鈴木投手が初勝利を挙げたみずほペイペイドーム

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 野球の勝敗は、時に思いがけない形で投手の記録に刻まれる。

 ソフトバンクのルーキー・鈴木豪太が6月25日のオリックス戦で、新人では史上3人目となる1球プロ初勝利を達成した。2対2の6回1死満塁で2番手として登板し、若月健矢を初球のカットボールで二ゴロ併殺に打ち取ると、その裏に味方打線が3点を勝ち越し。投じた球はわずか1球ながら、記念すべきプロ初勝利が転がり込んだ。【久保田龍雄/ライター】

【写真】1球でプロ初勝利を達成した「鈴木豪太」投手と「ウイニングボール」

“おいしい”結果

 NPB公式の記録では、1球勝利は鈴木でプロ野球52人目、延べ53度目となる。たった1球の中にも、火消しあり、サヨナラあり、珍プレーあり。意外に知られていない1球勝利にまつわるエピソードを振り返る。

鈴木投手が初勝利を挙げたみずほペイペイドーム

 1球勝利投手第1号は、近鉄のエースとして在籍5年間で通算45勝をマークしたグレン・ミケンズである。

 1963年8月21日の南海戦、3対3の9回1死一塁で徳久利明をリリーフしたミケンズは、次打者・ピートを1球で遊ゴロ併殺に打ち取り、ゼロで抑えた。

 その裏、近鉄は土井正博の左翼線二塁打を足場に、四球と犠打野選で1死満塁のチャンスをつくる。ここでミケンズの代打・島田光二が放った弱い二ゴロを、二塁手・森下整鎮が本塁送球を焦って落球。その間に三塁走者・土井が生還し、近鉄が4対3でサヨナラ勝ちした。

 この結果、投球数わずか1のミケンズが勝利投手になり、NPB史上初の珍事となった。

 ミケンズは、3日前の8月18日の東映戦でも、4対4の延長10回にリリーフ。わずか5球でゼロに抑えたあと、その裏に自軍がサヨナラ勝ちしたため、計6球で2勝という“おいしい”結果になっている。

NPB史上初の2度目の1球勝利投手

 1球勝利は1990年代まで9例しかなかったが、セットアッパーの地位が確立された2000年代以降、急激に増えた。今季だけでも宋家豪(楽天)、八木彬(ロッテ)、堀瑞輝(日本ハム)、鈴木豪太(ソフトバンク)の4人が達成している。

 半月の間に2度も1球勝利投手になったのが、楽天・金刃憲人である。

 2016年6月11日の広島戦、0対1の8回2死一、三塁のピンチに先発・釜田佳直をリリーフした金刃は、代打・小窪哲也を1球で中飛に打ち取った。

 その裏、楽天は茂木栄五郎の投手強襲安打と四球で2死一、二塁としたあと、代打・後藤光尊、聖澤諒の連続タイムリーで逆転。最終回を守護神・松井裕樹が3者凡退に抑え、投球数1の金刃がシーズン初勝利とともに、プロ野球39人目の珍記録を手にした。

 そして、話はこれだけでは終わらなかった。

 6月25日のソフトバンク戦、0対2の7回2死一、三塁のピンチに先発・美馬学をリリーフした金刃は、城所龍磨を初球の外角カットボールで二直に打ち取り、無失点で切り抜けた。

 その裏、6回までソフトバンクの先発・東浜巨に1安打無得点に抑えられていた楽天打線が火を噴く。先頭のウィーラーの左越えソロで1点差に迫ると、2死後、後藤が左前安打で出塁。代打・枡田慎太郎の値千金の左越え2ランで、3対2と逆転した。

 金刃降板後はミコライオ、松井のリレーで失点を許さず、8回にもウィーラーのダメ押しタイムリーで4対2の勝利。金刃はプロ野球40度目の1球勝利を記録するとともに、NPB史上初となる2度目の1球勝利投手になった。1球勝利2度は、現在も金刃だけである。

 たった半月の間に2度の幸運な白星を手にした金刃は「持ってる?持ってないですよ。2球で2勝か。せこいですね。本当は3球投げて三振取ってガッツポーズしたいっすよ」と照れまくりだった。

 ところが、ウイニングボールは「史上初って、知らなかったんで…」と、いつものとおり三塁側スタンドに投げ入れてしまったという。

あんなの初勝利なんて言わん

 敗戦投手になっても不思議ではなかったのに、思いがけない幸運から史上初のプロ初登板での1球勝利を記録したのが、楽天・横山貴明である。

 2014年8月30日のソフトバンク戦、1対1の7回2死二塁の場面で、リリーフとしてプロ初登板を果たした横山だったが、今宮健太に初球の140キロ直球を中前に打たれ、1点を勝ち越されてしまう。

 ところが、二塁を狙った今宮が走塁死したため、スリーアウトチェンジになった。

 火消しに失敗し、勝ち越し点を許した横山は、ベンチで肩を落としていた。だが、ここから思いもよらない“逆転猛打ショー”が幕を開ける。

 1死から西田哲朗が四球を選び、松井稼頭央の左越え二塁打で同点。さらに藤田一也、岡島豪郎の連打で1死満塁とチャンスを広げたあと、ジョーンズの押し出し四球で逆転し、銀次の右越え2点タイムリー二塁打など、打者13人の猛攻で一挙8点のビッグイニングとなった。

 試合は9対4で楽天が勝ち、横山は1球勝利投手に。「勝ちがついたのはすごくうれしいですけど、打たれてしまったので、それ以上に恥ずかしいです」と複雑な心境を口にした。

 星野仙一監督も「あんなの初勝利なんて言わん」とバッサリ切り捨てたが、「何か持っているんだな。打たれて初勝利だなんて運のいい奴だな」と、キツネにつままれたような表情だった。

史上初の打者ゼロ勝利

 最後は番外編。投球数は2球ながら、史上初の打者ゼロ勝利を記録したのが、ロッテ・小林雅英である。

 2000年7月2日のオリックス戦、ロッテは3対4の8回2死一塁で、勝ち越し点を許した藤田宗一に代わって小林が3番手でマウンドに上がった。ところが、小林は2球目に暴投を犯してしまう。

 これを見た一塁走者・イチローは一気に三塁を狙ったが、欲張り過ぎたのがアダとなり、タッチアウト。スリーアウトチェンジになった。

 すると9回表、ロッテは大塚明の2点タイムリー二塁打で5対4と逆転に成功。オリックスの最後の攻撃を守護神・ウォーレンがゼロで抑えて逃げ切った。

 この結果、打者ゼロで1死を取った小林が、まさかの勝利投手に。この時点で1球勝利投手は11人、0球セーブは5人が記録していたが、打者数ゼロでの勝利投手は史上初の珍事だった。

 「勝ち逃げ投手とでも呼んでくださいよ。今年の運を使い果たしちゃった」とおどける小林だったが、同年は65試合に登板し、11勝6敗14セーブとプロ2年目で大きく飛躍した。

 1球だけで勝つ投手もいれば、打者ゼロで勝つ投手もいる。記録だけを見れば珍事でも、その裏には試合展開、走塁ミス、味方の逆転劇、そして少しばかりの運が絡み合っている。

 鈴木豪太の1球プロ初勝利も、ただの珍記録で終わるとは限らない。小林雅英の“打者ゼロ勝利”が、のちの「幕張の防波堤」への布石になったように、思いがけない白星が飛躍のきっかけになることもある。野球は本当に、何がどう転ぶかわからない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部