【小山 のぶよ】いまトルコでお騒がせ中国人観光客が激増している…! 現地で何が起きているのか
日本人の海外旅行離れの一方で、中国人観光客が増えている
「日本人の海外旅行離れ」が叫ばれて久しい。つい最近、日本人のパスポート所持率が人口の17%しかないという衝撃的なデータも発表され、海外旅行好きとしては一抹の寂しさを感じる。
日本人にとっての海外個人旅行の黄金時代と言えるのは、2000年代後半から2010年代後半にかけての10年ほどの期間であろう。
今では考えられないほどの円高を背景に、格安航空会社網の充実によって割安で移動ができるようになったことや、スマートフォンの普及によって情報が得やすくなったことなどに後押しされ、多くの旅行者が異国の地での旅をわりと気軽に楽しんでいたように思う。
いっぽうで、2020年代に入ってからは、気軽な海外旅行へのハードルがぐっと上がってしまった。
円安、疫病、物価高騰、混迷する世界情勢……など、さまざまな要因があるのだろう。海外滞在中である筆者も、日本人旅行者に出会う機会が数年前に比べてぐっと減ったことを肌で感じている。
2010年代に気軽に海外を旅していた日本人旅行者と入れ替わるように、近年多くの国々で激増しているのが中国人旅行者だ。
もちろん、中国の人口は日本と比べ物にならないほど多い点は大きな要因であろう。しかし、それだけだろうか。
筆者が実際に各地を旅して経験したことを踏まえ、海外を旅する日本人旅行者が激減し中国人旅行者が激増している背景を考察していきたい。
トルコで見える異変
日本人にとって、古くから人気の旅行先である国の一つがトルコだ。豊かな歴史とエキゾチックな雰囲気、バラエティー豊かな見どころの数々は、多くの旅行者を魅了してきた。
トルコで特に人気の観光地が、大地からにょきにょきと生えたかのような奇岩が有名なカッパドキアと、白い石灰棚にブルーの温泉水が溜まった神秘的な光景が見られるパムッカレだ。
いずれの観光地にも、旅行者にとって食事や宿泊の拠点となる町がすぐそばにあるのだが、実際に足を運ぶと驚くだろう。
中華レストランが軒を連ね…
飲食店やホテルの半数に中国語表記があり、中には中華料理を専門に提供する大規模なレストランが軒を連ねるエリアもあるくらいなのだから。
こうした中華料理レストランは、中国人の団体観光客や個人旅行者をメインの客層としている。地元のトルコ人は、まずこうした店を利用しない。トルコの観光地に林立する中国語の看板の多さは、中国人旅行者がいかに多いかを示している。
日本人観光客が減少し、和食レストランが閉店
では、日本人旅行者向けに和食を提供するレストランはどうなのか。残念なことに、カッパドキアとパムッカレのいずれの観光地にも現在は存在しない。かつてパムッカレには日本人が経営する小さなレストランがあったが、日本人旅行者の減少にともなってか閉店してしまったのだ。
かつては日本人旅行者をカモにして、高価な絨毯を売りつける詐欺師やぼったくりバー被害などの悪名も高かったイスタンブールでさえ、日本人旅行者の減少にともなってターゲットを中国人旅行者に変更しつつある。そんな噂も耳にするくらいだ。
ジョージアでも中国人観光客が激増…!
筆者は現在、トルコのお隣のジョージアという国に滞在している。ジョージアは日本人にとってメジャーな旅先ではないため、そもそもの日本人旅行者の数自体が限られている。
こうした背景から、トルコの状況とジョージアの状況を単純に比較することはできない。しかしながら、一つだけ目に見える変化がある。
2024年に入ってから中国人旅行者の数が明らかに増えたのだ。
大型バスでの中国人団体ツアー客もよく見かけるが、それ以上に印象的なのが、一人旅や少人数で自由旅行をする中国人の個人旅行者の急増だ。
実はジョージアは、2023年に中国人に対するビザの取得義務を撤廃した。つまり、私たち日本人と同様に、中国人もパスポートだけで入国できるようになったというわけだ。
ビザ撤廃からたった一年足らずで、ジョージアを訪れる中国人の数は激増したように感じる。筆者が滞在している宿でも、日本人旅行者が来るのは二ヶ月に一回あるかないかというほどだが、中国人旅行者は三日に一回は来る。この先も、ジョージアを訪れる中国人旅行者がさらに増加していくことは間違いないだろう。
中国人観光客の旅行スタイルが変化している
ジョージアを訪れる中国人旅行者を見ていると、「中国人=団体旅行」というのは、もう過去のイメージとなりつつあるのかもしれないと感じる。個人で自由旅行を楽しむ人が大幅に増えてきているのだ。
「海外を一人で旅する人」と聞くと、語学に堪能で旅の経験も豊富な人なのだろうと思ってしまうかもしれないが、決してそんなことはない。
昨今の中国人個人旅行者を観察していて思うのが、決して旅慣れている人たちばかりではないという点だ。
大半の中国人旅行者は現地語も英語も解さないので、スマートフォンの翻訳機能をひたすらに用いるし、中国人同士数人で固まって行動する人もかなり多い。共用の場所で荷物などを置いたまま席を立ったりもするので、リスク管理面における危なっかしさを感じることもある。
また、彼らの旅行スタイルに関しては、定番とされる見どころを順番に周ってはまた次の目的地へ……といったスタイルで、かなり急ぎ足だ。有名な町や観光スポットばかりに中国人旅行者が多く集まり、マイナーな場所ではほとんど見かけないという点も特徴的に思える。
