【taka :a(大石敬之)】なぜ日清食品はどん兵衛の”具材を捨てる”道を選んだのか…カップ麺のタブーすら恐れないチャレンジの「勝算」

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1976年(昭和51年)8月9日の発売以来、多くのユーザーに愛され続けている「どん兵衛」。販売元の日清食品といえば、安さで勝負する価格競争から脱却し、ブランドエクイティ(ブランド資産)を武器に付加価値で勝負する企業だ。

そんな思想をさらに突き詰め、研ぎ澄ました商品が登場した。「日清のどん兵衛 鰹だしの極みうどん」と「日清のどん兵衛 鰹だしの極みそば」だ。単なる製品開発の域を超え、成熟市場で成長を続けるための「ミニマリズム経営」の極致――実際に食べてみると、その狙いがよく分かった。

年間1000食以上のカップ麺を食す「カップ麺研究家」、大石敬之氏のレビューと分析をお届けする。

インパクトは強くても“上品さ”極わる

さて、まずは「日清のどん兵衛 鰹だしの極みうどん」から解説しよう。

通常、ふりかけのような魚粉は“食べる直前に入れる”商品が大多数を占めているが、本商品の「特製鰹粉」は“熱湯を注ぐ前に入れる”、つまり先入れの粉末スープのような扱いとなっているため、調理の際は留意してほしい。

その「特製鰹粉」を入れた瞬間から、鰹の強烈な芳香が主張してくる。そして、お湯を注いで待つこと5分――。

待機中にも鰹の勢いは増していくが、5分後に「芳醇鰹だし(液体スープ)」を放った途端、粉末スープで味を決める通常の「どん兵衛」とは明らかに異なる臨場感に驚くだろう。例えるなら“老舗の暖簾をくぐった瞬間”のような、あのホッとするだしの香りに極めて近い。

さらに仕上げの「追い鰹節」をトッピングした瞬間、だしや魚粉のそれとは異なる芳ばしさが鼻腔を駆け抜け、脳天に刺さる。しかし、下品ではない。だしの密度や香りのインパクトは強いのに、いざ口に運ぶと上品な思想が伝わってくる。

本商品には、定番商品のような東西によるテイストの違いはない。近年のどん兵衛が推し進めている、麺・つゆ・具材・七味「ぜんぶ東西分け」の仕様とは異なり、全国共通の設計だ。また使用しているうどんはおなじみの油揚げ麺なので、それだけに驚きや新鮮味こそないものの、ここには開発者の緻密な計算が垣間見える。

「鰹だしの極みうどん」に採用された麺は、2024年9月上旬のリニューアルで刷新されたコシの強い東日本向けではなく、より繊細で優しい西日本向けの質感だ。

定番の「きつねうどん」と比較すると、今回のような変わり種の麺重量は、やや控えめ(マイナス12%)に設定されている。そのため麺1gに対する熱湯の比率が通常品と違い、若干ながら柔らかめに仕上がるが、けっして弱くない。

むしろ、これが絶妙な効果をもたらしている。通常品よりもわずかに柔らかく仕上がることで、鰹のインパクトがよりダイレクトに伝わってくるのだ。

天ぷらこそ入っていない。けれど…

そして、同時発売品の「日清のどん兵衛 鰹だしの極みそば」も負けていない。

うどんの液体スープは「芳醇鰹だし」となっていたが、そばには「コク旨鰹だし」を採用している。うどんと比較して醤油に立体感があり、甘さも強めにチューニングした設計だ。その甘さの効かせ方で実に巧妙で、心地好い余韻が長く続く。

「特製鰹粉」と「追い鰹節」は共通のアイテムになるが、そば粉の風味や甘濃いベースとの兼ね合いで、つゆと鰹の調和がより強固なのは間違いなくそばだ。また、こちらにも西日本向けのフライそばを使用しているため、それらの魅力がダイレクトに伝わってくる。

いつもの天ぷらこそ入っていないけれど、その分“純粋に鰹の魅力とそばの風味だけに集中できる設計”と思えば、けっしてネガティブではない。むしろ食べ進めるごとに味覚が研ぎ澄まされていく感覚は、既存の「どん兵衛」にはない“新境地”といっても過言ではないだろう。

食品業界では「参加型消費」が注目されている近年。キャンプ飯やスパイスカレーが人気なのも、食べる側が最後の仕上げに携われるからだ。それが今回の「追い鰹節」によって体験できる。

「追い鰹節」を投入した瞬間、食べ手自身が料理人になる。

日清食品が出した「ひとつの答え」

今回の商品を実際に食べて感じたのは、具材を犠牲にしてまで鰹だしに振り切ったインパクトはもちろん、あらためて日清食品のブランド戦略の巧みさにも驚かされた。

現代の消費者は、情報も商品も過剰な時代を生きている。だからこそ、本当に価値のあるものに回帰する傾向が強まっている。それは食品だけではない。ビジネスも同じだ。機能を増やし続ける企業よりも、顧客が求める本質的な価値に集中する理念のほうが強い。

どん兵衛 鰹だしの極み」は、そのことを一杯のカップ麺で証明してみせた。具材をなくす。普通なら弱点になりそうな要素を逆手に取り、最大の武器に変えた。まさに「選択と集中」であり「ミニマリズム経営」の実践例でもある。

また本商品の開発背景において、ローソンで爆発的なヒットを叩き出した「スープ激うま!」シリーズを何度も手掛けてきた日清食品だからこそ、その手応えも大きかったのではないかと感じている。

どん兵衛は、うどんやそばを売っているのではない。日本人が慣れ親しんできた「だし文化」を売っている。そして半世紀近く積み上げてきたブランド資産があるからこそ「具材がない」という大胆な戦略も難なく成立する。

何を加えるかではなく、何を捨てるか――。それこそが成熟市場で生き残るための重要な戦略だと、今回の50周年記念商品が物語っている。

「鰹だしの極み」は、単なる期間限定品ではない。半世紀にわたり日本の食文化を支えてきた日清食品が「いま消費者は何を求めているのか」という問いに対して示した、ひとつの答えなのである。

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