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老後破産…定年後の年金生活において生活に困窮、破産状態に陥ること。一見すると、低所得の人に起きやすいことのように思えますが、高学歴・高所得の人であっても別の理由から破産に陥ることがあります。

資産8,000万円を築き「60歳で定年退職」のエリート

――本当なのか、冗談なのか、自己破産しそうだって

元同僚などから噂になっている郷田康平さん(仮名・64歳)。旧帝大卒の高学歴、業界を渡り歩き、定年まで勤めていた会社は40代のときにヘッドハンターされて転職してきたとか。60歳が定年の会社でしたが、引き続き、会社に残ってくれないかと、何度も説得されたという話です。

――噂されているとおりお金がなくて。かなりマズイことになっています

現役のころの最高月収120万円超、年収では2,000万円を超えていたといいます。

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、大卒サラリーマンの月収の中央値は35.37万円。上位25%で47.9万円、上位10%で63.8万円。年齢別にみていくと、最も給与の多い50代後半で、中央値は48.9万円、上位25%で62.6万円、上位10%で78.5万円。賞与は月収換算4.0倍なので、年収にするとそれぞれ782.4万円、1001.6万円、1256万円となります。これらから考えると、郷田さんはエリート中のエリートだったといえるでしょう。

【年齢別「大卒サラリーマンの月収」中央値/上位25%/上位10%】

20〜24歳…23.7万円/26.0万円/29.2万円

25〜29歳…26.5万円/30.3万円/35.7万円

30〜34歳…30.2万円/35.5万円/43.4万円

35〜39歳…34.4万円/42.4万円/53.9万円

40〜44歳…38.5万円/48.5万円/60.9万円

45〜49歳…42.5万円/53.7万円/68.5万円

50〜54歳…46.5万円/60.3万円/74.3万円

55〜59歳…48.9万円/62.6万円/78.5万円

60〜64歳…36.7万円/52.5万円/75.9万円

60歳定年時で勤続15年。退職金規定により月収換算15ヵ月分、1,800万円を支給。預貯金だけで4,000万円程度、株式等も2,000万円程度あったので、「もう汗水垂らして働く必要はない」と考え、定年をもって会社を離れることにしたといいます。

給与ゼロのエリートが、どうしても止められなかったこと

退職金含めて8,000万円ほど。しかも郷田さんは独身。年金を受給するまで5年ありますが、十分すぎるお金があるので問題ないように思えるでしょう。しかし、なぜ定年から4年ほどで「お金がない」という窮地に陥ったのでしょうか。

現役時代から住んでいる賃貸マンションは家賃月30万円の2LDK。月々の支出は50万円程度(交際費除く)だとか。年間620万円、4年間で2,400万円ほど。一般人からしたら「もっと節約しないと」と冷や冷やしますが、そこは高収入を誇ってきたエリート。エリートはエリートにふさわしいライフスタイルがあるのでしょう。問題は、かっこにある通り交際費にあります。

――仕事を辞めても、昔からの付き合いは大切にしていて。ほぼ毎日外食のお誘いがありますし、毎週末はゴルフに行くのが習慣。旅行も好きで、結構行きますね

――もう給与収入はないのだから何とかしないといけないと思ってはいたんですが、なかなか実践できなくて

結論からいうと、お金がないのは単なる散財、無駄遣いが原因。一般の人からみれば、「はぁ⁉」と思う理由ですし、高学歴であれば「もう少し賢いお金の使い方ができるだろう」と考えます。しかし、高学歴・高収入の人のなかには、単なる散財で老後破産してしまう人も珍しくはないようです。なぜ散財をしてしまうのか……そのひとつの理由が、高所得の人ほど人付き合いが頻繁であること。

孤独・孤立の実態把握に関する全国調査、内閣府『令和5年人々のつながりに関する基礎調査』によると、多少の凸凹はあるものの、世帯の年間収入が高い人ほど孤独感をもたない*傾向にあります。孤独感をもたないのは、日ごろ人付き合いが活発だから。収入が高いからこそ、人付き合いにお金をかけられるのでしょう。一方、収入が低い人ほど人付き合いは希薄となり、社会から孤立してしまう傾向が強くなります。

*「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」の合計

【世帯年収別「孤独感の有無」】

100万円未満…46.0%

〜200万円未満…42.3%

〜300万円未満…39.8%

〜400万円未満…38.6%

〜500万円未満…39.2%

〜700万円未満…37.6%

〜1,000万円未満…36.8%

〜1,500万円未満…30.9%

1,500万円以上…32.6%

郷田さんの場合、仕事を完全に辞めたあとも人付き合いはそのまま。給与収入がなくなったというのに、毎月の支出も現役時代のままで、毎月、膨大な交際費を支出し、8,000万円もあった資産もたった4年で底をついてしまったと、なんとも残念な顛末です。

「本当に途中、このままではいけないと思わなかったのですか?」と尋ねても、「そりゃ思いましたよ。どんどんお金がなくなっていくわけですから。でも人との関係ってなかなか切れません。わかるでしょ?」と郷田さん。お金の切れ目が縁の切れ目とはよくいったもの。本当に破産という結果を迎えれば、ようやく適正な家計運営ができるのかもしれません。

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