この記事をまとめると

■かつてはオート三輪やボンネットトラックなどの個性的なトラックが存在した

■キャブオーバー車でもトヨタ・ダイナの超低床キャビン車はかなり目を引くデザイン

■1997年、6代目ダイナに設定された

トヨタから個性的なトラックが販売されていた!

 人によって捉え方は違うのだろうが、乗用車に比べるとトラックのデザインは単調な感じが拭えない。やはり、商用車であるから積載率・利便性・経済性・操作性などといった効率といったものが重視され、趣味性や個性などの「遊び心的要素」は低いようだ。かつて存在したオート三輪やボンネットトラックのように、押し出しの強さや面白味といったものは、もう復活することもないのだろう。そう考えると、トラックマニアがデコトラに憧れたり、レアな架装車に子どもが目を輝かせたりするのは、当然のことなのかもしれない。

 ところが、キャブオーバー車ばかりになっていた四半世紀あまり前、トヨタからかなり目を引くトラックが販売されていたのである。それが「ダイナ・超低床キャビン」だ。基本的にトヨタは、セラやMR2といった例外を除けば、ニッチではなく大きなマーケットを狙った商品が多い。ダイナもさまざまな貨物の運搬シーンを想定し、誰でも使いやすい中・小型トラックとして、長年親しまれてきたという印象がある。

 ダイナの登場は1959年。高度成長期のなかで成長したトラック市場において、それまで型式で呼ばれていた商用車に愛称を付けて販売された車両だ。ただ、これは「遊び心」というよりも、ボンネットタイプと区別することに重点が置かれていたのだという。その後モデルチェンジを重ね、1995年には6代目が誕生した。

乗降性を高めた「ドライバーにやさしいクルマ」

 このころにはトラックも、ドライバーの労働負担軽減といった考え方が強まり、操作性や使いやすさなどにもさまざまな工夫が凝らされていた。同時に、多様化した輸送形態に対応するべく、クイックデリバリーのような車両が、運送事業者のニーズに合わせて開発されるなどしていた時期でもある。

 1997年5月、ダイナ・トヨエースに「超低床キャビン」が新たに設定されるという発表があった。まるで、サンダーバードに出てくる磁力牽引車のような未来的外観に驚愕した人も少なくない。トヨタは、当時の発表で「EASY RIDING(乗降性の格段の向上)を狙いに開発し、キャビンを前輪より前へ配置するという新しい発想」と謳い、「頻繁な乗降にも疲労の少ないドライバーにやさしいクルマ」であるとPRした。

 また、「キャビンを前方へ移動(従来比:標準キャブ690mm)したことで荷室長の延長も可能」になり、アルミバンタイプは1クラス上の荷室長を確保したという。ちなみに、「超低床」となったキャビンは、標準キャブに比して85mm下がっている。要するに、ドライバーにやさしく積載効率も高いという、まさに一石二鳥のトラックだというのだ。

 このトラックをデザインしたという方が「X(旧:Twitter)」で語ったところによると、「コカ・コーラからの要望があって開発、佐川急便にも納入し、全200台ほど生産した」とのことだ。ただ、トヨタの75年誌では「需要が想定したほど無かった」ため、7代目にフルモデルチェンジされるときには引き継がれなかったという。

 確かに、ドライバーにとって乗降は楽になるようだが、前輪位置が運転席の後部になると、ハンドリングに違和感が発生することも考えられる。とはいえ、注目度は高いので社名や商品名などを入れた看板車にすれば、一定の広告効果が期待できるだろう。

 古い話なのでトヨタ社内にも知る人はいないとのことだったが、個性が重視されるこの時代であれば、受け入れられるのではないだろうか。復活に期待したいものだ。