FIFAワールドカップ2026(サッカーW杯)が開幕。全試合生中継の権利をもつ配信サービスDAZNでは、分かりにくい年間契約のシステムが問題になった。ITジャーナリストの神田ポール敏晶さんは「DAZNは謝罪したが、消費者を惑わせるダークパターンの契約だったことは間違いない」という――。
写真=iStock.com/jcamilobernal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jcamilobernal

■W杯中継権をもつDAZNが炎上

4年に一度のフットボールの祭典、サッカーワールドカップ(W杯)が開催され、日本中、いや世界中のサッカーファンのボルテージは最高潮に達している。

今大会はNHKでもBS4K放送を含めて、104試合が放送されるものの、生中継は34試合のみ。104試合全てを「リアルタイム」でライブ配信する権利を完全に掌握したのは、スポーツ動画配信の巨人「DAZN(ダゾーン)」だけである。放映権料は約300億~350億円と推定される。

NHKでは録画放送が多く、録画放送直前の「デイリーハイライト」でゲーム結果を先に伝えてしまい、結果を知ってから試合の録画を見るという残念な視聴体験も生まれている。

そんな中、テレビの大画面だけでなく、スマートフォンやタブレットを片手に、いつでもどこでも歴史的瞬間を目撃したいと、そう願う多くのファンが、DAZNへの加入、あるいは再加入を検討および契約をした人が多いだろう。しかも、サッカーのみの視聴だと「980円」というプランの掲示が踊る。

■月額980円で解約できると思われた

しかし、そのファンの期待に冷や水を浴びせるような事態が、6月11日ごろからSNSを中心に急速に拡大している。

「あまりにもトラップすぎる」
「これは新手のダークパターン(消費者をだますWebデザイン)ではないか」

X(旧Twitter)上には、怒りと困惑の投稿が殺到し、瞬く間にトレンド入りした。

問題となったのは、W杯全試合が視聴できるとして期間限定で投入されたサッカー特化型プラン「DAZN Soccer(サッカー)」の料金表示である。画面に大きく躍る「980円」という魅力的な数字。しかし、その甘い言葉の裏には、多くのユーザーが「だまされた」と感じる巧妙な契約ルールが仕掛けられていた。

■途中解約できず年間2万6000円超

問題のタイムセールは、4月21日から8月30日までの期間限定で提供されている「DAZN サッカー」プランのキャンペーンだ。7月20日までに申し込むと、「最初の3カ月は月額980円」で視聴できるという触れ込みだったからだ。

通常、全コンテンツが視聴できる「DAZN スタンダード」が月額4200円(月間プランの場合)であることを考えれば、サッカーのみに特化しているとはいえ「980円」は破格に見える。「W杯の期間中だけ契約し、大会が終わったら解約すれば安上がりだ」と判断したユーザーが続出したのは、当然の心理と言えるだろう。Netflixのように1カ月で解約すればよい……?

しかし、ここに落とし穴があった。この「DAZNサッカー」は、「年間プラン(月々払い)」の契約が絶対条件だったのである。

■月額1980円のプランもあったが…

つまり、最初の3カ月こそ月額980円で済むが、4カ月目からは通常の月額2600円が請求され、それが12カ月目まで強制的に続く。途中でサービスを見なくなったからといって、解約することはできなかった(6月18日現在は解約可能となった)。

1年間の契約期間内に解約しようとしても、残りの月数を一括、あるいは毎月支払い続ける義務が生じる。結果として、ユーザーが最終的に支払わなければならない総額は最低でも2万6340円にのぼるからである。

一方で、全コンテンツ対応の「DAZNスタンダード」にも最初の3カ月が月額1980円になるキャンペーンが用意されていた。こちらは「月間プラン」を選択できるため、W杯期間を含む2カ月だけ契約して解約すれば、総額3960円で済む。

■1年縛りはよく見なければ分からない

DAZNのプラン選択画面では、このスタンダードの「1980円」と、サッカーの「980円」が並べられていた。予備知識のないユーザーの目には、当然のように「サッカープランの方が安くてお得」と映る。肝心の「年間プラン(12カ月の縛り)であること」や「途中解約不可」という文言は、スマートフォンの画面をスクロールしなければ見えづらい場所や、極めて小さな文字でしか記載されていなかった。

問題となったDAZNの契約画面 ※2026年6月11日時点(出典=DAZN)

「980円で見られるなら得だと思い、年間契約と知らずに申し込んでしまった」
「W杯が終わったらやめるつもりだったのに、2万6000円の出費が確定して絶望している」

カスタマーサポートに「誤解して契約した」と訴えても、システム上、また規約上解約はできないと突っぱねられたという報告が相次いだ。ネット上では「2万6000円が消える新手の詐欺」とまで形容される事態に発展したのである。

一部の人からは「画面をよく読めば年間プランと明記されている。不注意なユーザーの自己責任であり、詐欺と呼ぶのはお門違いだ」という冷ややかな声もある。しかし、この画面設計そのものが、現代のデジタルマーケティングにおける最大の闇である「ダークパターン」の典型例であることは疑いようがない。

写真=iStock.com/Hispanolistic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hispanolistic

