玉山鉄二、深川麻衣らの共演で挫折したカメラマンの葛藤と成長を映す「今はちょっと、ついてないだけ」
ドラマ「笑うマトリョーシカ」で櫻井翔演じる人気政治家の秘書を演じた玉山鉄二。現在は間宮祥太朗主演のクライムサスペンス・連続ドラマW-30「ハスリンボーイ」が配信中だ。そんな玉山が13年ぶりに映画で主演を務め、深川麻衣と共演したのが2022年に公開された「今はちょっと、ついてないだけ」だ。
原作は「四十九日のレシピ」や「ミッドナイト・バス」が映画化されたことでもおなじみの伊吹有喜。「パーフェクトワールド 君といる奇跡」の柴山健次が監督を務めた。本作の舞台は、環境も年齢も異なる男女が一緒に生活するシェアハウス。玉山が演じているのは、かつて秘境を旅するTV番組が人気で脚光を浴びたカメラマン・立花浩樹。深川がメイクアップアーティストになる夢に挫折した美容部員・瀬戸寛子を、仕事も家庭も失った元テレビマンの宮川良和を音尾琢真が、事務所からリストラされたお笑い芸人・会田を団長安田(安田大サーカス)が演じている。
華やかだったバブル時代など、時系列がシャッフルされる映像の中、浮き彫りになるのは玉山が演じる主人公の"挫折と葛藤"。その閉ざされた心に光が差し込むまでの過程を丁寧に表現した演技が素晴らしい。
■カメラを捨てていた主人公を動かした元テレビマンと美容部員
立花と宮川はそれぞれの母親が同じ施設に入居し、「息子がカメラマンだった」と話したことが出会いのきっかけ。宮川の母から「退院の際に写真を撮ってほしい」と依頼されて病院に行くものの、スマホを手に持った立花に宮川は不満を漏らす。立花は、一旦は撮影を断ったが、宮川親子が仲睦まじそうに話している姿に心を動かされ、思わずシャッターを切る。その写真を気に入った宮川の母は、バレエを習っている孫の公演のパンフレットの撮影も依頼。しかし、妻や娘から愛想を尽かされている宮川は、泥酔して思わず立花に愚痴を漏らすのだった...。
一方、シェアハウスで暮らしていた美容部員の瀬戸は、同居人たちが引っ越してしまったことで立花と宮川と暮らすことに。立花は依頼された家族などの人物写真を宮川とコンビを組んで撮ることになり、そこで瀬戸はメイクを担当することに。PCで立花の作品を見て思わず目を見開き、「何者だろう?」と瀬戸が立花をじっと見るシーンは印象的だ。人生に鬱々と悩んでいた3人の距離が、写真を通して縮まっていく。
■立花の長い空白の年月を自然の息吹と仲間が満たしていく
世界各国をまわり、自分で火を起こし、通称「天使のコーヒー」を煎れ、料理もする。アウトドアライフを伝える立花の番組は、かつてはお茶の間に大人気で、親世代から子供世代に伝えられていた。そんなスターカメラマンに降りかかった逆境は物語の後半で明らかにされる。
「もう一度ブレイクしたい」と写真を依頼してきた芸人・会田と湖にロケに行き、得意だったカヤックに乗りながらカメラを向けたり、滝のそばで自然の匂いや生命力を全身で感じ、目を閉じて深呼吸する場面では、立花が輝いていた頃の人生を想像させる。滅多に感情を出さず、過去を消すように生きてきた不器用で真面目な主人公を、玉山が落ち着いた演技で丁寧に表現した。やがて、「今はちょっと、ついてないだけ」という優しいタイトルが、見る人の心にゆっくり、じんわりと染み渡っていく。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
今はちょっと、ついてないだけ
放送日時:2024年11月22日(金)21:00〜
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます