西暦79年、イタリア・ナポリ近郊にあるヴェスヴィオ火山の噴火により、ポンペイやヘルクラネウムといった古代ローマの都市が壊滅しました。そんなヘルクラネウムの遺跡から発掘された黒焦げになった古代ローマの巻物を、物理的に広げることなく1巻丸ごと解読に成功したと報告されました。

Complete virtual unwrapping and reading of a rolled Herculaneum papyrus - main.pdf

(PDFファイル)https://scrollprize.org/pdf/main.pdf

An entire Herculaneum scroll has been read for the first time | Vesuvius Challenge

https://scrollprize.org/firstscroll

Complete text of carbonised Herculaneum scroll unlocked for first time | Reuters

https://www.reuters.com/science/complete-text-carbonised-herculaneum-scroll-unlocked-first-time-2026-06-25/

ヴェスヴィオ火山の噴火で火山灰に埋もれたヘルクラネウムには、ユリウス・カエサルの義父であるルキウス・カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスが所有していたとされる邸宅があり、「パピルス荘」とも呼ばれている建物からは炭化した巻物が多数発掘されました。ヘルクラネウム・パピルスと呼ばれるこれらの巻物は、高熱によって炭化してもろくなっており、物理的に広げて読もうとする試みはパピルスを粉々に破壊する結果に終わりました。

そこで2023年3月、ケンタッキー大学の研究者やGitHubのCEOを務めた経歴もあるナット・フリードマン氏らが中心となり、X線を用いた透視技術とAIを組み合わせて巻物を解読した研究チームに賞金を出す「ヴェスヴィオ・チャレンジ」というプロジェクトがスタートしました。

2023年10月にはついに最初の単語を解読した人物が現れ、2024年2月には初年度の優勝チームが発表されました。その後もプロジェクトは継続しており、記事作成時点では合計4巻の巻物のスキャンデータが提供されています。

火山噴火で黒焦げになった古代ローマの巻物をAIで解読するコンテスト「ヴェスヴィオ・チャレンジ」の優勝チームが発表される - GIGAZINE



そして2026年6月25日、「PHerc. 1667(ヴェスヴィオ・チャレンジでは『巻物4』と呼ばれる)」という巻物を1巻丸ごと解読したという成果が発表されました。アメリカ・イタリア・イギリスなどの研究チームは、「これはデジタル的に展開され、最初から最後まで完全に読まれ、継続的な学術研究に利用できるようになった最初のヘルクラネウム・パピルスです」と述べています。

以下は今回解読されたPHerc. 1667。完全に炭化して、触れたそばからボロボロと崩れ落ちそうなことがわかります。もともとは約19〜24cmの大きな巻物でしたが、19世紀から20世紀にかけてたびたび開封が試みられたことで外側の層が破壊され、約8cmのコンパクトな芯のみが残ったとのこと。



以下の「b」はPHerc. 1667を縦に切った断面図、「c」は横に切った断面図。パピルスはくしゃくしゃに丸められているようです。



研究チームはPHerc. 1667を物理的に広げる代わりに高解像度のX線でスキャンし、巻物内部の巻かれた紙片を再構築して平らにした上で、機械学習を用いて古代のインクの微かな痕跡を浮かび上がらせました。以下は巻物を平らにした表面とそこに残るインクの痕跡を示したもので、ギリシャ文字が列になって記されていることがわかります。



今回解読された文書は人間の本性や衝動、道徳的進歩を主題とした倫理に関する哲学論文だそうで、ストア派の著作であることが示唆されています。最後に残された欄には、紀元前3世紀のストア派哲学者であるクリュシッポスのおいであるアリストクレオンの名前が記されており、紀元前2世紀に記されたものと考えられています。

ギリシア語から翻訳された文章には、「we will inquire into something, but we will not grasp it, if in some way we depart from ourselves and from our own nature(もし何らかの形で自分自身や自らの本性から逸脱してしまうならば、私たちはある事柄について探求することはあっても、それを真に理解することはできないだろう)」といった内容が記されているとのこと。

ケンタッキー大学のコンピュータサイエンス教授であり、ヴェスヴィオ・チャレンジ創設者の1人であるブレント・シールズ博士は、「ほんの1年前であれば、何百ものテキスト列を含むスクロール全体を、まったく非侵襲的に読み取れるようになるなんて誰も信じなかったでしょう。今日、私たちはそれが可能であることを皆さんに示しました。私は、このコレクションにある巻物すべてを読破できると信じています」とコメントしました。

PHerc. 1667を解読するために使われたソフトウェアのコードは、GitHubで公開されています。

GitHub - ScrollPrize/villa: The Vesuvius Challenge monorepo · GitHub

https://github.com/ScrollPrize/villa

今回の発表はソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも話題となっています。スレッドにはヴェスヴィオ・チャレンジチームの一員だという人物も現れ、さまざまな質問を受け付けています。

An entire Herculaneum scroll has been read for the first time | Hacker News

https://news.ycombinator.com/item?id=48675179

verditelabsというユーザーネームであるこの人物は、2026年3月に巻物にX線を照射していた欧州シンクロトロン放射光研究所を訪れ、貴重な巻物を扱う機会があったとのこと。verditelabsはこの出来事を振り返り、「人生でこれほどストレスを感じたことはなく、これほど貴重な遺物を扱う機会は二度とないでしょう」と述べ、研究チームが成し遂げたすべてのことを誇りに思うとしています。



また、機械学習によって誤った文字やテキストが検出されることはあるのかという問いには、機械学習がインクを誤認することは十分にあり得るものの、それはごく局所的なレベルだと指摘。文字のストロークを少し長く予測したり、実際より多い範囲を塗りつぶしたりする可能性はあるものの、文法的にも慣用的にも正確なギリシャ語やラテン語のインク検出が誤認される可能性は低いとのことです。