トヨタが「自動車産業大変革期」を勝ち残るのに必要なこと――テスラとの再提携“西側最強タッグ”結成のインパクト

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これからの自動車業界は何が起こってもおかしくない大変革期に入る。そんな厳しい時代にトヨタが生き残っていくために必要なこととは。元トヨタ・レクサスブランドマネジメント部長である髙田敦史の著書『トヨタの戦い、日本の未来。──本当の勝負は「EV化」ではなく「知能化」だ!』より一部抜粋、再編集してお届けする。

【写真】テスラ社のサイバートラック

ロボタクシー事業でもテスラの後塵を拝してはいけない

2024年10月にテスラがロボタクシーの車両を発表する予定である。イーロン・マスク氏は「監視なしの完全自動運転が可能になれば、10年で数千万台売れる」と発言している。

元来マスク氏は自動車自体に強い思い入れがあるわけではなく、「クルマは将来コモディティ(日用品)になる」とも発言しており、その象徴としてロボタクシー事業に注力していくということだろう。

しかし、現時点で世界のタクシー業界から最も高い支持を得ているメーカーはトヨタである。日本ではジャパンタクシーやクラウンコンフォートが圧倒的なシェアを占めているし、ニューヨークのタクシー(通称:イエローキャブ)はプリウスやカムリハイブリッドがタクシー組合の推奨車種にもなっていて、高いシェアを獲得している。

私がかつて駐在していたアジア各地に行ってもタクシーのほとんどがトヨタ車だ。最大の理由はトヨタ車の品質に対する高い評価だろう。

日本のタクシーの走行距離は年間約10万キロで、5年間使用した場合の総走行距離は50万キロになる。そのような厳しい環境下で最も信頼されるブランドがトヨタなのだ。

トヨタは実用バンのハイエースやピックアップトラックのハイラックスでも市場で圧倒的なシェアを持っている。仕事でクルマを使うプロの高評価はトヨタの品質の証であり、一般消費者間での高いブランドイメージにもつながっている。

その意味では、将来出てくるであろうロボタクシー市場でもトヨタは絶対に一番になるべきなのだ。

通常のタクシーの他に、今後はMaaS車両というものも出てくるだろう。MaaSとはMobility as a Service の略であるが、乗り合いの小型バスや移動店舗など様々なサービスが期待されており、トヨタは「e-Palette」というMaaS専用の自動運転車両を開発している。この分野でもトヨタは1位を取るべきであり、決してテスラの後塵を拝してはいけない。

トヨタはテスラと再提携し「西側メーカーの最強タッグ」を

トヨタとテスラがかつて資本・業務提携関係にあったことを知っている人もいるだろう。2010年にトヨタはテスラ株の3.5%を5000万ドル(当時、約45億円)で取得し、テスラ製バッテリーを搭載したRAV4のEVを開発した。

しかしその後の共同開発は進まず、2014年にテスラはトヨタへのバッテリー供給を打ち切り、トヨタはテスラ株の一部を売却した。当時トヨタは「今後も協業関係は続ける」としていたが、2016年末に残りの株式も売却して提携関係は終わった。

ちなみにカリフォルニア州にあるテスラのフリーモント工場はかつてトヨタとGMが提携して小型車を共同生産していた工場で、テスラはトヨタに株を売った代金でその工場を購入して、トヨタの生産方式の多くを学んだと言われている。一方、トヨタの関係者からは「あまりに企業文化が違い過ぎて付き合えない」といった声もあったようだ。

イーロン・マスク氏は2030年に2000万台の販売を目指すと言っていたが、普通に考えれば達成できない目標だ。商品数を増やすだけでなく、現在5カ所(フリーモント、ネバダ、テキサス、上海、ベルリン)の工場を短期間で20カ所以上に増やさなければならない。

さすがのテスラでもこれは不可能だと思う。ましてや現状の販売実績は前年割れになっている。

ただし、2000万台は無理としてもテスラが今後も販売台数の拡大を目指すことは変わらないだろう。仮にトヨタ並みの1000万台を目指すにしてもオンライン販売だけでは限界がある。

