秋田96.5%、沖縄46.3%…NHK受信料「支払い格差」を放置したまま「値上げ」は許されるのか
受信料支払率の地域間格差
NHK側の受信料値上げに関する発言に波紋が広がっている。同局の最高意思決定機関である経営委員会の古賀信行委員長(元野村ホールディングス社長兼CEO)が先月下旬、値上げが必要な時期に来ているとの認識を示したのが発端だ。視聴者側はSNS上で猛反発。実際、値上げを口にする前にやるべきことがあるのではないか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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「個人的には値上げの時期だと思う」と、NHK経営委員会の古賀委員長は取材陣に対し発言した。背景には、2025年度決算が3年連続の赤字(318億円)に陥ったことがある。

だが、放送界を取材する者なら、赤字を招いた第一の理由が2023年10月に実施された受信料の値下げにあることを知っている。値下げ幅は1割に過ぎなかったが、NHKにとっては過去最大規模。これにより、衛星契約は月額1950円(220円の値下げ)となった。
この値下げは、総務族のドンだった菅義偉元首相(77)の20年来の悲願でもあった。NHK側で値下げの実務を主導したのは、2023年1月まで会長を務めた前田晃伸元会長(81)。元みずほフィナンシャルグループ社長・会長である前田氏は、NHKの組織・人事改革なども断行したものの、局内の猛反発に遭い、最後は石もて追われるかのように去っていった。
菅氏も今年1月に政界を引退した。まさか値下げのキーマンと思しき人物たちが表舞台からいなくなったことを見計らって値上げを口にしたわけではないだろう。もっとも、再び受信料を改定するとなれば、システム変更などにまた莫大な費用がかかる。値上げを考える前に、やるべきことがあるはずだ。
それは、受信料支払率の地域間格差の解消である。受信料は視聴者による「公平負担」が前提であるはずだ。ところが実際には、地域ごとの格差が酷い。たとえば秋田県の支払率は95%を超えているが、沖縄県は50%以下にとどまっている(2025年度末時点)。
あまりにも大きすぎる支払率の地域格差。こんな公共料金はほかにない。地域ごとの支払率の傾向は長年大きく変わっていないから、もしこのまま値上げが行われれば、「支払率の低い地域の分を、真面目に支払っているほかの地域が肩代わりする」という不条理な構図がさらに強まってしまう。
NHKが6月に発表した最新データによると、2025年度末の全国の受信料支払率の平均は76.9%。地域ごとの支払率の上位5位と下位5位を見ると、その差の大きさに驚かされる。
上位は、(1)秋田県96.5%、(2)岩手県93.2%、(3)新潟県93.0%、(3)島根県93.0%、(5)青森県91.9%である。これに対し下位は、(43)福岡県71.9%、(44)北海道69.8%、(45)東京都65.6%、(46)大阪府63.9%、(47)沖縄県46.3%となっている。
この支払率格差さえ解消されれば、当面は値上げを議論する必要すらなくなるはずだ。地方自治体と公用車のカーナビの受信料支払いをめぐって対立するような事態も起こらなくなるのではないか。
なぜ沖縄は低いのか?
