悔し涙を見せ物にしなかった。日本代表FW後藤啓介(フライブルク)は、北中米ワールドカップ決勝トーナメント1回戦・ブラジル戦の試合終了直後、涙を流すFW上田綺世をテレビカメラから守るように立ちふさがった。その行動には、世界の舞台で戦った先輩への敬意が込められていた。

 グループリーグ第2節・チュニジア戦でW杯デビューを果たしたものの、後藤はブラジル戦でピッチに立てず。それでもベンチから試合を見守った。サッカー王国を相手にも「勝てると思っていた」。前半29分にMF佐野海舟が先制ゴールを決めて「いけると思った」。後半からブラジルが戦い方を変えてクロスを連発し、日本が守勢に回る。「強いなと思った反面、何か自分にできることはないかという思いもあった。いろんな感情で見ていた」。そう語る後藤は敗戦後、涙を流す仲間一人ひとりに寄り添っていた。

 ハイドレーションブレイクでは水の入ったボトルを一人ひとり仲間に手渡し、その姿勢を長友佑都にも称賛された後藤。X(旧Twitter)では、敗戦後の上田の涙を映そうとするテレビカメラに対して、険しい顔をした後藤が背中で視界を遮る映像が話題になった。

「悔しいのは当たり前というか、それだけ懸けてきて8年間積み上げてきたものがあるわけで」。そう上田の涙を慮る後藤は自身の行動心理を語る。

「テレビも仕事だとわかっているけど、別にわざわざ泣いている選手を撮る必要はない。涙は見せ物じゃないので。テレビとしては盛り上がると思うけど、それだけの思いがあってやってきた選手たちのそういう姿を映すべきではないと思った」

 敗戦後に森保一監督の挨拶を終え、円陣を解いた選手やスタッフたちはゆっくりとピッチを下がっていった。歩き始めていた後藤だが、一番最後まで座っていたDF伊藤洋輝を気にかけてストップ。GK大迫敬介とともに伊藤のもとに寄り添い、ハイタッチで労をねぎらった。チーム最年少は自身が出られなかった悔しさを内に秘めながら、最後まで仲間たちへの思いやりを忘れなかった。


(取材・文 石川祐介)