【なぜ今】連載終了から24年『天は赤い河のほとり』がアニメ化される「納得の理由」

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’26年7月、連載終了から24年を経た累計2000万部の少女漫画『天は赤い河のほとり』(原作・以下同:篠原千絵)と、「このマンガがすごい!」女性編で1位を獲得した『天幕のジャードゥーガル』(トマトスープ)がアニメ化される。

歴史マンガのアニメといえば、原泰久の大ヒット作『キングダム』や『チ。―地球の運動について―』(魚豊)の話題も記憶に新しく、ここ数年、アニメの中で歴史ジャンルの存在感は明らかに増している。

しかし、マンガ・アニメのIP(知的財産)市場調査を専門とし、業界最大級のカンファレンス『IMART』を主催する一般社団法人MANGA総合研究所代表理事の菊池健氏は、少し異なる見解を示している。

ではなぜ、近年の歴史マンガのアニメ化が目立つのか。そこには、現在のアニメ業界とグローバル市場ならではの事情があった。

アニメ急増の裏にある配信事情

『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『推しの子』など、近年は毎クールのように話題作が生まれている。

背景にあるのは、動画配信サービスの急成長だ。テレビ放送だけでなく、スマホやPCで好きなタイミングに視聴するスタイルが定着し、アニメ市場そのものが拡大した。実際、日本動画協会の調査によると、’24年のTVアニメ新規タイトル数は254本。’05年の136本から約2倍に増えている。

「私たちが行った’23年の調査では、近年のアニメ全体に占める漫画原作の割合は約45%で、次に小説原作が約25%でした。ただ、小説原作の多くはコミカライズを経由しているので、漫画原作ともいえます。合計すると約70%。アニメ市場の拡大に伴って、現場では常に原作を探し続ける状態になっているため、必然的に漫画原作のアニメが増え続けているのでしょう」

アニメの本数が増えた分だけ、漫画原作の需要も高まっている。では、なぜここまで大量のアニメが作られるようになったのか。

「以前は製作委員会方式といって、多くの企業が出資し合って意思決定しながら作るのが一般的でした。しかし現在は、Netflixのような配信プラットフォームが単独で出資・買い付けするケースが増えています」

また、これまでは数年かけてDVDなどの物販で制作費を回収するのが一般的だったが、現在は配信プラットフォームが放送前に作品を買い付けるケースが増えた。つまり、作る前から回収の目処が立つ構造になったのだ。

「例えば『転生したらスライムだった件』(原作:伏瀬、漫画:川上泰樹)は、放送前から回収が見込めていたという話もあります。以前より作りやすい環境になったことで、アニメの本数そのものが増えているんです」

世界でウケる歴史モノの強み

では、数あるジャンルの中で、なぜ歴史マンガは大きな存在感を放っているのか。菊池氏は、その理由のひとつに「結末を知っていても楽しめる強さ」を挙げる。

「例えば織田信長は、これまで何度も大河ドラマに出ていますよね。彼が何をするのかや本能寺の変で死ぬといったことも、みんな知っています。それでも、『今年の信長はどういう解釈なの?』というのが楽しみで、つい見てしまうんです」

すでに歴史的なメインストーリーと結末を知っているから、史実にない余白部分での遊びを素直に楽しめる。それは国境を越えても同じだと菊池氏は言う。

「例えば『キングダム』は、中国の人たちはファンタジー作品として楽しんでいるそうです。元になった史記の記述に余白が多いこともあって、史実と違う部分も、『この作品ではそういう解釈をしているのか』と楽しめるんです」

さらに今、歴史ジャンルには世界的なトレンドの後押しがある。韓国発のロマンスファンタジーが世界中でヒットし、後宮や王宮を舞台に女性が活躍する物語への需要が急速に高まっているのだ。

「近年は女性主人公の作品が非常に強く、漫画化や映像化も多い、世界的な人気ジャンルになっています。代表的なのが『薬屋のひとりごと』(日向夏)です。後宮を舞台にしたミステリーとロマンスを掛け合わせた同作は、国内だけでなく海外でも人気があります。

この夏アニメ化される『天は赤い河のほとり』と『天幕のジャードゥーガル』も、まさに今の世界的トレンドと重なる部分があります」

24年前の名作が今ウケる理由

『天は赤い河のほとり』は、現代の中学生・鈴木夕梨(ユーリ・イシュタル)が紀元前14世紀のヒッタイト帝国に召喚され、宮廷の陰謀に巻き込まれながら第三皇子カイルと共に戦う物語だ。タイムリープ、後宮ロマンス、異文化ファンタジー。今の人気ジャンルにも通じる要素を数多く備えている。

しかし、連載終了からはすでに24年が経っている。

「旧作のアニメ化自体は、業界では珍しくありません。例えば『うしおととら』(藤田和日郎)は1996年に連載終了し、19年後の’15年にアニメ化されています。原作が完結している作品は構成を組みやすく、制作側にとっても扱いやすいんです」

