終活」では何をしたらいいのか。日本総合研究所のシニアスペシャリスト、沢村香苗さんは「老後をひとりで過ごす可能性が高い人は、個人で『終活』を進めていく必要がある。まずはノートを用意し、自分に関する情報を整理することから始めるべきだ」という――。(第2回)

※本稿は、沢村香苗『老後ひとり難民』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/shironosov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironosov

■「老後ひとり」の人が考えるべき「終活」項目8つ

高齢期に家族の助けが得られない「老後ひとり難民」は社会問題になりつつあります。

心身の衰えにともなう生活上のトラブルから死後の対応まで、その問題は多様で複雑です。

現在のところ、残念ながら「これさえやっておけばいい」という理想的な解決策はありません。

「老後ひとり難民リスク」が高い方や、自分の親など身のまわりにリスクが高い方がいる場合は、さまざまな公的機関や専門職、民間事業者のサポートの活用を検討しながら、現段階では個人で「終活」を進めていく必要があります。

私がこれまでの調査研究を踏まえて定義した終活分野は、次の8項目です。

(ア)日常生活に必要なこと(運転、掃除、買い物、食事の用意など)
(イ)入院時の保証人・医師の説明の同席・つき添い
(ウ)入院費、家賃、その他のお金の支払いの手続き
(エ)介護保険サービス選びや契約の手続き
(オ)延命治療に関する考えを医師などに伝えること
(カ)亡くなったあとの葬儀やお墓の手配
(キ)亡くなったあとのペットの世話(譲渡するなども含む)
(ク)亡くなったあとの財産の配分や家財の処分

■9割の人は「老後準備」に何をしたらいいのかわかっていない

8項目について、日本総研が50〜84歳の方約2500人を対象に準備状況を調査したデータが図表1です。

※横須賀市・稲城市の住民2,512人(50〜84歳)に対するアンケート調査〔出典=人口減少・単身化社会における生活の質(QOL)と死の質(QODD)の担保に関する調査研究事業(日本総研、2023年3月)〕

8項目について「具体的に頼んである」「おおまかに頼んである」「依頼はまだだが頼む相手は決めている」「頼む相手がいない・決めていない」のいずれかを選択してもらった結果ですが、「依頼はまだだが頼む相手は決めている」という回答が4割ほどを占める項目が多く、またすべての項目で「頼む相手がいない・決めていない」という回答が2〜4割ほどという状況であることもわかります。

同調査では、「自分の病気や要介護・死亡時に周囲の人が手続きできるよう備えたい」かどうか、「備える場合に難しい点」は何かについても尋ねています。

調査結果からは、9割を超える人が「備えたい」と思っている一方で、そのタイミングや、すべきことがわからないと感じていることがうかがえます。

■まずはここだけ考えよう! 終活の3大ポイント

この8つの項目に関しては、いつどのように準備していくべきなのでしょうか?

先ほどお伝えしたように、「ここに頼めば安心」「これだけやれば絶対大丈夫」という解決策は、残念ながらありません。

また、従来であれば家族が個別に解決してきた分野であるため、「老後ひとり難民」の場合、何が必要で何をすべきかが明確に定まっているわけでもありません。

それでも、できる分野から準備を進めていくことが大切です。具体的には、次の「終活の3大ポイント」を行っておけば、少なくとも問題が“大炎上”してしまうことは防げるのではないかと思います。

(1)自分に関する情報を整理する

自分の代わりに動いてくれる人の連絡先(電話番号)、延命治療に関する希望、お墓などの納骨場所、関連する契約(死後事務委任契約や任意後見契約)、遺言書などを整理しておく。

(2)契約・依頼を明確にする

(1)で整理した情報について、自分の代わりに動いてくれそうな人に、どんなときに何をしてほしいか、あらかじめ依頼をしておく。必要な場合は、「代わりに動いてくれそうな人」や専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)、「身元保証等高齢者サポート事業者」などと契約を結んでおく。

