皇室典範改正案 「旧宮家」へ皇統が移る恐れも
女性・女系を排さず議論し直せ
象徴天皇制の根本を変えかねない法改正だというのに、今国会中に拙速に成立させようとするとは、政府・与党の見識を疑わざるを得ない。
政府は、皇室典範改正案を閣議決定し、国会に提出した。自民党と日本維新の会の与党と、一部野党が賛成すれば衆参両院で可決、成立する見通しだ。
改正案は、戦後に皇籍を離れた旧11宮家の男系子孫である一般男性を、皇族の養子に迎えて皇族とする仕組みと、女性皇族が結婚後も皇室に残る制度が柱だ。いずれも、多くの問題を抱えている。
立法府の「総意」どこに
養子本人には皇位継承資格を認めない一方で、法案では新たに、養子が皇族となった後に生まれた子が男子なら継承資格を持つ、という規定を設けた。
事前の与野党協議では、養子の子の身分については意見がまとまらず、「立法府の総意」では触れられなかった。
この協議では、皇位継承のあり方の議論を棚上げし、公務を分担して天皇を支える皇族数の確保策の検討に論点が絞られた。「総意」も、そうした内容だったはずだ。
ところが、政府は与党の主張に沿って、皇族確保策を皇位継承の安定化の話にすり替えるかのように、旧宮家の男系男子による皇位継承に道を開いた。唐突な決定であり、由々(ゆゆ)しき事態を招く。
養子の子に皇位継承資格を与えるかどうかは、天皇制の核心にかかわる。結論を出せないまま「総意」を高市首相に提示した国会もふがいないが、政府は「総意」を利用して、腹案の実現を目指した、と言われても仕方あるまい。
仮に養子制度が実現した場合、どんな事態が生じるか。
政府内では、旧宮家の男性がいずれかの皇族の養子となった後、一般の女性と結婚するといった流れが想定されている。
だが、一般人として生まれ育った旧宮家の男性が、一般女性と結婚し、生まれた男子が皇位継承資格を持つと言われても、多くの国民は納得できるだろうか。
秋篠宮さまの長男の悠仁さまに男子が生まれない場合には、今の天皇家の皇統は途絶える。
家族の一体性保てるか
そうなれば、戦後、象徴天皇として常に国民に寄り添い、国民から敬愛を受けてきた現在の天皇家の系統から、皇統は約600年前の室町時代に分かれた旧宮家の系統に移ることになる。日本の歴史にとって重大な転機といえる。
また改正案は、女性皇族の夫と子については皇族とせず、一般人のままとしている。与野党協議では夫と子の身分について折り合えず、「総意」でも曖昧だった。
夫と子が一般人であれば、家族内で、女性皇族には姓がないのに対し、夫と子には姓があるということになる。いびつな制度だと言わざるを得ない。
与党は、家族の一体性が大事だとして夫婦別姓問題については、家族は同じ姓であるべきだと主張している。女性皇族の一家の一体性はどうでもよいというのか。
しかも、結婚した女性皇族は自治体に住民登録されて一般市民のようになる一方で、選挙権は与えられず、戸籍もないまま、単に公務を務めるためだけの皇族という位置づけとなる。
女性皇族に結婚後も身分を維持し、公務を担ってもらうことには意義がある。より皇室制度を安定させるには、一代限りとせず、「女性宮家」として家族一体で皇族とすることが筋だろう。
とても静謐と言えない
政府・与党は皇位継承のあり方に踏み込むのであれば、首相も認めているように「静謐(せいひつ)な環境」で議論し、より幅広い与野党合意を目指さねばならない。
皇室典範改正案に対し、立憲民主党の水岡代表が「だまし討ちのようだ」と批判するなど、野党には反発が広がっている。
衆院定数削減法案などを巡る与党の強引な国会運営を受け野党は衆参両院で審議拒否に転じた。
憲法は天皇の地位は「国民の総意に基づく」と定めている。天皇制に関する制度の変更は、国民を代表する立法府で大多数の合意に基づき、進めるべきだ。
とても「静謐」とはいえない中で、与党が反対を押し切って改正案を成立させるようなことは、あってはならない。
政府はいったん立ち止まって今国会での改正案成立を見送るとともに、新たに有識者会議を設置して女性・女系天皇の可能性も排さずに皇位継承安定化の抜本策の議論を仕切り直す必要がある。

