 事件を起こす2日前、辻橋は〈元気にしてるか?〉とLINEを送った。ところが、あっさりと既読スルーされたことから怒りが頂点に達し、犯行を決意した。

「まず携帯を見て、電話帳に男の連絡先がないか確認しよう。写真と動画も確認しよう。出会い系を利用していないか、オレのことをどう思っているのかも確認しよう。もし男がいたら殺そう。用意するものはカミソリ、電マ、ローター、結束バンド、朱肉……。ラブホテルとアダルトグッズを売っているところも調べておこう。婚姻届と花束も用意しておこう」

 その下準備として、辻橋は愛梨さんの車のナンバープレートの裏にGPSを取り付け、窓ガラスに盗聴器を仕掛けた。

「オレと結婚すると言わなければ、拉致してレイプしよう。慎重に、冷静に、周りを見渡して警戒し、絶対に逃げられないように……」

 事件当日、辻橋は自分の名前を刻印した指輪を用意し、百均ショップでアイマスク、ビニールテープ、カッター、筆記具をそろえ、さらにアダルトグッズを扱う店で手錠やさるぐつわ、ローションなどを購入した。

 愛梨さんが勤めているパチンコ店の駐車場で待機し、出て来るのを待った。

車の陰からヌッと現れたのは…

 愛梨さんにとって不幸だったことは、この日に限って1人でバイトに来ていたことだ。午後10時過ぎに仕事を終えて駐車場に向かうと、車の陰からヌッと辻橋が現れた。

「な、何しに来たん?」

「何しに来たんちゃうわ。お前を殺してオレも死ぬ。外でしゃべるのは嫌やから、はよ車に乗れ!」

 愛梨さんは自分の車の運転席ドアから押し込まれ、その後に続いて辻橋が乗り込んできたので、必然的に助手席側に追いやられた。そして、すぐに辻橋はドアをロックした。

「お前、男おるやろ。携帯見せろ!」

「さっき揉み合っていたときに外で落とした」

「ウソをつけ!」

 愛梨さんは顔面を平手打ちされ、首を絞められ、両手をタオルで緊縛された。口にはさるぐつわをされ、その上からガムテープを貼られ、カッターナイフを突き付けられた。

殺される

(殺される……)

 額に浮かぶ大量の汗、尋常ならぬ目つき、これまでに感じたこともない狂気を目の当たりにして震え上がった。

「携帯を探してこい。逃げるなよ。逃げたらどうなるか分かっとるだろうな」

 愛梨さんは車外に脱出できたので、携帯を探すフリをして、一瞬の隙を突いて逃走した。

「待てっ!」

 辻橋はすぐに追い掛けて来て、ヘッドロックをかけて押し倒した。

「お前、逃げやがったな。逃げたらどうなるか分かってたんだろうな!」

「嫌や、助けてーッ!」

 辻橋は愛梨さんを組み伏せたまま包丁を取り出し、「ドン」と押すような形で胸に突き刺した。

「何で?」

 パキッという音がして、ドクドクと心臓から血が流れる気配を感じた。痛いという感覚はなく、失禁してしまったため、「人は死ぬ前に失禁する」という話を聞いたことがあることを思い出した。

(私、死ぬんや……)

 辻橋はその場から逃げ出した。愛梨さんはポケットから携帯を取り出し、着信履歴の一番上の人に「刺されたから助けて……」と電話をかけた。

 それから近くのコンビニまでたどり着き、店員に携帯を渡して助けを求めた。店員はすぐに110番通報した。

あと1時間遅れていたら…

 愛梨さんは病院に救急搬送されたが、胸の骨を貫通するほどのケガを負っており、単に突き刺したレベルをはるかに超えた力がかかっていた。

 血圧は60まで下がり、出血が激しく、全身の血を入れ替えるほどの輸血をして一命を取り留めた。搬送が1時間遅れていたら死亡していたところだった。

 一方、辻橋は自分で「元カノを刺した」と110番通報していたため、駆け付けた警察官に殺人未遂容疑で逮捕された。

 車の中からは指輪や婚姻届とともに大量のアダルトグッズが見つかった。スマホに書き込まれた記録から愛梨さんを監禁レイプして、結婚に応じなければ殺してしまうという犯行計画も発覚した。

 それなのに辻橋は公判で記憶喪失を主張した。

「別れてからご飯が食べられなくなり、嘔吐を繰り返し、泣きじゃくる生活が続いた。失恋のショックで情緒不安定になり、記憶がなくなる状態に追い込まれた。

 事件当時のことは何も覚えていない。不満を募らせていたわけでもない。よりを戻したくて、カッとなってしまったが、殺すつもりはなかった」

母親の愛情に飢えていた

 愛梨さんは証人として出廷し、次のように述べた。

「反省文で謝られても、事件の記憶がないと言っているのだから、何に対して謝っているのか分からない。付き合っているときもイライラすると刃物を見せられ、『オレは警察なんか怖くない』と言っていた。

 今からお礼参りが怖いです。『お前が逃げたら、家族に危害を加える』とさんざん言われていました」

 辻橋は6歳のときに両親が離婚し、父親と兄の3人暮らしになったが、父親と兄に暴力を振るわれて育った。母親の愛情に飢え、愛梨さんに依存し、復縁できないことに一方的に恨みを募らせていた。

懲役は…

 裁判所は「被告人は文化包丁を用意しており、被害者の胸部を刺している。刃の根元が折れており、相当強い力で刺したものと認められる」として、殺人未遂罪の成立を認め、辻橋に懲役5年を言い渡した。

(諸岡 宏樹)