『わたしの宝物』(写真:番組公式サイトより引用)

第1話の怒涛のラストが話題になったフジテレビ木曜劇場『わたしの宝物』。妻にも家庭にも無関心なモラハラ夫と、不貞による妊娠を隠し夫婦の子として育てていこうとする妻。

そんな夫婦の家庭を舞台に“托卵”をテーマにする本作だが、第2話でこの先の夫婦間に起きる愛憎劇の道筋が示されるとともに、毎話のパターンと夫婦の過去に明かされていない何かがあることが浮き彫りになった。

※以下、1話から2話のネタバレがあります。ご注意ください。

迷いながらも托卵の道を選んだ主人公

第1話は、夫婦の冷え切った生活が描かれた。専業主婦の神崎美羽(松本若菜)は、外面は良い夫・神崎宏樹(田中圭)の仕事のストレスのはけ口となり、乱暴な言葉をぶつけられ、無視される日々。それでも笑顔でかいがいしく世話をする美羽を、宏樹は余計に鬱陶しく思い、邪険に扱う。

明るく振る舞ってはいても、そんな日々に心を削られる美羽は、子どもができれば変わると考え、恐る恐る宏樹に相談したものの、自然に任せればいいととりつくしまもない。

そんななか、美羽は中学時代以来となる幼なじみ・冬月稜(深澤辰哉)と偶然再会。当時の懐かしく楽しかった思い出がよみがえるなか、ひそかに合うようになる。美羽が既婚者であることを知りながら不貞行為におよび、美羽は妊娠する。

ところが、稜は仕事先のアフリカで起きた大規模テロで犠牲者になったと報じられる。美羽は稜の子とわかっていながら、宏樹に「あなたの子よ」と話す。ラスト10分ほどで怒涛のように“托卵”の展開を迎えて第1話が終わった。

そして第2話では、美羽は宏樹に真実を話して離婚し、ひとりで子どもを育てていこうといったんは決意。病気の母の世話など生活の厳しさを感じていたところ、宏樹から「仕事が忙しくなり、子育ても家事も家庭のことは一切何もしないが、お金の心配はいらない」という話を受け、真実を隠したまま家庭を築いていくことにする。


『わたしの宝物』(写真:番組公式サイトより引用)

一方、アフリカで亡くなったと報道されていた稜は、生きていた。そのことを知らない美羽は無事出産。すると宏樹は赤ちゃんを抱いてむせび泣く。この先の波乱の愛憎劇を思わせて、第2話は終わった。

はっきり描かれていない夫婦の謎

この先、父性が宿った宏樹と美羽は、子どもを中心にした仲睦まじいふつうの家庭を築いていくのかもしれない。しかし、どこかのタイミングで美羽は稜が生きていることを知り、子どもを可愛がる宏樹との間で、苦しむことになる。そのときに美羽はどちらを選ぶのか。それが本作の見どころであり、本筋になっていくのだろう。

一方、これまでにはっきり描かれていない謎がある。

美羽と宏樹の夫婦関係はなぜここまで冷え切っているのか。結婚前の同じ職場の2人の様子や、結婚してすぐの頃は、お互いを思いやる優しい男女の間柄に見えた。また、宏樹は仕事のストレスを美羽にぶつけていることを自覚しており、それに対する葛藤もある。

にもかかわらず、仮面夫婦を通り越して、相手を徹底的に無視しながら突き放すように一緒に暮らす冷たい夫婦になっている。


『わたしの宝物』(写真:番組公式サイトより引用)

2人の関係性がそうなった理由が何かあるはずだ。それは、2人の心に深い傷をつけたトラウマになる出来事なのだろう。

それが子どもにまつわることなのか。この先、美羽が子どもの父親を選択するときのカギになるに違いない。

第2話までで見られたもうひとつのポイントは、美羽の振り幅の広さだ。

第1話の前半は、モラハラを受けながらも健気に生きる、いつも笑顔の明るい妻だったが、後半では不貞相手の子を夫の子として育てようとする悪女の顔になっていた。

そして第2話も、前半の美羽は、宏樹に真実を告げて別れ、ひとりで子どもを育てていこうとする真っ当な姿勢を見せるが、後半では翻意し、自身の心も真実も封印して家庭生活を続ける悪女に戻る。

そこに映る無関心な夫と不貞妻の裏の顔は、状況や程度は異なれ、どこにでもある、生々しい夫婦のリアルな一面でもあるだろう。この先、妻の振り幅のパターンがフォーマットになっていくとしたら、毎話どのような善悪の顔が映されるのか興味深い。

リアルな夫婦関係の行き着く先

また、第2話まででは、仕事を理由に家庭や子育てから逃避する夫、妻につらくあたり、ストレスをぶつけることもある夫の姿があった。それも劇中だけではなく、どこにでもいる夫婦の姿だから、つい共感してしまう。自分たちの姿を客観的に映す鏡になっているからこそ、そこに気づきも生まれる。そんな見方もできるドラマだ。

本作のプロデューサーは、不貞する“昼顔妻”を描いた『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(2014年7月期)と、“セックスレス”をテーマにした『あなたがしてくれなくても』(2023年4月期)を手がけた三竿玲子氏。

本作は、夫婦のタブーを扱うドラマの第3弾だけに、共感性の高いリアルな夫婦関係の行き着く先に何が待ち構えているのか、怖いもの見たさのような興味が膨らむ。

不貞相手の子を産んで、夫婦の子として育てようとする美羽は、たとえどんな理由があろうとも、やっていることを見れば、大きな罪を犯しているように思う。そんな妻が主人公だけに、落としどころを間違えれば炎上しかねない。美羽がどのような決着をつけるのか注目される。

(武井 保之 : ライター)