実業家のマイキー佐野氏が、石油備蓄をめぐる「常識」に根本的な疑問を投げかけている。
 
「在庫が20日分あるから大丈夫」--そうした見方が広がる一方で、佐野氏は問題の本質はまったく別のところにあると語る。石油の在庫量は単なる貯蔵庫ではなく、システム全体を循環させるための緩衝材だ。パイプラインの圧力を維持するための充填分、タンク底に残る抜き取り不能な原油、製油所の稼働に必要な最低流動量--こうした「使えない在庫」が日数計算に含まれている。見かけ上20日分残っていても、システムは実態としてもっと早く機能不全に陥る。「何日分残っているかという単純計算はそもそもナンセンスだ」と、佐野氏は一刀両断する。
 
現状はその懸念が数字となって表れつつある。中東の供給損失は3月だけで日量10万バレル、4月には累計10億バレルを超え、世界はかつてないスピードで在庫を切り崩している。モルガン・スタンレーの推計では、約2か月で日量480万バレルが消えた。可視化される石油在庫はすでに2018年以降の最低水準にある。
 
在庫枯渇は4層構造で進むとされる。市場在庫、オフショア商業在庫、政府管理の戦略備蓄、そして最終層--佐野氏は今、第3層の戦略備蓄が削られている段階だと指摘する。IEAが史上最大規模の放出を決定したが、それも無限ではない。OECDの試算では、ホルムズ海峡が閉鎖されたままなら6月中に運用上のストレスラインに達し、9月には最低水準を割り込む可能性があるという。
 
地域ごとの状況も深刻だ。東南アジアは中東産原油への依存が構造的に高く、フィリピンでは400か所超のガソリンスタンドで在庫切れが起きた。欧州では航空セクターが打撃を受け、大手航空会社が大規模な運休を決定している。一方、中国はロシアや中央アジアからの陸路パイプラインで海峡依存を回避し、EV普及でガソリン需要自体を下げながら、膨大な原油在庫を積み増している。
 
エネルギー問題はエネルギーだけでは終わらない。肥料価格の急騰、鉱山運営コストの上昇、食料不安の拡大--石油という血液が滞ると、経済の毛細血管にまで影響は及ぶ。佐野氏はそのつながりを、丁寧に解きほぐしていく。

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現在はアカデミズム関係者・経営者・投資家・学生が参加するビジネススクールも運営