会場では各社オリジナルのコーヒー豆も販売されていた(写真:サザコーヒーロースター提供)

コロナ禍を経て人々の生活習慣も変化した。そのひとつが自宅での飲食をより重視するようになったことだ。飲酒では「イエノミ(家飲み)」、喫茶では「おうちカフェ」も浸透し、それを意識した商品も発売されている。

10月9〜12日、東京都江東区にある東京ビッグサイトで「SCAJ2024」が開催された。「コーヒーに特化したイベントとしてアジア最大の国際見本市」をうたい、さまざまなコーヒー関連商品や器具が展示され、バリスタによる競技会も行われた。

筆者も現地に足を運び視察した。今回はその中から興味を引いたコーヒー豆や器具を中心にいくつか紹介したい。


器具の使い方を聞く来場客。SCAJは若い世代が多いのも特徴だ(筆者撮影)

コーヒー豆に果物・果汁を漬け込んだ商品

「アルプスコーヒーラボ」(Alps coffee lAb/本社:長野県松本市)が展示していたのはパッケージにさまざまな色×果物をあしらったコーヒーだ。「コーヒー生豆を副材の果物や果汁に漬け込み発酵させた」という。

果物系は、ブラジル産コーヒー豆に地元・信州産リンゴの果汁を漬け込んだ「APPLE」や「STRAWBERRY」(ブラジル産コーヒー豆+ラム酒+イチゴの果汁)、「BANANA」(コロンビア産コーヒー豆+バナナの果肉と果汁)などがある。他に「LEMON」(ケニア産コーヒー豆+レモン果汁)や「ORANGE」(ブラジル産コーヒー豆+オレンジ果汁)もあった。

「近年の浅煎り人気にも応えたフルーツ感のある商品です。看板商品は信州産のリンゴを使ったAPPLEですが、今回反応がよかったのはSTRAWBERRYとBANANAでした。今までにない味わいとして関心を持っていただいたようで、若い世代の方が多く購入されました」と専務取締役の九蘭滉太(くらん・こうた)氏はこう話す。


果物系コーヒーの商品。16時近い取材時にはかなりの商品が売れていた(筆者撮影)

同社代表の斉藤博久氏は焙煎士でもあり、地元の松本市ではコーヒー店を運営する。そのひとつ「珈琲茶房 かめのや」は2016年オープン。地元民から愛された老舗喫茶店「翁堂茶房」を斉藤氏が引き継ぎ、リノベーションした。

「実店舗がある信頼性もあって、2021年から販売するこの商品も関心が高いです。コーヒーにこういう入口があるのも知っていただきたいですね」(九蘭氏)

1杯どりカップオンは1個5万円の品も

毎年、同展示会やバリスタ競技会で存在感を発揮するのが「サザコーヒー」(本社:茨城県ひたちなか市)だ。「パナマゲイシャ」(パナマ産のゲイシャ品種)を日本に広めた会社であり、今回もさまざまなカップオン(1杯どり)や焙煎豆が展示されていた。


ゲイシャ系のカップオン(1杯どり)商品。価格は400〜5万円まであった(筆者撮影)

「ゲイシャはフルーティーな味わいが人気の高級品種で、当社社長の鈴木太郎が2009年からパナマで1番のゲイシャを決めるコーヒーオークションで1位の豆を落札してきました。近年はブランドとして浸透したのを感じます」(商品管理部課長の川粼敦史氏)

例えば「ゲイシャハンター」(1杯どり1個520円)はパナマ・コロンビア・エチオピアのブレンド豆。「パナマゲイシャ エスメラルダ」(同750円)は同国の人気農園であるエスメラルダ農園産で競合店も取り扱う品。1万円を超える「ベスト オブ パナマ」の商品はコーヒーオークションで落札された豆を焙煎した限定品だ。

一方で手頃な価格帯もある。看板商品の深煎り「将軍珈琲」のカップオンは200円台だ。

「コーヒーの世界はワインの世界に似ている」と話す関係者は多い。さまざまな意味合いが込められているが、商品の価格帯が幅広く、その時の気分や予算に応じて楽しめるのもあるだろう。

コーヒー器具で目を引いたのが、玉川堂(ぎょくせんどう/本社:新潟県燕市)のコーヒーポットとドリッパーだ。1816年創業の老舗で“鎚起銅器”(ついきどうき)製作を行う。やかんや急須などを製造してきたがコーヒー関連にも進出した。

