「花粉を媒介する昆虫の減少」が農家の収入減少や栄養状態の悪化を引き起こすことが判明

ハチやチョウなどの花粉を媒介する昆虫は花粉媒介者(送粉者)と呼ばれ、農業において重要な受粉を担う大切な存在ですが、近年は昆虫の生息数が減少していることが指摘されています。実際にネパールの小規模農家コミュニティを調査した新たな研究では、花粉媒介者である昆虫の減少により、人々の収入や摂取する栄養素の低下といった悪影響が引き起こされることがわかりました。
Pollinators support the nutrition and income of vulnerable communities | Nature
Fewer insects, fewer nutritious crops: pollinator decline puts our health at risk | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1126887
'Insect apocalypse' is already fueling malnutrition in some regions, first-of-its-kind study reveals | Live Science
https://www.livescience.com/animals/insects/insect-apocalypse-is-already-fueling-malnutrition-in-some-regions-first-of-its-kind-study-reveals
農作物の受粉において昆虫が果たす役割が大きいことから、昆虫の減少は単に生態系に悪影響を及ぼすだけでなく、農作物の収穫量にも打撃となっています。しかし、一部の推定では年間最大1%という驚異的なペースで昆虫が減少していると指摘されており、世界の食糧安全保障に危機が迫っています。
イギリスのブリストル大学などの研究チームは、昆虫による受粉の減少が人間の経済状況や健康に及ぼす影響を定量化するため、ネパールにある10カ所の農村で1年間にわたる調査を行いました。これらの農村は小規模農家で構成されており、村内で消費される食糧のほとんどは自家栽培されたものだそうです。
研究チームは対象となった農村で、野生の花粉媒介昆虫の個体数や、それぞれの昆虫がどの作物を訪れているのかなどを調査しました。また、村における作物の収穫量や人々の食生活、栄養状態、社会経済的な状況なども調べたとのこと。

分析の結果、昆虫による受粉は村人たちの農業収入の約44%を担っていることが判明。また、ビタミンA・ビタミンE・葉酸といった必須栄養素の摂取量のうち20%以上が、昆虫による受粉のおかげで得られていることも示されました。
昆虫による花粉媒介が減少すると農家の栄養状態は悪化し、病気や感染症に対する脆弱(ぜいじゃく)性が高まり、貧困と栄養状態の悪化という悪循環に陥るリスクが高まってしまいます。研究チームが、花粉媒介昆虫がさらに減少したシナリオをシミュレートしたところ、農業慣行が変わらなければ2030年までに村人のビタミンAと葉酸の摂取量が7%減少すると予測されました。
論文の共著者で、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者であるナオミ・サヴィル氏は、「私たちの研究対象となった子どもたちの半数以上は年齢に対して身長が低かったのですが、これは主に昆虫によって受粉される野菜・豆類・果物に依存した、栄養バランスの悪い食生活が原因です」と述べています。
今回の研究は、花粉媒介昆虫の減少が農村の栄養状態や貧困の悪化につながることを示しています。その一方で、農家が昆虫の増加に役立つ野草を植えたり、農薬の使用を減らしたり、在来種のミツバチを飼育したりするといった取り組みが花粉媒介昆虫の数を増やし、人々の幸福度を高める可能性も示唆されています。
シミュレーションでは、さまざまな取り組みによって花粉媒介昆虫の数を増やすことで、農業収入を現在の水準から最大30%増加させ、ビタミンAと葉酸の摂取量をそれぞれ5%と9%増加させることができる可能性があると示されました。

論文の筆頭著者であり、ヨーク大学の生態学者であるトーマス・ティンバーレイク氏は、「生物多様性はぜいたく品ではありません。それは私たちの健康や栄養、そして生活の基盤となるものです」と述べました。
