高市早苗首相

写真拡大

 いわゆる“中傷動画疑惑”が長引いている。昨年10月の自民党総裁選や今年2月の衆院選で、高市早苗陣営が他候補を中傷する動画を投稿していたと「週刊文春電子版」が報じたのは4月29日のこと。あれから約2カ月が経とうとしているのに、まだ国会での追及が続いている。なぜ騒動は鎮静化しないのか、危機管理のプロに聞いた。

 ***

【写真を見る】「激ヤセ」する前の高市首相 現在と比較すると「まるで別人」

 そもそも中傷動画疑惑とは、自民党総裁選では対立候補であった小泉進次郎氏や林芳正氏、衆院選では中道改革連合の枝野幸男氏、岡田克也氏、安住淳氏らを標的とした動画が投稿されたことにより、いずれも落選。その動画の作成を高市首相の公設秘書から依頼されたと、ITエンジニアの松井健氏が告発したというものだ。政治部記者が言う。

高市早苗首相

「たとえ報道が事実であっても、自民党総裁選に公職選挙法は適用されません。衆院選の場合は公選法違反の疑いが浮上しますが、問題の動画内で言われているように、中道候補が『無能で炎上!』や『息を吐くように嘘をつく』というのが“虚偽事項”であるかを証明するのは正直言って難しい。あとは松井氏に対して利害の誘導があったかという点でしょう。少なくとも高市首相に罪が及ぶとは考えにくい。高市さんには物価高対策や刑事訴訟法改正、皇室典範改正などなど、もっと急いでやるべきことがあるんですけどね」

 では、なぜ高市首相はいつまで経っても疑惑を払拭できないのか。株式会社リスク・ヘッジの代表取締役会長で危機管理コンサルタントとして多くの企業を支援してきた田中辰巳氏に聞いた。

「危機管理と一口に言っても、予防と事後に分けられます。高市さんが追い込まれているのは、そのどちらも上手く行えていないことが原因と思われます」

依頼の反作用

「まずは高市さんの秘書が松井氏とオンライン会議をしていたのなら、自分がどういった内容を話し、相手が何を言ったのか記録を取っておくべきでした。オンライン会議ならそのまま録画も可能ですから」(田中氏)

 高市首相は秘書と松井氏には一切面識がないとしてきたが、6月5日の参院予算委員会で秘書がオンライン会議を行っていたことを認めて訂正した。これがまた虚偽答弁として追及されている。

「会議では得てして、相手の受け止めがこちらの意思とは異なることがあるものです。ですから記録する必要があるのです。特にリスクに繋がるような案件の場合、禁止事項を明示しておく必要があります。もし秘書が動画の作成を依頼していても、露骨に『誹謗中傷してくれ』とは頼まないでしょう。しかし、相手はそう受け止める可能性がある。『高市の応援はしても、相手を貶めるようなネガティブなものはやめてくれ』と伝える必要があり、それを記録しておかなくてはなりません」(同)

 予防にはもう一つあるという。

「作用に目を奪われて反作用を見落としてしまうことです。ネット世論を味方につけるにはどうしたらいいか、その道のプロに相談したとします。当然、相手からアドバイスをもらえるという作用があるわけですが、一方で依頼した相手が勝手に動き出すという反作用があるんです。先ほどの話とも繋がりますが、『高市をよろしくお願いします』といった依頼をすれば、相手はライバルの評価を下げようとする反作用を起こす可能性がある。作用と反作用を必ず注視しておかなければなりません。そうでないと度の過ぎた誹謗中傷が行われてしまう可能性があるからです。相手の人柄や意図を見た上で、マイナスの行動が行われないよう常に警戒しておかなければいけませんでした」(同)

 そして事後、つまり記事が出てからの危機管理である。

無実は証拠で示せ

「危機の本質を見極めた上で考えると、処方箋は4つしかありません。“折れる”“戦う”“防ぐ”“かわす”です。今回、高市さんは“防ぐ”を選択すべきところを“戦う”を選んでしまいました」(田中氏)

 どういうことだろう。

「疑惑を指摘する記事が出てしまったのは仕方がありません。そこから70%から80%の失地回復を狙うのが“防ぐ”のやり方です。具体的に言えば、100%こちらが悪いわけではないことを主張しつつも、『当方の伝え方が曖昧だった可能性がある』と自らの間違いも認めることです。高市さんのように『動画作成は一切行っていない』とか『週刊誌の報道は認めない』などと言って100%の失地回復を狙う“戦い”を行ってしまうと、かえって責任逃れに見られてしまうのです」(同)

 高市首相にはもう一つ失敗があったという。

「証拠を示すことなく“灰色回答”をしたことです。高市さんは当初、『秘書がこう言っている』『秘書は面識がないと言っている』という言い方をしていました。でも、秘書が言ったことが事実かどうかなんて分からないのですから、マスコミや世論は納得しません。それよりも証拠を示して無実を示すべきなのです。企業で不祥事が起きた際、ヒアリングを行うに当たって私が必ず言う言葉があります。『白の人間は証拠で無実を示し、黒やグレーの人間は言葉で無実を主張する』。ですから、先ほど言った記録が重要になってくるのです」(同)

 さらにもう一つ、高市首相には大きな失敗がある。

消えた“高市スマイル”

「高市さんは文春の記事に怒りを露わにしました。『文春の有料会員になろうとは思わない』とか気色(けしき)ばんでいましたが、これも間違いです。危機管理としてはどんな時でも論理的に冷静に語ることが大事なんです。具体的にはこう言えばよかった。『5W1Hで事実関係を整理し、明確にしていく案件と捉えています。第三者の目で判断していただきたいので、調査委員会もしくは司直に判断を委ねたい』。選挙違反の疑いがあると言うなら、司直に調べていただきたいと主張するのです。『総理大臣なので(抗議などを行う)そんな暇はない』なんて言うから、かえって怪しく思われてしまうのです。“気色ばむと危機の景色が悪くなる”という言葉もあるくらいですから」(田中氏)

 たしかに、いつもの“高市スマイル”は見られない。それこそが野党が狙う“高市下げ”の成果かもしれない。

「今回、動画を依頼したと報じられているのは公設第一秘書です。いわば“高市社長の第1秘書”のようなものですから、高市さんには教育責任と管理責任があるわけです。高市さんがそれらを徹底していれば、今回のように長引くことはなかったと思います。ことほど左様に危機管理というのは事前からの準備が重要なのです」(同)

関連記事【社長会見は何を間違えたのか 今からでも可能なフジテレビの危機管理法】では、中居正広氏のトラブルに揺れたフジテレビの例をもとに、田中氏が危機管理の正しい方法について深掘り解説している。

デイリー新潮編集部