しかし、よく考えてみると、2024年の中国人個人旅行者の旅のスタイルは、かつての日本人個人旅行者の旅のスタイルと共通点が多いように思える。
日本人の間で海外個人旅行ブームに火がついた2000年代後半のこと。バックパック一つで世界を周るバックパッカーや、格安航空を駆使してお得に周遊するスタイルまで、「世界最強」と言われるパスポートの恩恵と円高の追い風を受けながら、旅行好きの日本人は自由旅行を謳歌してきた。
しかしながら、往年の日本人旅行者でも外国語に堪能な人は決して多くなかったし、「日本人宿」と呼ばれる日本人旅行者が集まる宿に溜まっている人も少なくなかった。有名観光地や各国の首都だけをさっと周って次の場所へ移っていくスタイルもポピュラーだったように思う。
こうして見ると、かつての日本人旅行者の姿が、2024年の中国人旅行者の姿に重なっているように感じられる。かつて日本人旅行者が通ってきた道を、今の中国人旅行者も歩んでいる途中なのかもしれない。
なぜ日本人観光客が激減しているのか
では、各地で中国人旅行者が激増し、日本人旅行者が激減している理由はどこにあるのだろうか。
第一の理由が、中国で個人旅行がブームになっていることだ。
かつては、中国のパスポートでビザ無しで旅行できる国はとても少なかった。しかし現在では先に挙げたジョージアの例のように、中国人旅行者に対してビザ要件を緩和、もしくは撤廃する国も増えてきている。
海外個人旅行に対するハードルがぐっと下がったことと、中国国内の経済的発展にともなう中間層の増加で、中国人が海外を旅行しやすい状況となっているのだろう。
第二の理由が、日本人旅行者の旅行スタイルの多様化だ。
かつてはガイドブックに沿って町から町へと、有名どころをスタンプラリーのように制覇しながら忙しく移動するスタイルが主流だったのに対して、現在の日本人旅行者の旅のスタイルは多種多様だ。
山奥の村で数週間滞在したり、リモートワークをしながら各地に長期滞在したり、現地でアパートを借りて暮らすように旅してみたり……インターネットやSNSでの情報の充実によって、自分の好みの場所や滞在スタイルを見つけやすくなったのだろう。
こうして日本人旅行者がさまざまな場所に分散したため、定番の観光地や有名な町ばかりに日本人旅行者が集まるといった状況は、過去に比べて減ったように思える。相対的に、異国の地で日本人とばったり出会う機会が減少しているというわけだ。
中国人と日本人の気質の違い
第三の理由が、中国人と日本人の気質の違いだ。
多くの日本人にとって、海外旅行をする際の最大の障壁となるのが、言語の違いや文化の違い、そして治安に対する懸念だろう。
「言葉が通じない異国の地で何かあったら……」「現地の食事が合わなかったら……」「万が一犯罪に巻き込まれたら……」など、海外旅行に関する不安はつきものだし、それが理由で個人で海外を旅することを躊躇する人も多いのではないか。
しかし、中国人旅行者を見ていると、こうした日本人的な慎重さはあまり感じられない。
全く英語が話せなくとも翻訳機能を駆使してグイグイいく人が多いし、異国での移動や値段交渉に慣れていなくとも臆せずに旅する人も多い。
食事に関しては、日本人以上に自国料理に対する執着が強い人が多いように思えるが、宿のキッチンで中国風の料理を自炊する人がほとんどだ。(骨付き肉を長々と煮込んだりしてキッチンを占領するので、他の宿泊客から顰蹙をかうことも少なくないのだが……)
ひとことで言うなら、中国人旅行者は「どこに居ようとも自分のやり方やスタイルを通す」人が、日本人旅行者に比べると圧倒的に多い。
我を通すということにはもちろん良い面ばかりではなく悪い面もあるだろう。しかし彼らの大胆さや「何とかしてしまう精神」が少し羨ましく思えることも、筆者にはあるのが本音だ。
中国人たちのパワー
こうして考察していくと、中国という国の勢いと人々のパワーをやはり感じる。彼らはタフだし、あまり考えすぎずに行動しても結果的に何とかするので、端から見ていると気持ち良さすら感じるくらいだ。
しかし日本人としてはやはり、海外を旅する日本人が激減し、存在感が薄まっているのを目の当たりにするのは寂しくもある。同じ言語と文化を共有する人間と異国の地で出会うことには特別な感動があるし、それが旅を愛する人間同士の出会いなのだから、なおさら貴重だ。
日本で生活していて不便を感じる機会などほとんどないだろう。「言葉が通じず、24時間営業のコンビニもなく、食べたいものも満足に食べられず、治安も不安定な外国を、安くはないお金を使って旅するなんてごめんだ。」なんて思う人も少なくないのかもしれない。
しかし、いち旅好きとして言わせてもらうと、やはり異国の旅は良いものだ。快適な日本での生活では得られない刺激がある。きっと近年激増している中国人旅行者も、自国にはない新鮮な光景や、自分の意志のままに自由に行動できることの素晴らしさを感じるために、異国を渡り歩いているのではないだろうか。
昨今の円高や世界情勢を受け、どうしても内向きになりつつある日本人にも、興味があるのなら物怖じせずに旅に出てみてほしい。それこそ、スマートフォンの翻訳を駆使しながらであっても。世界はわりと、懐広く旅行者を迎えてくれるはずだから。
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