「毒グモに噛まれた時は片腕が動かなくなった」…《毒生物に自ら刺される》YouTuberが、自分を実験台にする「深すぎる理由」

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エンタメから教養や情報まで、様々な動画が投稿されているYouTube。個人が運営するチャンネルが多いため、中には”攻めた”コンテンツも見られる。

そんな中、『平坂寛』というチャンネルが、登録者数82万人(2024年10月時点)と注目を集めている。

そこに並ぶのは、平坂寛という男性が、クワガタに挟まれたりサソリに刺されたりなど、様々な毒のある生き物の攻撃を「自分の体」で受ける動画だ。

実際に、生き物の巨大なハリが刺さったり大人が毒に苦しむ映像はショッキングで、”キワモノ”のようにも見える。

一体、彼は何を伝えたいのか、また、こうした危険な動画をアップしはじめたきっかけはなんなのか。本人を直撃した。

生き物の攻撃を受けるきっかけは「知的好奇心」と「コロナ」

本業は生物ライターであり、高知県にある「黒潮生物研究所」の客員研究員である平坂氏。そんな人物がYouTubeを始めたのには「生き物の面白さをもっと伝えたい!」という強い思いがあった。

「僕の仕事の中心は、生き物のことを文章や言葉で伝えることです。でも、生き物に興味がない方や文字がまだ読めないお子さんにはそれだけでは届きにくいと感じていて、かねてより動画で伝える構想はしていました。そんな頃、コロナによって講演会やイベントの仕事が軒並み中止になったのです。そこで、『動画で面白さを伝えるには今しかない!』と一念発起しました」

危険な生き物を紹介するだけなら、過去の文献や図鑑に毒の有無などの記載はあるはず。それでも動画で伝える意味を平坂氏は次のように話す。

「例えば、ムカデは数百種いますが、どれも見た目が似ています。それぞれ毒の強さには違いがあるのですが、図鑑を見てもどのムカデも『毒があり危険』くらいしか書かれていないんですよ。そこで、『具体的にどう痛いのか?』…一番毒が強いのはどれかを知って伝えたいのです」

「物を噛ませる動画」では成立しないワケ

魅力を伝えたい思いがあっても、自らの肉体に故意的に毒を入れることは、本能的に抵抗を覚えるはず。物を噛ませたり、センサー付きの機械を挟ませたりする実験ではダメなのだろうか。

「微妙な力の加減は、物を噛ませて観察するだけではわかりません。それに、生き物じゃないと本気を出してくれない個体も多いです。木の棒を差し出しても、噛んでくれなかったり弱かったり……。なので、自分が噛まれるしかない。機械も検討はしましたが、千差万別な形状の生き物の、どれにも対応する機械なんて存在しないのです。人間の五感は有能なセンサーなので、それを使わない手はないですよね」

さらに、自分で体験するという発想は、YouTubeの群雄割拠の時代における差別化ではなく、意外にも根深いものだった。

「昔から生き物が好きで、幼稚園の頃から父親に近所の山に連れて行ってもらい、クワガタ捕りをよくしていました。ノコギリクワガタ・コクワガタ・ヒラタクワガタなど3種類くらいを捕まえていたのですが、同じ大きさでも、挟まれると痛さが違うことに気がついた。それで、『どれが一番強いんだろう』と気になり、自分から挟まれてみました。これが今の原点になっているのかもしれません」

毒の痛みを体感することと筋トレとの共通点

必要性があったとしても、トゲを刺したり毒を体内に入れるのは、どう考えても痛く苦しいもの。しかし、動画の中の平坂氏は痛みに苦悶しながらもどこか嬉しそうにも見えることが多い。

「僕にとって『人間さえもここまで苦しめる生き物の毒やトゲ』は、特撮映画の怪獣を見るような『強くてかっこいい!』という感覚です。どんなジャンルでもそうですが、面白さを伝えるには本気で面白がっていないといけないと思うので、私が実際に、捕まえたり刺されたりして興奮している様子を伝えたいんです」

理屈としてわからなくもないが、他の誰もやりたがらない唯一無二の調査方法。もしかして、平坂氏は痛みで快感を覚える物好きなのではないかという疑問も湧いてくる。

「いやぁ、痛いのは本当に嫌いです。例えば、ご飯を食べていて不意に口の中を噛んだりすると、1日テンションが低いままです(笑)。ただ、トゲや毒の痛みを体感するのは、知識が増えていく充実感もあるので、あんな表情になっているんだと思います。例えば、筋トレは苦しいですが、引き換えに後から筋肉がつきますよね。それと同じような理屈で快感を覚えているのかもしれません(笑)」

危険動画をアップする社会的意味

同チャンネルについて、平坂氏自身は「おっさんが苦しんいでる姿を面白がっている人がほとんどだと思います」としながらも、社会的な意味がないわけではないと話す。

「図鑑には毒のある生き物は一括りに『毒があって危険』としか書かれていないので、ハチに刺されたように、瞬間的に痛みが走るイメージを持っている人が多いです。しかし、例えばセアカゴケグモに噛まれても、ほとんど痛みはない。噛まれたことに気がつかないくらいです。ところが、時間が経ってくると痺れが出てきて感覚や運動機能がなくなってきたりして、僕でも片腕がしばらく動かなくなりました」

この、世間ではイメージされていない症状の現れ方を伝えることに意味があるのだと平坂氏は続ける。

「例えば、赤ん坊がセアカゴケグモに刺されても、痛くないので泣くこともないはずです。でも、徐々に体が動かなくなっていきますし、体重も軽いので全身に症状が出る可能性もある。でも、毒の知識があれば『最近、近所でニュースになっているセアカゴケグモかも』と思えます。役立つ場面は限りなく少ないでしょうが、少しは意義があるかなと思ってやっています」

奇抜さを求めてではなく、愛と信念を持って危険動物に自ら襲われ続ける平坂氏。後編記事『「ヤシガニはパワーがヤバい」「オオスズメバチは刺された瞬間にバチンッ!」…異才Youtuberが語る「危険で痛すぎる」生物ランキング』では、数々の痛みを体験してきた同氏に、痛かった生き物ベスト3や、私たち一般人が気をつけるべき虫について聞く。

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