鎚起銅器とは、鎚(つち)で打ち起こし、銅板から作る立体製品のことで、燕市の伝統技術だ。完成品まで時間を要し、職人による手作りなので価格も高い。コーヒーポットは20万円台が多く、コーヒードリッパーは4万5000円+税となっていた。上質なコーヒータイムに映える商品だ。


鎚起銅器のコーヒーポットとコーヒードリッパー(写真:玉川堂提供)

「お茶もコーヒーも手淹れする文化を持つ中華圏や日本の方が買われます。顧客層は中華圏の方が約5割、GINZA SIX(東京都中央区銀座)の直営店では同7割になっています」

同社の玉川基行社長(7代目)はこう話す。6代目の実弟で叔父にあたる玉川宣夫氏は木目金の第一人者で人間国宝でもある。現在は21人の職人のうち3割が女性。若い世代には東京藝術大学大学院を修了した女性職人もいる。

「伝承と伝統は違います。技術は伝承していくが経営や流通は変えていかないと伝統も維持できません」と話す玉川社長。同社は世界的なブランドとのコラボ事業も行っている。

簡単に淹れられる抽出器具

手頃な価格帯の器具として「マックマー」(本社:東京都中央区)の商品もあった。

今回披露してもらったのが「ティープッシュ」(3300円)だ。茶こしの中でじっくり蒸らせ、茶葉に合わせて蒸らし時間を調節できるという。


「ティープッシュ」での淹れ方を実演してもらった(筆者撮影)

緑茶飲料の宣伝文句には、よく「急須で淹れた味」というのがあるが、自宅に急須がない人も多い。同商品は緑茶、紅茶、ハーブティー、中国茶なども抽出できる。

コーヒー関連では2016年に発売した「カフェメタル」(3300円)も人気商品だ。


手頃な価格帯の「カフェメタル」(写真:マックマー提供)

「ペーパーフィルターを使わずに繰り返して使えるオールステンレス製のコーヒードリッパーで、ほとんどのマグカップに直接のせてドリップできます。従来の金属フィルターの難点だった出来上がりのコーヒーに混ざる微粉を極限まで低減し、コーヒー本来の油分(旨み)をしっかり抽出するのも特徴です」

同社の三上正夫社長はこう話す。手頃な価格帯は中国で現地生産するのもある。

もともと機械工業系商社の中国駐在員を7年間務めた三上氏が2007年に個人起業。前職とは勝手が違う一般消費者向け商品や販路に試行錯誤しながら事業を軌道に乗せた。

「NHKやテレビ東京の番組でも取り上げられ、商品の認知度が高まりました。他社にない機能とデザインを兼ね備えた商品を提供したいと思っています」(同)

飲食店チェーンの派生ブランドも

「タップルート コーヒー ロースターズ」(TAPROOT coffee roasters/本社:北海道札幌市)は2022年から3年続けて出展、今回はブースを拡大した。

例えばブースで試飲もできた「エチオピア ガルガリグティティ スーパーナチュラル」は浅煎りの焙煎豆(100グラムで1520円)。飲み頃は焙煎日から1カ月を過ぎたあたりという。タップルートは、ある飲食店チェーンのコーヒー焙煎工場から誕生したブランドだ。

「当社の創業者で、びっくりドンキーを立ち上げた先代社長の庄司昭夫が、もともとコーヒーへの思い入れが強い人でした。そうしたDNAもあり、2002年に自社のコーヒー焙煎工場を創設。以来、高品質なスペシャルティコーヒーにこだわってきました。2022年に工場操業20年を迎えたのを機に、新たなブランドを立ち上げたのです」

事業の責任者である田中健太氏(タップルートコーヒーロースターズ ヘッドロースター)はこう話す。

通販向けは自社レストラン向けとは別工程

田中氏は、コーヒー焙煎工場長も兼任するが、同工場では1日300〜600キロのコーヒー豆を焙煎し、びっくりドンキーなど自社グループのレストラン向けに供給してきた。今回のような通販向けは別工程で製造している。


「タップルート コーヒー ロースターズ」のブース。左奥が田中氏(筆者撮影)

これ以外にも容器の側面を固定して、“コーヒーのテイクアウトがしやすいバッグ”を開発した「OTOHEI」(本社:熊本県熊本市)などユニークな商品もあった。

これまで見てきたように、コーヒーは関連商品も含め多様なラインナップがそろっている。こだわりが強い人にもぴったりの品を見つけることができるだろう。


本格的なコーヒー焙煎機として人気が高い「プロバット」も展示されていた(筆者撮影)

(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)