■消費者を惑わす「ダークパターン」

「ダークパターン」とは、Webサイトやアプリのユーザーインターフェース(UI)を巧妙に設計し、消費者が無意識のうちに自分にとって不利な、あるいは事業者に有利な行動(契約や購入、個人情報の提供など)を取るように誘導する設計手法のことだ。

2010年にイギリスのUXデザイナー(ユーザーエクスペリエンスの専門家)、ハリー・ブリヌル(Harry Brignull)が提唱した概念であり、近年、各国の消費者保護当局が規制に乗り出している。

ダークパターンにはいくつかの典型的な手法がある。今回のDAZNのケースに当てはまるのは、主に以下の3つだ。

①「隠蔽(Misdirection)」事業者にとって不都合な情報(年間契約の義務や途中解約不可の条件)を、目立たない色や小さな文字で配置し、ユーザーの目を意図的に逸らさせる。

②「視覚的ヒエラルキーの悪用」最も安価に見える「980円」という数字だけを巨大なフォントや目立つ色で強調し、「これは月単価ではなく、長期契約の罠である」という構造を視覚的に隠す。

③「おとり効果(Decoy Effect)」より高いプラン(1980円)を隣に並べることで、目的のプラン(980円)を過剰に「割安」だと誤認させる。

■DAZNが異例の「お詫び」

実は、DAZNがダークパターンで批判を浴びるのは今回が初めてではない。過去にも「退会手続き」のボタンが何重ものアンケートや確認画面の裏に隠されており、スムーズに解約できない仕組みが「解約阻止(Roach Motel)」として国内外で問題視された経緯がある。

今回の炎上を受け、SNSでの批判の加熱とメディアからの問い合わせが相次いだ結果、DAZN側もついに動かざるを得なくなった。

変更されたDAZNの契約画面 ※2026年6月18日時点(出典=DAZN)

公式に案内表示の不備を認め、表記の改善や、誤認して契約してしまったユーザーへの救済措置(条件付きの解約対応など)を示唆する謝罪釈明に追い込まれた(下記)。

しかし、一度失った消費者の信頼は容易には戻らない。

【DAZN Soccerの一部期間でのご契約についてのお詫びと今後の対応について】

「ご利用状況およびお申し込み時の状況を確認のうえ、返金その他の適切な対応を個別に実施させていただきます。」

【DAZNサッカーの一部期間でのご契約についてのお詫びと今後の対応について】(出典=DAZN)

さらに、2026年6月18日、DAZNは「DAZNサッカー」の新規受付の停止を発表した。

「当社では本件を重く受け止め、お客様への対応を最優先とするため、本日をもってDAZN Soccerの新規受付を停止いたしました」と説明。キャンペーンプロモーションで悪評が広まるぐらいなら、月額の「スタンダード」プラン(最初の3カ月間1980円、その後、月額4200円)に絞り、シフトさせたい思惑もあるのだろう。

【DAZN Soccerに関するお知らせ】

■外資系サブスクの不都合な舞台裏

筆者は今回のDAZNの料金表示をめぐる騒動を見て、強い既視感を覚えた。これは、日本の通信キャリアが長年展開してきた、あの「携帯端末月額実質2円」ビジネスと構造がまったく同じだからである。

「2年間は月額2円で最新スマホが持てる」と大々的にアピールしながら、その実態は「2年後に端末をキャリアに返却しなければ、3年目からは毎月数千円の残債支払いがスタートし、総額では高額な端末代を支払うことになる」という仕組みだ。入り口のハードルを極限まで下げてユーザーを呼び込み、出口に強固な「縛り」を設けて結果的にキャッシュを回収する手法だ。

これは「2年経過したら端末支払いが高くなる」ことを理解してはいるが、2年後の何月何日までに解約と、Googleカレンダーなどにアラートをいれる人が何%いるのか? ということだ。

少なくとも、通信キャリアから直前に告知が来るものと思い込み、残債支払いが発覚してから気になって調べるというパターンの人が多いのではないだろうか?

■ワールドカップの放映権は高すぎる

そう、この「忘却利率」も計算した上で、この格安実質プランは実施されているのだ。

しかし、なぜ、「DAZN」のようなグローバル配信プラットフォームが、これほどまでに強硬かつ危うい手法に走るのだろうか。その背景には、スポーツ動画配信ビジネスにおける「放映権バブル」の深刻なツケがある。

W杯や欧州主要リーグ、日本のプロ野球やJリーグといった人気スポーツの独占放映権料は、ここ数年で天文学的な数字に高騰している。DAZNは市場を独占するために巨額の投資を行ってきたが、その回収は急務だ。単発のイベント(W杯)期間だけ加入してすぐに抜けてしまう「短期ユーザー」ばかりでは、莫大な放映権料の元が取れない。

だからこそ、経営陣としては何としてでも「ARPU(1ユーザーあたりの平均単価)」を上げ、「LTV(顧客生涯価値)」を最大化したい。その焦燥感が、結果として、ユーザーをだますような形になろうとも「年間プラン」に強制ロックイン(囲い込み)する誤認しやすい画面設計を生み出したと言える。放映権ビジネスの歪みが、「ダークパターン」という形で消費者に転嫁されているのだ。

■国を頼っても「従量課金」される

「だまされた」と感じた消費者は、一体どこに助けを求めればいいのだろうか。

かつて、こうした不当な囲い込みや誤認を招く表示に対しては、独占禁止法や景品表示法に抵触する恐れがあるとして、「公正取引委員会」に調査依頼や情報提供を行うケースが一般的だった。

しかし、公取委への報告は、あくまで行政が市場を監視するためのデータ集めであり、個人の契約を直接解除してくれるわけではない。また、調査結果が個別に報告されることも基本的にはない。

現在、国や自治体が大々的に推奨しているのは、地方公共団体が設置している身近な「消費生活センター」等をご案内する「消費者ホットライン」、通称「188(いやや)番」への相談だ。

だが、ここに現代のもう一つの「罠」が存在する。

この「188」番、いざ携帯電話からダイヤルすると、音声ガイダンスに従って地域の窓口に繋がる仕組みになっているが、多くの場合は窓口に繋がるまでの待ち時間も含め、「ナビダイヤル」による通話料が発生する。これが「20秒ごとに10円」程度の従量課金なのだ。10分相談すると300円、30分相談すると900円の負担となる。

サブスクの罠にかかり、数千円~数万円の被害を免れようと必死になって相談の電話をかけている最中にも、受話器の向こうでは20秒ごとに10円のメーターが回り続ける。混雑でオペレーターに繋がらず、5分、10分と待たされれば、それだけで数百円の通話料が消費者の自己負担として積み上がっていく。

さらに、苦労して繋がったとしても、消費生活センターの対応はあくまで「個別の相談」であり、事情を聴取して「今後の情報提供として承ります」と終わるケースや、事業者との交渉方法をアドバイスされるにとどまることが多い。国や行政の救済システムそのものが、相談すればするほど消費者に「従量課金」を課す構造になっている現状は、極めて皮肉と言わざるを得ない。

■契約前にリスクがわかる情報源

行政のセーフティネットすら完璧ではないデジタル社会において、私たちはどのようにして身を守ればいいのだろうか。数百ページに及ぶ「利用規約」を契約のたびに一言一句読み込むのは、現実的には不可能だ。

そこで、筆者が強く推奨したい最強の自衛ライフハックがある。それは、サブスクリプションサービスを契約(課金)する前に、「Googleマップ」でそのサービスの日本法人のクチコミを調べるという方法だ。

「なぜ店舗でもない配信サービスの評判をGoogleマップで調べるのか?」と疑問に思うかもしれない。しかし、ここには集合知の生々しいリアルが詰まっている。

実際に、今回の件で問題となった「DAZN Japan Investment合同会社」のオフィス所在地をGoogleマップで検索してみると、その評価は「星1.2」(6月18日時点)という驚異的な低数値を叩き出している。

出典=Googleマップ

■Googleマップでクチコミを見る

そこへ寄せられているクチコミの記述は凄惨だ。

「解約したはずなのに請求が続いている」
「カスタマーサポートのチャットボットが無限ループして人間に繋がらない」
「年間契約の縛りが分かりにくすぎる」

SNS(Xなど)の投稿は、時の流れとともに一過性のタイムラインとして流れていってしまう。また、企業側が発信するプレスリリースや、アフィリエイト報酬を目的とした比較サイトのブログには、メリットばかりが強調され、こうした「解約の難しさ」や「隠された縛り」といったネガティブな情報は意図的に排除されがちだ。

しかし、Googleマップの企業の「本社所在地」や「国内拠点」のクチコミ欄は、企業側が簡単に削除することができない。そのため、その企業に対して「本当に激怒した消費者」のリアルな叫びや、トラブルの具体的なパターンが半永久的に蓄積される「駆け込み寺」のようになっているのだ。

■サブスク契約で後悔しないために

外資系テック企業や新興のサブスクサービスは、日本の法律(特定商取引法や消費者契約法)のグレーゾーンを攻めたグローバル基準のUIを平然と導入してくる。利便性の高さの裏に、どれほどの「顧客軽視」や「サポートの杜撰さ」が隠れているかを見極める先行指標として、Googleマップのクチコミ以上に信頼できる一次情報はない。

素晴らしいコンテンツに出会うためのサブスクが、人生の貴重な時間と財産を奪うストレス要因になっては本末転倒だ。

写真=iStock.com/pain au chocolat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pain au chocolat

「安い」「お得」という画面の強調表示を見かけたら、まずは一呼吸置くこと。そしてスマートフォンのマップアプリを開き、その企業の「実態」をのぞき見る。このわずか1分のルーティンこそが、ダークパターンが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する現代を生き抜くための、最も賢明な投資防衛術なのである。

----------
神田 ポール 敏晶(かんだ・ぽーる・としあき)
ITジャーナリスト
1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミング「KandaNewsNetwork」を運営開始。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなどを取材。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任、iU大学客員教授。著書に『YouTube革命』『Twitter革命』『ウェブ3.0型社会』など。
----------

(ITジャーナリスト 神田 ポール 敏晶)