今季4年ぶりにリーグ優勝を成し遂げた巨人。その裏には、1軍を陰ながら支えた桑田真澄2軍監督(56)の存在があった。選手と同じ目線でコミュニケーションを図り、コーチ陣に全幅の信頼を置いて役割を託す−。ファームにイズムを注入し、改革を起こした“桑田流”のマネジメントに迫った。

 4年ぶりにリーグ優勝を成し遂げた巨人。CSファイナルSで敗退し、日本シリーズ進出は逃したが、若手が躍動したシーズンだった。8月に出場選手登録された2年目の浅野はブレークの兆しを見せ、9月に昇格した4年目の中山はCSで“プロ1号”を放つなど存在感を示した。若い芽が出始めた背景には、桑田2軍監督の存在があったと感じている。

 「1軍への供給と、1軍選手の調整と育成」を3つの柱としてきた桑田2軍監督。選手と同じ“目線”でコミュニケーションを図ってきた。昔から野球界のコミュニケーションといえば「おい」、「はい」、「いいえ」の一方通行が当たり前の時代もあった。それとは正反対だ。

 「コミュニケーションは双方向。『どう思ってる?』『どう感じた?』って。『オレはこう思うけど、どう思う?』って。確認作業をしながらお互い同じ目標とか、解決策を一緒に探るとか。そういうのは心がけている」

 選手に自分の考えを押しつけることはない。「なぜなら、われわれはプロだから。部活、学生野球ではない」。ファーム総監督を務めた昨年、チームを見渡して感じたことがあった。「みんな、ここ(ファーム)に3年、5年いたら徐々にうまくなって1軍に行けるんだって錯覚しているように思えた」。

 コーチに引っ張られて練習をやらされるのではなく選手自ら「コーチ、バッティングを見てくれますか」と言って自分から進んで練習するようになってほしかった。現役時代は巨人軍のエースを担った百戦錬磨。プロ野球の厳しさも熟知している。「どんどん追い抜かれる世界だから」。選手は当然、体の大きさも力量もタイプも違う。だから常々、「自主性、主体性、独自性」が重要だと説いてきた。指導を待っているだけでは成長しない−。プロである以上、自ら考え、行動を起こすことが大切だというわけだ。

 選手と同様、コーチ陣ともコミュニケーションを図っている。「選手がうまくいかなかったら面談してくれと。現状を把握して課題は何か抽出する」。課題克服の方法、復活までの計画や期間の検討をコーチに依頼。試合のスタメンや練習メニューの作成もコーチに任せる。そして相談にも乗る。

 コーチ陣との約束事もある。「『これをやります、なぜならば』の説明が、できるようにしてくれなって。(選手が)納得できなくてやっても意味がない。目的は何かと理解してやることが上達への近道」。コーチ陣に対して「すごく大変だと思う。みんなよくやってくれて本当に感謝してます」と率直な思いを明かす。

 自らの方針を伝え、選手、コーチ各自の意見も尊重する。今の時代に合った指導法。そんな2軍監督が見守る組織だからこそ、若い選手が次々に台頭してくるのだと感じた。(デイリースポーツ・伊藤玄門)