現在のテスラの顧客は新しい商品を購入するのが好きな先進層(いわゆるイノベーター層やアーリーアダプター層)が中心である。しかし、更なる量販を目指すとなると、クルマやITに詳しくない一般の顧客(アーリーマジョリティ層、レイトマジョリティ層)にも販売していかなければならない。

そうなれば、顧客対応を丁寧に行える販売網の構築も必要になるだろう。テスラが現在やっているオンラインのみの販売ではクルマやITに詳しくない層が購入するのはかなり難しいからだ。

「2030年に2000万台のテスラ車を売る」というマスク氏の宣言の数字にはテスラ車のプラットフォーム、車載電池、車載OSの「他社への外販分」も頭に入っていたのではないかと、私は思っている。EVは車両の構造上、右記の3点が用意できれば比較的簡単に様々なタイプのクルマがつくれるからだ。

トヨタとテスラの提携関係は2016年に解消されたが、再度提携関係を結んで、テスラベースのトヨタ車や新ブランド車を生産し、トヨタの販売網を通じて販売してはどうだろうか。

トヨタがテスラから学ぶこととは?

私は生産分野の専門家ではないが、トヨタが導入する「ギガキャスト」はテスラの「ギガプレス」と同様の方式であり、テスラのパーツを自社工場で生産できればコストも下がる。

ちなみにトヨタが2019年に発売したスポーツカー(スープラ)はBMWとの協業で生まれたが、プラットフォームはBMWの「Z4」と共用している。ガソリン車と較べるとEVはこのようなことがより容易にできるはずだし、走行性能などの差別化も車載OSで行うことができる。

前回の提携ではテスラがトヨタのフリーモント工場を購入したことで多くのことを学んだが、今後はトヨタがテスラから学ぶこともある。自動運転技術やOTAなどでも協業関係ができれば今後のトヨタ車の開発にも大いに参考になるだろう。そしてテスラにとってもトヨタの販売網を活用できるメリットは極めて大きいはずだ。

トヨタとテスラが再度提携するインパクトは世界の自動車業界に大きな衝撃を与えるだろう。中国メーカーが国家の戦略と一体になってますます勢いを増す中で、トヨタとテスラがタッグを組むことは最強の対抗手段になるのではないだろうか。

私はトヨタでマーケティングの仕事をしてきたが、もし私がまだトヨタにいれば、「両社協業の新しいブランド」を立ち上げてみたいと思うだろう。

文/髙田敦史

『トヨタの戦い、日本の未来。』

髙田敦史

2024年10月25日

1980円(税込)

ISBN: 978-4797674545

トヨタが「自動車業界100年に一度の大変革期」に生き残る戦略とは!? 31年間トヨタ自動車に勤務し、商品企画、海外駐在、レクサスなどのブランディング業務に従事した著者は「ハードとしての『EV化』は出発点に過ぎず、本当の勝負は『クルマの知能化』にある!」と分析する。 本書は「トヨタへの大胆かつ具体的な提案」にまで踏み込み、更には日本企業全体のあるべき姿にまで考察を広げた――ビジネスマン必読の書である!

EV市場を牽引してきたのはテスラとBYDである。直近のEV販売は減速しているが、新しい流れであるSDV(Software Defined Vehicle)の登場により自動車は更なる進化をしていくはずだ。トヨタは2022年12月に「2030年までに30車種のEVを投入、年間販売台数350万台を目指す」と発表するとともに、脱炭素化の多様な道(マルチパスウェイ)も維持する独自の戦略を展開している。本書はトヨタの具体的な取り組みと課題について詳細な分析を行っている。 IT企業の存在感が増す中でも、自動車産業は依然として各国の基幹産業である。特に日本は「自動車の一本足打法」とも言われ、中でもトヨタの存在感は群を抜く。トヨタの今後を考えることは多くの日本企業にも様々な示唆を与えてくれるはずだ。 巻末特別付録「次世代自動車キーワード集61」付き! 今後のトヨタと自動車産業の未来、そして多くの日本企業の生き残りを考える上で必読の一冊。