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後継機が出る!? ともっぱらの噂のNintendo Switch。噂の真偽は定かではありませんが、出るのだとしたらどこが変わるのか、どんなゲームができるようになるのか……気になりますよね。

そもそも2017年にリリースされて以来、約8年間という長い期間、幅広い層に圧倒的な人気を誇り続ける本機。その人気の秘密はなんなのでしょうか。

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フィリップ・アングレーさん(写真左)、中川亮さん(写真左)。Tokyo Game Show 2024の会場にて。

今回ギズモードは、そんなSwitchの人気の秘密を探るには「Nintendo Switchでプレイできるゲームを開発する会社」に話を聞けばいいのでは? と考え、ゲーム開発会社「Virtuos」、北アジア統括役員のフィリップ・アングレーさんとプロジェクトマネージャーの中川亮さんにインタビュー。

そもそもゲームコンソール自体のパワーが比較的少ないNintendo Switchへ、他プラットフォームでプレイされているゲームを移植することは至難の業。そんな難しい作業を得意とするVirtuosに、現場から見るNintendo Switchの人気の秘密について伺いました。

Virtuosのゲーム開発

ーーVirtuosはゲーム開発で、具体的にどんな仕事をするのですか?

フィリップ・アングレー(以下、アングレー):部門が二つありまして、片方はエンジニアリングやゲームデザインを行ういわゆる「開発部門」で、もう片方は3Dやアニメーション、コンセプトなどを行う「アート部門」です。

品質管理やローカライゼーション、マーケティングなどは行わず、パブリッシャーでもないので、ゲーム開発における“開発”に専念している会社ですね。

我々のミッションはクライアントが求める、より大きな規模のゲームをより短い期間で完成させることです。そのために追加で開発用のチームやアーティストを提供します。

また、例えばクライアントがPC向けゲームの開発経験しかなく、コンソールなど他のプラットフォームでも展開したいとなった場合、クライアントと協力して“ゲームの移植”を行います。

というわけで、開発のさまざまな場面で必要な人員を提供するのが我々の仕事ですね。

ーーどのようなタイミングで開発に関わるのですか?

アングレー:最初から関わるということもあれば、途中参加ということもあります。

最初から関わることになると、プロトタイプの製作などに関わって、50人や100人くらいのチームを提供。ベンチマークを可能にし、スケジュールを決める手助けをします。

途中から加わる形だと、必要に応じてチームを補強することもありますし、リリース直前の最終段階に入ってから方針が変わって対応プラットフォームを増やすなんてことになって、ほとんど移植に近い作業をすることもあります。とにかくどんな段階でも対応できるようになっていますね。

ーー世界中に拠点がありますが、日本のオフィスではどんなことをされているのですか?

アングレー:会社としては15年以上に渡って日本のゲーム会社と仕事をしてきています。最初に関わったのは『ファイナルファンタジーXIV』でした。

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(現在もサービスが続いているので)その開発には関わり続けていますね。その他にもいろいろなクライアントと共に、たくさんのゲームを手掛けてきました。

昨今のゲーム開発は昔に比べて非常に複雑で、昔だったら簡単に言えば「この表にあるものを期限内に作って」というような依頼内容でしたが、今は、例えばキャンペーン内の1時間ほどのステージを作るとした場合、コンセプト、デザイン、プレイヤー・エクスペリエンス、ボス、AI、戦闘システム、ストーリーなどを決め、そこからキャラクターのモデリングをし、エンジンに組み込んで、ライティングやエフェクトを加えて、さらに最適化まで行わなければなりません。製作過程が複雑化しているのです。

我々はそういったものを効率化し、クライアントにはゲームのストーリーやプレイをより面白く、より大きくするために注力してもらうための時間を作り出すという役目を担っています。

そういう協力体制ではテクニカルレベルでのやり取りが必要になるので、日本にオフィスを構え、クライアントと我社のプロデューサーやデザイナー、プログラマーが日本語で直接コミュニケーションを取りながら、それを中国、ベトナム、マレーシア等にいる他のチームメンバーに繋いでいくという形になっています。

中川亮(以下、中川):最近は僕らの会社も色々なことができるようになってきたので、いろんなアイデアやデザインをこちらから提案できるようにもなりまして、開発の複雑なところにも入れるようになってきました。

また、日本のクライアントからすると、やはり日本語でテクニカルで複雑な内容を開発者目線でやり取りできるというのは安心できるわけです。なので、より近い位置でコミュニケーションができるように東京にもオフィスを構えることになりました。

Nintendo Switchは、どこでもすぐ遊べて価格も手頃

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ーーNintendo Switchの後継機がそろそろ来るんじゃないかと言われていますが、多くの移植を手掛けてきたVirtuosから見て、後継機に期待するものはなんですか?