(3)自分がいなくても情報が伝わるようにしておく

(1)と(2)について、たとえ自分の意識がなかったり死亡したりしたとしても、情報が周りに伝わるようにしておく。

「何をしていいかわからない」という場合は、まず(1)の「自分に関する情報の整理」をしておくだけでも、周囲の人が助かります。

■「エンディングノート」を活用するのもおすすめ

情報をどう整理するか迷ったら、「エンディングノート」を書いておくのがよいかもしれません。

写真=iStock.com/Abdullah Durmaz
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エンディングノートとは、自分の人生の終末期におけるさまざまな希望や意思を記録しておくためのノートのことです。自分が倒れて意識不明になったり亡くなったりした場合、周囲の人や病院のスタッフに自分の意向を伝えるための重要なツールとなりえます。

一般的には、延命治療に関する希望、葬儀やお墓に関する希望、財産の分配方法、大切な人へのメッセージなどの記入欄が用意されています。特別な形式があるわけではないので、市販品を使ってもいいでしょうし、必要な項目をパソコンでまとめてもかまいません。

ただし、エンディングノートを書くだけでは機能しないことに注意が必要です。

「大事なものだから」「人には秘密にしておきたいことを書いたから」などと考え、うっかり誰にもわからない場所にしまってしまうと、肝心なときに見てもらえないということになりかねません。

エンディングノートは、いざというときに必ず見つけてもらえるように準備することが重要です。どんなに情報をまとめていても、どんなに仲のよい親族がいても、自分しかその存在を知らなければ、意味がありません。実は、これが「老後ひとり難民」になるかどうかを分ける重要なポイントなのです。

■情報をまとめておかないとお別れもできない

2024年6月10日放送のNHK「クローズアップ現代」で、ひとり暮らしの女性が急病で搬送されて亡くなり、海外にいた娘さんの電話番号が不明だったために、死亡した病院のある市が身寄りがないと判断し、火葬したことが取り上げられました。

娘さんと女性は頻繁にLINEで連絡していて、女性からの返信がないことを心配し、娘さんは知人や警察に依頼して家を見てもらったり、救急搬送の履歴を調べるなど、懸命に安否を確認しました。

しかし、女性が亡くなったことを知った頃には、すでに火葬が済んでおり、娘さんは最後にお母さんの顔を見てお別れをすることもできませんでした。

とても悲しい行き違いですが、スマートフォンですべてやりとりすることの多い現代では、実は、市役所や病院などの第三者が、ある人の大事な人や親族に連絡を取ることはとても難しくなっているのです。

だからこそ、自分が伝えられない状態になったとしても、大事な人の電話番号などの必要な情報が第三者にわかるようにしておく必要があるのです。

■「終活」は「防災」と同じ

救急車で運ばれる場合、救急隊員の方はできるだけ財布と鍵を一緒に持っていくといわれます。また、運び込まれた人の意識がない場合などは、病院のスタッフが持ち物を確認することになります。

沢村香苗『老後ひとり難民』(幻冬舎)

通常、財布のなかは必ずチェックしてもらえるので、倒れた場合の緊急連絡先やエンディングノートをしまっている場所などの情報は、紙にメモして財布に入れておくのがおすすめです。

なお、いざ倒れたときに救急隊員の方に持ち出してもらうべきものを袋にまとめ、玄関などに置いておくのも一つの方法です。倒れる場所が自宅とは限りませんが、外出先で倒れたとしても、誰かに取りにきてもらえるかもしれません。

緊急連絡先を記入したエンディングノートや、入院となった場合に手元にないと困るものを入れておくようにすれば、物事がスムーズに進む可能性が高くなります。

このような準備は、防災と同じです。

災害はいつ来るかわかりませんから、防災準備は早めにやっておくにこしたことはありません。いつまでに準備を終えるか、期限を決めて取り組むことが肝要です。

親が「老後ひとり難民」になることが心配な方は、「私も一緒にやるから」といって誘い、一緒に取り組んでもいいかもしれません。

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沢村 香苗(さわむら・かなえ)
日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト
精神保健福祉士、博士(保健学)。 東京大学文学部行動文化学科心理学専攻卒業。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。国立精神・神経センター武蔵病院リサーチレジデントや 医療経済研究機構研究部研究員を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。2017年よりおひとりさまの高齢者や身元保証サービスについて調査を行っている。
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(日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト 沢村 香苗)