記事のポイント
ジェイクルーとタイメックスの限定コラボ腕時計は発売から2時間以内に完売し、手ごろな価格帯の時計コラボへの高い需要を示した。
ラグジュアリー時計の価格高騰が続くなか、ブランド各社は限定性や希少性を活用した低価格帯コラボで新たな顧客層を取り込んでいる。
時計業界ではスニーカー市場の成功モデルが応用される一方、過度なハイプ依存はコレクター疲れを招くリスクも指摘されている。


オーデマピゲ(Audemars Piguet)とスウォッチ(Swatch)のコラボレーションが時計業界を揺るがしてからわずか数週間後、また別の予想外な時計コラボレーションが飛ぶように売れている。

新たに発売されたジェイクルー(J.Crew)とタイメックス(Timex)の腕時計は、5月27日のデビューから2時間以内に完売したと、ジェイクルーのCMOであるジュリア・コリアー氏がGlossyに語った。価格は200ドル(約3万円)未満であるにもかかわらず、この腕時計はレディット(Reddit)の時計フォーラムを賑わせ、ユーザーたちは入手方法や入手場所について議論を交わした。

手ごろな価格の時計コラボが市場を変える



こうした非常に人気が高く手ごろな価格の時計のコラボレーションがまたしても発売され、それに続く消費者からの好評を博したことは、時計市場の変化を示している。

これまで時計に対するハイプ(過熱した話題)や需要の多くは、ロレックス(Rolex)やヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)といった高価なブランドに集中してきた。

しかし、このような数量限定のコラボレーションにより、ブランドは比較的低い価格で時計を販売しながらも、限定品の時計にともなうハイプやFOMO(Fear Of Missing Out:取り残されることへの恐れ)の恩恵を受けることができる。

消費者が自由裁量による支出を控え、ラグジュアリーブランドがもっとも富裕な顧客に注力するために価格を引き上げるなか、手ごろな価格の時計が輝くチャンスを得ている。

「消費者側から見ると、ラグジュアリー時計市場は価格が高くなりすぎて、ほとんどの買い物客にとって話題の対象から外れてしまった」と、コンサルティング企業のガートナー・コンサルティング(Gartner Consulting)のマネージングパートナーであるジャッキー・スワンソン氏は語る。

「ロレックスのグレーマーケットでの価格高騰、パテックフィリップ(Patek Philippe)の順番待ちリスト、オーデマピゲの割り当て販売など。200〜500ドル(約3万〜7万5000円)のコラボレーションなら、二次流通市場での曲芸のような苦労をせずに、ブランドとのつながりを手にできるのだ」。

文化的資本の構築を狙うジェイクルー



コリアー氏はGlossyに対し、ジェイクルーの狙いは成長を続ける熱心な時計コミュニティに参入することだったと語った。ジェイクルーは2020年の経営破綻以降、文化的資本の構築に注力することで着実に再建を進めてきた。同社の年間売上高は約30億ドル(約4500億円)にのぼる。

「目標は、我々の顧客と、より幅広い時計愛好家の双方の心に響くものを作ることだった。時計コミュニティは信じられないほど情熱的であり、これほど熱心なファン層を持つカテゴリーにジェイクルーならではの視点を持ち込むというアイデアが、我々は気に入っていた」と彼女は語る。

スニーカーの戦略を踏襲する時計コラボ



ジェイクルーとタイメックスの腕時計も、最近のオーデマピゲ、オメガ(Omega)、スウォッチによるコラボレーションも、いずれも2010年代後半から2020年代前半にかけてブランドがスニーカーに手を出したのと似た戦略をたどっている。

スニーカーブランドとのコラボレーションにより、プラダ(Prada)やロエベ(Loewe)といったブランドは、メインブランドの高級価格帯を薄めることなく、時代の空気をとらえ、より手の届きやすい価格で製品を提供することができた。

「スニーカー愛好家は結局、自分には足が2本しかないと気づく。だから自然と関心が手首へと移っていったのだ」と、スイスの時計販売企業スイスウォッチエクスポ(SwissWatchExpo)のCEOであるユージン・トゥトゥニコフ氏は語る。

「戦略はまったく同じだ。伝統的なシルエットにポップアート風の色彩を加え、供給は潜水艦のハッチよりも厳しく制限し、あとはFOMOに任せるのだ」。

ハイプ依存に潜むリスク



しかし、この戦略にはリスクもある。スニーカーをめぐるハイプは、毎日発売される新作ドロップやコラボレーションの圧倒的な量のもとで、やがて窒息しはじめた。

どんなに熱狂的なコレクターでも、出てくるすべてのドロップを追いきることはできない。手ごろな価格の時計コラボレーションはまだ比較的目新しい概念ではあるものの、時計コレクターもやがてハイプ疲れに陥っていく姿を想像するのは難しくない。

「時計がスニーカーの戦略だけに頼れるとは思わない」と、ラグジュアリー時計のマーケットプレイスであるエクスクィジット・タイムピーシズ(Exquisite Timepieces)の創業者ティム・リチャードソン氏は語る。

「時計業界では、コレクターは伝統、職人技、そして本物であることを深く重視する。コラボレーションは大きな注目を集めることができるが、それに無理やり感があったり、純粋にハイプを生み出すためだけに存在したりするものであれば、愛好家はすぐにそれを見抜くだろう」。

[原文:With J.Crew's new Timex collab, watches are starting to follow the hype sneaker model]

Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)