沖縄県の支払率が著しく低いのは、1972年の本土復帰まで受信料というシステム自体が存在しなかったという歴史的背景がある。加えて、現地を取材した際に感じたのは、NHKの報道姿勢への根強い反発だ。「報道の視点が、常に中央(東京)目線になっている」という意識が強いのである。
NHKも沖縄での理解を深めてもらおうと、地元の経済人を沖縄放送局長に迎えた過去がある。1991年に局長に就任した地元企業・オリオンビールの比嘉良雄副社長(当時)だ。温厚で人望が厚く、地元での信頼は絶大だった。
だが、それでも支払率は上がらなかった。沖縄を舞台にした大河ドラマ「琉球の風」(1993年)や、連続テレビ小説「ちゅらさん」(2001年)などを制作・放送しても、状況は変わらなかった。やはり、本質的な理由は「報道のあり方」にあるようだ。
だからといって、このまま手を拱いていていいわけがない。支払率の高い地域が割を食い続けることになる。沖縄県が最下位で、下から2番目が大阪府という構図は10年以上も変わっていない。
NHK大阪放送局は、全国に7つある拠点放送局の中で最大規模を誇る。職員数も多く、数々の番組を制作している。それだけの規模でありながら、受信料収入を他地域に頼っている現状は、視聴者からすれば到底納得がいかないだろう。地域性にマッチした、新たな受信料の徴収法を確立することは急務だ。
一方で、NHKの受信契約数自体も激減している。2019年度末に約4212万件あった契約数は、2025年度末には約4033万件にまで減少した。わずか6年間で約180万件も減ったのだ。当然、受信料収入も7年連続で右肩下がりである。
この契約減の原因を「人口減少」と結び付ける見方もあるが、それは正しくない。人口はピークだった2008年の1億2808万人から約1億2242万人にまで減っているが、世帯数自体はむしろ増えているからだ。
2019年に約5178万5000世帯だった全国の世帯数は、2024年には約5482万5000世帯へと増加している。世帯数増加の理由は、高齢者や未婚者の1人暮らし(単身世帯)の増加である。
世帯数は増えているにもかかわらず、契約数は減っている。つまり、増えている単身世帯の側の多くが「最初から受信契約を結ばない」という選択をしている。テレビを持っていなければ契約の必要はない。
スクランブル化の研究を
テレビのない世帯は意外なくらい多い。世帯全体のテレビ保有率は90.3%だが、世帯主が20代の場合に限ると、その数字は約69.0%にまで落ち込む。
世帯主が30代では約85%〜88%、同40代〜50代で約90%〜93%。ミドル世代でもテレビを持たない世帯がかなりある(内閣府「消費動向調査」2025年)。
さらに、若者はテレビがあってもリアルタイムではほとんど観ない。先月発表されたNHK放送文化研究所のデータによると、16〜29歳の平日1日あたりのリアルタイムでの平均視聴時間は、約30分〜1時間未満という短さだ。
テレビ離れの理由は挙げればキリがない。オンデマンドとは異なり、番組が一方的に流れてくるというスタイル自体が時代に合わなくなっている。NHK ONEやTVerによるタイムシフト視聴も可能だが、そもそも「どうしても観たい」と思わせる魅力的な番組が少ないのではないか。
NHKも民放も、視聴者の意見をほとんど聞かずに番組をつくっている点に大きな問題がある。民放はスポンサーの意見には耳を傾けるが、NHKは「出資者」であるはずの視聴者の声を、番組づくりに強く反映しているとは言い難い。
熱心に見えるのは、日本一の規模で行う連続テレビ小説などの番組PRや、利益相反であるはずのテレビ批評家との浅からぬ関係である。NHKに対して視聴者が抱く反発や冷ややかな視線は、こういった姿勢にこそ原因があると見る。
NHKがNetflixやU-NEXTのような動画配信サービスと同じく、課金している人しか観られないシステム(スクランブル化)にすれば、こうした不満や反発は一発で収まるはずだ。NHKもスクランブル化の導入をそろそろ具体的に研究し始める時期ではないか。
NHKが魅力に満ちた番組を流し、国民から信頼されていれば、スクランブル化しても組織は十分に維持できるはずだ。ちなみにNetflixは、2015年の日本上陸以降、会員数を伸ばし続け、現在は1000万人に達している。
NHK側は受信料支払いを求める法的根拠として「放送法」を挙げるが、この法律が施行されたのは1950年。朝鮮戦争勃発と同時期だ。メディア環境は当時から激変している。そろそろ「公共放送のあり方」について国民的議論をすべきだ。
議論を尽くした結果、「やはりNHKの存在は社会に絶対不可欠」という結論に至り、国民が納得したならば、イギリスのBBCのように「支払いは市民の義務」とし、未払い者には罰則を設ければいい。そうすれば受信料支払率は大幅な向上を見込めるはずだ。逆に、国民がスクランブル化を望んだら、そうするしかないのではないか。なにしろ「皆さまのNHK」なのだ。
まずは、置き去りにされている形である視聴者の声を聴くことだ。番組づくりも受信料の制度設計も、視聴者の意見をほとんど聞かずに突き進んでいるから、NHKと視聴者の距離は縮まらない。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