ただし、旧作ならなんでもいいわけではない。

「重要なのは、今の市場トレンドと噛み合うかどうかです。その点、『天は赤い河のほとり』は非常に現代的です」

菊池氏が挙げるのが、「異世界転生モノ」との近さだ。

「ここ数年、異世界転生モノは大きな人気ジャンルです。『天は赤い河のほとり』は異世界転生ではありませんが、現代の少女が別の時代の異国へ飛ばされるという構造はかなり近い。’90年代の作品ですが、古さを感じにくいんです」

さらに、舞台が古代ヒッタイト帝国であることも大きいという。

「『キングダム』が中国圏で興味を持たれたように、『天は赤い河のほとり』も、かつてヒッタイト帝国が存在したエリアで受け入れられる可能性があります。日本では馴染みのうすい地域ですが、現在の海外配信時代ではそうした地域性も武器になるんです」

加えて、海外でウケる仮説が成立することも大きい。

「実際、ギリシャ神話をベースにしたウェブトゥーン『ロア・オリンポス』(レイチェル・スマイス)は、アメリカの漫画賞を2年連続で受賞しています。国内市場だけではなく、世界市場でヒットする可能性は十分にあります」

一方、『天幕のジャードゥーガル』は、13世紀のモンゴル帝国を舞台にした作品だ。イラン出身の少女シタラ(後のファーティマ)が、知識と知恵を武器に後宮で生き抜いていく物語で、「このマンガがすごい!」女性編では歴史マンガとして初めて1位を獲得した。

「こちらも、女性主人公×後宮モノという現在のトレンドにしっかり乗っていますし、モンゴル帝国や中央アジアという舞台設定は、海外視聴者にとっても新鮮です。欧米では日本も中国も含めて、大きく『アジア作品』として楽しまれる傾向があるので、その中で注目される可能性は十分あります」

さらに、制作陣への期待も大きい。

「総監督をつとめる山田尚子さんは『けいおん!』(かきふらい)や『聲の形』(大今良時)などを手がけた方ですし、アニメーション制作のサイエンスSARUは『ダンダダン』(龍幸伸)や『平家物語』(脚本:吉田玲子)などの話題作を送り出しているスタジオです。歴史モノにはもってこいの強い布陣だと思います」

次にくる「歴史マンガ」は?

菊池氏は、こうした歴史マンガのアニメ化ラッシュは、今後も安定した需要は続くと見ているという。

「歴史ジャンルが特に人気があるとは言いにくいのですが、昔からある定番ジャンルなので、これからも一定数は作られ続けると思います。そこに今は、後宮ロマンスや女性主人公といった世界的な人気要素が重なっています。そういう意味では、アニメ化の流れはしばらく続く可能性があります」

では、次に映像化される可能性がある歴史マンガには、どんな作品があるのか。菊池氏に、あくまでも個人の見解として聞いてみた。

菊池氏がまず名前を挙げたのが、『センゴク』(宮下英樹)だ。戦国時代を舞台に、武将・仙石秀久の生涯を描いた作品で、緻密な時代考証でも知られている。

「’22年に完結していて、シリーズ全体の蓄積もあります。原作ストックが十分にあり、構成を組みやすいのはアニメ化において大きな強みです」

さらに、近年の人気トレンドである「転生×歴史モノ」として、『淡海乃海 水面が揺れる時』(原作:イスラーフィール、漫画:もとむらえり)にも注目しているという。

「現代の知識を持った主人公が戦国時代の小国の武将・朽木基綱に転生し、成り上がっていく作品です。小説、コミカライズ、ドラマCD、舞台化と展開も幅広く、IPとしてかなり勢いがあります」

また、海外市場との相性という観点では、『戦国小町苦労譚』(原作:夾竹桃、漫画:沢田一)の名前も挙がった。農業高校に通う女子高生が戦国時代へタイムスリップし、現代の農業知識を活かして織田信長に仕える物語だ。

「女性主人公、戦国時代、タイムスリップと、今の人気要素をかなり押さえています。最近よく読んでいるんですが、女性らしい発想で活躍するのが面白いですね」

そして個人的にアニメ化してほしいと挙げたのが、『乙嫁語り』(森薫)。19世紀の中央アジアを舞台に、遊牧民の暮らしや結婚文化を描いた森薫氏の人気マンガだ。

「中央アジア圏の人たちに、自分たちの歴史や文化に近い作品として受け入れられる可能性が高いと思います。海外配信時代だからこそ、こうした地域性を持った作品は強いと思うんです」

歴史マンガは、まだまだ発掘の余地がありそうだ。この夏スタートする『天は赤い河のほとり』と『天幕のジャードゥーガル』が、世界でどう受け取られるのか注目したい。

▼菊池健 一般社団法人 MANGA総合研究所代表理事。マンガ・アニメのIP市場調査を専門とし、業界カンファレンス『IMART』を主催。noteでは『マンガ業界Newsまとめ』を発信している。著書に『漫画ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

取材・文:安倍川モチ子

WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。