2006年8月下旬、沙里院から平壌に向かう道路上で、安全員(警察官)とトラックの運転手がけんかしている様子(画像:デイリーNK)

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北朝鮮を訪れた外国人観光客が訪れる観光名所の中に、仏教寺院がある。

妙香山(ミョヒャンサン)の中腹にある普賢寺は1028年に開山した古刹で、朝鮮戦争で焼失するも復元され、国宝40号に指定されている。現在、193ある国宝のうち、17がお寺で、別途指定されている仏像などを含めるとその数はさらに増える。

だが、歴史的に見て現在の北朝鮮に当たる地域では、19世紀末(あるいは20世紀初頭)以降は、仏教よりもキリスト教の信者が多かった。なぜ今、仏教が人気を集めているのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安南道(ピョンアンナムド)成川(ソンチョン)の情報筋の住むマンションの住民の間で、手のひらサイズの仏像を買って家に置く人が増えているという。

仏像は「トクトギ」と呼ばれる行商人が早朝に家々を回って売っている。価格は1体2万北朝鮮ウォン(約200円)だ。生活が苦しく日々の糧にも困る人々が大半を占める中、わざわざ仏像を買う理由を、情報筋はこう説明した。

「生活が苦しい人々がコメを買うお金で仏像を買うのは、家の中に仏像があれば厄払いになると信じているから」

情報筋の実のきょうだいは、毎朝仏像に手を合わせて願い事をするという。

別の情報筋は、首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)での手のひらサイズの仏像を買う人が増えていると伝えた。40代女性の情報筋もその一人だ。

「私も毎朝、市場に出る前に仏像を見て願い事をする」(情報筋)

この情報筋の願い事とは、「エクサリ」を追い払って金儲けができるように、というものだ。このエクサリ、直訳すると「厄暮らし」となるが、安全部(警察署)や保衛部(秘密警察)の幹部のことを指すという。ワイロを搾り取り人々の恨みを買っている、業の深い人間という意味だろうが、そんな幹部を呪い殺したい気持ちなのだろう。そんな人は彼女だけではない。

(参考記事:「報復殺人」で警察官70人死亡…秩序崩壊に向かう北朝鮮社会

「仏像を買った他の人も願いは同じだ。この世の厄をすべて払ってくれて、いい暮らしができるようにしてほしい」(情報筋)

このような仏像は、陶磁器工場で長く働いた職人が自宅で制作する。赤土を練って仏像の形にして、窯で焼き上げる。そして金色に塗って行商人に売る、という流れだ。

このように仏像が人気を集めている背景には、先の見えない生活苦があるが、キリスト教に対する激しい弾圧も関係している。

かつては「東洋のエルサレム」と言われたほど、キリスト教信者の多かった平壌だが、キリスト教の家に生まれた金日成氏が政権の座についてから激しい弾圧を受け、多くが韓国へと逃れた。

弾圧を受けたのは他の宗教とて同じだが、キリスト教ほど激しいものではなかった。また、この数年で摘発が相次いでいる占いほどプレッシャーが強くない。聖書とは異なり、仏像なら持っていてもそこまで厳しい処罰を受けるわけではない。そこで商魂たくましい商人が目をつけたのが、すぐに隠せるサイズの仏像だったというわけだ。