「大根はゆでるな」上田淳子さんが教えてくれる、最強のふろふき大根の作り方

写真拡大 (全3枚)

シンプルでおいしい秋冬の定番、ふろふき大根ですが、こんなこと知っていましたか?

・大根は、ゆでるのではなく蒸す

・蒸した大根をいったん冷ます

・その後にだしに入れて煮る

何度も作ってきた定番料理でも、まだまだ知らなかったコツがある。

大事なのは、「なぜそうするのか」という理由を知っておくこと、と料理研究家の上田淳子さんは言います。

******

レシピは、あくまでもあらすじ

本当に大事なのは、一つ一つの行為にある意味(理由)を理解しようとすること。レシピの行間に潜む、この「ことわり」こそが、料理の要です

レシピの文字を追ってその通りに作るのではなく、「なぜこのタイミングで?」「なぜこの作業をするの?」、その意味を見つけ出し、それを自分の料理の心得とすれば、料理はずっとラクに、楽しくなります。

******

上田さんの新著『レシピ以前の料理の心得』(青幻社)は、そんな著者の思いがぎっしり詰まった「読む料理本」。そこそこ料理ができる人こそ読んでほしい、「もっとラクにおいしく作るためのコツとレシピ」が満載です。50を超える料理から、蒸し鶏、野菜スープ、ふろふき大根の極意を3回に分けてお伝えします。

第1回は、【高たんぱくの最強食材、鶏のむね肉。絶対パサつかない技を料理家・上田淳子さんが伝授】でむね肉の蒸し鶏しっとりおいしく作る技、第2回は【顆粒コンソメなしで絶品野菜スープ! 上田淳子さんが伝授する「たったこれだけ」のコツ】で野菜スープは蒸し料理をお伝えしました。

第3回は、だしを含ませるふろふき大根です。

ふろふき大根は、ゆでずに「蒸す」

水分を程よく含んでやわらかくジューシーな冬の大根。おでんに加えてもう一品私がおすすめしたいのが、「ふろふき大根」です。ただ味噌をつけて食べるだけですが、これが手をかけた分だけおいしく、とても奥の深い味わいなんです。

まずは大根の下ごしらえから。使うのは、中央の水分がたっぷりの部分。ちなみに聖護院大根は全体的に水分が多く、これを見つけるとついふろふきを作ってしまいます。

3〜4センチほどの厚さに切り、皮はぐるりと5ミリ厚さにむいて面取りします。皮のすぐ下は繊維が多く、煮てもやわらかくなりにくい部分なので、ここはぜひ厚めにむきましょう。むいた皮は後で5ミリほどの細切りにしてごま油で炒め、醬油で味つけすると歯応え豊かな箸休めになってこれまた美味。

大根の用意ができたら、やわらかく蒸します。蒸し器がなければ鍋やフライパンに大根の高さ半量程度に水を張って蒸しても、あるいはふんわりラッ プをかけてレンジにかけてもOKです。この蒸気が今回の話のポイントになるので、ゆでるのではなく、ぜひ蒸してください。

竹串が通るくらいにやわらかくなった大根に味噌をかけて……というレシピが多いようですが、私はここで大根を取り出して冷まします。ここからのもう一手間が、ふろふき大根を驚くほどおいしく仕上げる秘訣なのです。

というのが、この冷ます過程で、ほぼ必ずできるのが中央の「へこみ」です。大根は蒸気によって膨張し、細胞を押し破って含んでいた水分が流れ出ます。それをそのまま冷ますことで、水分が減った部分が痩せてへこんでしまうのです。みずみずしさがおいしい大根の水分をあえて出す理由、それを次に説明します。

水分を出して代わりにだしを吸わせる

冷めてへこんだ大根と昆布だしを鍋に入れ、弱火にかけます。煮立てないようじっくりと、湯気がゆらりとなびく状態で15分。すると不思議なことに、やせてへこんでいた部分が、元に戻っているではありませんか! そう、煮ることでだしが大根のへこんだ部分に入り込み、膨らむのです。

見た目ではわかりませんが、大根の水分とだしが入れ替わり、旨みたっぷりのふろふき大根ができあがったというわけです。

シンプルにだしを含んだ状態を味わうのでも十分ですが、定番の練り味噌を添えてももちろんおいしい。

代表的なのはゆず味噌です。甘く優しい味わいがお好きなら西京味噌をベースに。みりんを火にかけてアルコールを飛ばしたら、味噌を加えて弱火でよく練り混ぜながら、艶が出るくらいまで、軽く火を入れて好みの硬さにします。仕上げにゆず皮のすりおろしをたっぷりと。好みで果汁を少し足せば、爽やかな仕上がりになります。

電子レンジで作る場合は、ゆず皮以外の材料を耐熱皿に入れてよく練り混ぜ、ラップをかけてレンジで30秒加熱し、取り出してゆず皮のすりおろしを混ぜます。

こっくり味噌がお好きなら、ごま味噌がいいですね。酒とみりんを同様に煮切り、信州味噌を加えて軽く火を入れます。甘さが足りなければ砂糖を足して、仕上げにたっぷりとすりごまを。

濃い味つけをせず、けれどだしをしっかり吸った大根だからこその、じゅわっと口に広がる旨みたっぷりの格別な味です。

練り味噌もいいけど、変化球も

こんなふうに丁寧に作ったふろふき大根。いろいろな食べ方を試しても楽しい。例えば、おいしい塩と粗びき黒こしょうだけでも、あるいは塩辛もよく合います。このふろふき大根を多めに作り、その後におでんにするのが私の楽しみ方。

大根を煮ただしに醬油とみりんを入れ、さらにこんにゃくやさつま揚げなどを加え、弱火でしばらく煮るとあっという間におでんに早変わり。ここであまり濃く味をつけないことで、最後には、具を食べやすく切り酒粕を加えて粕汁などにしていただくのも、もはや冬の定番の流れになっています。

寒い冬、丸々と太った大根を見つけたら、この「大根をへこませる」話を思い出してほしいな、と思います。

高たんぱくの最強食材、鶏のむね肉。絶対パサつかない技を料理家・上田淳子さんが伝授