内田梨瑚被告に懲役27年の判決、なぜ重い「強盗殺人」ではないのか 弁護士が解説
北海道旭川市で女子高校生が殺害された事件の裁判で、旭川地裁は6月22日、内田梨瑚被告(23)に懲役27年の判決を言い渡しました。
この判決について解説する記事を弁護士ドットコムニュースで配信したところ、「軽すぎるのではないか」「なぜ強盗殺人ではないのか」といった疑問が複数寄せられました。同様の声は、SNSなどでも見られます。
こうした声の背景には、内田被告らが被害者にPayPayで無理やり送金させようしたなどと報じられていたことがあると思われます。
なぜ強盗殺人罪にはならないのでしょうか。簡単に解説します。
●本記事の内容
・刑法240条後段の「強盗殺人」と「強盗致死」は法定刑が同じだが、強盗殺人は財産を奪う段階での「殺意」の立証が必要で、よりハードルが高い。
・強盗は未遂でも、人を死亡させれば既遂になる。「お金を奪えたか」は決め手ではなく、その手前の「強盗といえる暴行・脅迫」があったかが問題となる。
・強盗罪の暴行・脅迫と、殺人罪の実行行為とされた暴行・脅迫は別で検討しなければならない可能性がある。
・強盗の暴行・脅迫は「お金を奪うため」のものである必要があり、送金前までにどのような暴行・脅迫があったのかを立証しなければならない。
・また、強盗には「反抗を抑え込む程度」の暴行・脅迫が必要で、自分で送金させる形は恐喝にとどまる可能性がある。
・恐喝罪での起訴もされていないことを考えると、送金前までの暴行・脅迫の立証が難しかったのではないかと考えられる。
●「強盗殺人」と「強盗致死」の違い
まず、言葉を整理します。
強盗罪は、暴行や脅迫を使って他人のお金や物を奪う犯罪です(刑法236条1項、5年以上の有期拘禁刑)。
強盗を行った人が、その際に人を死亡させると、刑罰は死刑または無期拘禁刑だけになります(刑法240条後段)。通常の殺人罪(死刑・無期・5年以上の拘禁刑)よりも刑の幅が狭く、より重い方に寄っています。
少し難しい話になりますが、この刑法240条後段は、実務上は2つの場合に区別されています。
1つは、財物を奪うために暴行・脅迫を行い、殺すつもりはなかったが結果として死なせてしまった場合(これを「強盗致死罪」と呼びます)。
もう1つは、殺して財物を奪うつもりで殺害した場合(これを「強盗殺人罪」と呼びます)。
条文の文言では区別されておらず、法定刑は同じです。なお、最高裁も、刑法240条後段には殺意のある強盗殺人も含まれるとしています(最高裁昭和36年(1961年)5月24日判決)。
ただ、具体的な量刑は当然ながら強盗殺人罪の方が重くなります。
「強盗殺人で問えないのか」という声が多いため、この記事では殺意のある「強盗殺人罪」を念頭に検討します。
ただし、強盗殺人罪の立証では、後で説明するように、財物を奪おうとする段階で殺意があったことまで証明する必要があり、強盗致死よりもハードルが高くなります。
●「送金があったか」は決め手ではない
実際にPayPayでの送金の事実があったかどうかは明らかではありませんが、この点は強盗殺人の成否を決めるものではありません。
強盗がお金を奪えずに終わった場合(強盗未遂)でも、その機会に人を死亡させれば、強盗致死(強盗殺人)は「既遂」になるからです(最高裁昭和24年(1949年)2月22日判決など参照)
●ハードル1 暴行・脅迫が「財産を奪うため」のものか
強盗殺人罪成立の最初のハードルは、「財産を奪うため」の暴行があったかどうかです。
強盗になるには、単に暴行・脅迫があっただけでは足りません。その暴行・脅迫が「財産を奪うために向けられたもの」である必要があります。
そのため、本件での具体的な時系列がどのようなものだったのかが問題となります。
たとえば、被害者が呼び出され、PayPayの送金が終わった後で、被告の暴行・脅迫がエスカレートしていったとします。そして最終的に被害者が死亡したとします。
この場合、後半の(今回の裁判で殺人罪の実行行為とされた)暴行・脅迫は、財産を奪うためのものではありません。あくまでも殺害に向けられたものと評価されます。送金は、その前にすでに終わっているからです。
したがって、この場合には財産を奪うための暴行・脅迫はなく、強盗罪が成立しません。
●ハードル2 「反抗できなくさせる程度」だったか
次のハードルは、暴行・脅迫の強さです。
強盗罪が成立するためには、被害者が反抗できなくなるほどの強い暴行・脅迫が必要です。これに達しない場合は、より軽い恐喝罪(刑法249条、10年以下の拘禁刑)にとどまります。
本件のPayPay送金の場合、被害者が自分でスマートフォンを操作して送ったとすると、仮に送金させるための暴行・脅迫があったと認定できたとしても、それが「反抗できない」レベルの暴行・脅迫といえるかが問題となります。
裁判例では、激しい暴行・脅迫の後にいったん被害者を解放し、その後で借金の肩代わりを求めた事案で、裁判所は、被害者が自分から支払う「能動的な行為」を求められていたことなどから、強盗にいう反抗ができなくなる程度には達していないとして、強盗致傷ではなく恐喝未遂と傷害にとどまると判断しました。(福岡高裁平成29年(2017年)9月19日判決)
もちろん、「被害者が自分で送金したから恐喝止まり」というような形式的な問題ではなく、あくまで、その送金の時点で、被害者が反抗できないほど追い詰められていたかどうか、という中身が問われる点には注意が必要です。
なお、「結局、命を奪うほどの暴行を加えているのだから、反抗を抑圧していたに決まっている」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、先に述べたとおり、強盗かどうかを判断する際に見るのは、あくまで「財産を奪うため」に行われた暴行・脅迫です。仮に送金が終わった後にエスカレートし、最終的に被害者の死を招いた場合、エスカレート後の暴行・脅迫は、財産奪取のためのものではありません。
したがって、いくら最終的な暴行が激しかったとしても、それを根拠に「送金時点で反抗を抑圧していた」とはいえないのです。問われるのは、あくまで送金させた時点での暴行・脅迫が、反抗できなくさせるレベルだったか、という点です。
●強盗殺人罪の場合は「殺意」の立証も必要
「強盗殺人罪」の責任を問うには、さらに「殺意」を証明しなければなりません。(強盗致死罪の場合は不要です)
本件では、最終的に殺人罪の成立が認められていますが、それは「強盗殺人罪」としての「殺意」ではありません。
つまり、財産を奪おうとしている時点、本件であればPayPay送金時の殺意を立証しなければなりません。
先にあげたような時系列だったとすると、その立証は非常に困難でしょう。
●立証するのは検察官
刑事裁判では、犯罪を証明する責任は検察官にあります。しかも、「合理的な疑いを差し挟まない程度」という、かなり高いレベルの証明が必要です。
たとえば、見ず知らずの相手に高額の送金をしていたり、被害者が逃げにくい状況だったりしたとすれば、強い脅しがあった可能性は十分あります。
しかし、被害者が「これ以上もめたくない」と考えて支払った可能性を否定しきることは難しく、強盗の証明としては不十分になりえます。検察官も、こうした立証は難しいと考え、強盗殺人での立件を見送ったのではないかと考えられます。