アングレー:まずはもちろんゲーム機としてのパワーですね。ただ、任天堂のゲームは非常に独自で素晴らしいアートスタイルを持っているのが魅力であり、超リアルな路線とは一線を画しています。

超リアルなゲームを作ろうとするとそれ相応のパワーが必要になりますが、任天堂のゲームはあえてその路線を狙わない戦略を取り、そのかわりにユニークさを重視しているので、パワフルさに注力したものにはならないでしょう。

ーーNintendo Switchはいわゆるゲーマーではない人たちにもヒットした製品ですが、開発会社の目線からしてどうしてあのようなヒットに繋がったんだと思いますか?

アングレー:まずどこでも遊べる携帯ゲーム機だというところが大きいですよね。またもう一つの要素としては、日本だけに限らず世界中の人々に愛されるコンテンツを任天堂が持っているというのが大きいでしょう。

また、ゲーム機として革新的であり、クオリティが高く、値段に対しての価値が高いというのもあるでしょう。それらの要素が重なって世界中で大ヒット製品になったのだと思います。

中川:(据え置き機に比べて)電源を入れたらすぐゲームができるというレスポンスの速さも魅力となっていると思いますね。

あとはやっぱり価格ですね。最近の据え置き機は結構高くて買えないという人が多いと思いますが、Switchはバランスがいい価格帯になっていると思います。

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ーーNintendo Switch向けのゲームを開発する上で独自の難しさはありますか?

アングレー:(据え置き機と比べて)パワーで劣る部分があるので、最適化をたくさんする必要があります。ここで言う最適化とはCPUやGPUに負担がかかるようなアートをダウングレードして、調整するという作業ですね。

かなり難しく、作業量が必要となるケースもあって、開発会社として力が割けないとなった時に我々が加わって、そういった作業を担当するということがあります。その間、元の開発会社は別の作業に力を注ぐことができるんです。

「移植」は我々の仕事の中でもメインのうちの1つで、経験やノウハウもたくさんあるので、限りなく据え置き機に近い移植を実現できます。

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楽しくなかったらゲームとしては成功ではない

ーーPCもコンソールに加えてモバイルなどなどゲームで遊べるプラットフォームがいろいろありますが、近年特に伸びてると感じるプラットフォームはありますか?

アングレー:むしろ今の流行としては「クロスプラットフォーム」だと思います。1つのゲームを世界中のプレイヤーがあらゆるプラットフォームを通じて遊べるようになる、良いトレンドになっていますよね。

ただそれはゲーム開発の難しさにもつながっています。あらゆるプラットフォームで同じクオリティの体験を世界同時に展開することが求められていますからね。

ーー現在のゲーム開発で一番難しい部分は何だと思いますか?

アングレー:アイデアです。新鮮で革新的なアイデアを生み出すにはクリエイティブでなくてはなりません。しかし、ただそれだけではなく、プレイヤーに楽しさを提供しなければなりません。素晴らしいアイデアであっても、楽しくなかったらゲームとして成功には繋がらないんですよ。

最近のテクノロジー面で言えば、例えばUnreal Engine 5のような使いやすさでも性能面でも素晴らしいツールがあり、あらゆるプラットフォームのゲームで活用できますが、だからこそゲームを楽しくするアイデアを生み出すことが大事になります。

中川:クリエイティブな方面ではそうなりますね。また別の路線だと、例えばオンラインゲームだと人気が集中していて、新規のタイトルがなかなか参入できず、入ってきてもすぐにサービス終了なんてこともあります。ある種の賭けです。そこが難しさですよね。

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