「父にカッターで顔を切られた」女性が全身に刺青を入れた理由「辛い過去を“乗り越える”意味がある」
たとえば、こんな些末なことで不条理な暴力を受けたという。
「ご飯を作りすぎてしまったときは、『食費が無駄だろうが』と言ってひっくり返され、殴られました。『ひっくり返すのが無駄じゃない』と抗議をすると、追撃がきます。とにかく話の通じる人ではないんです。またあるときは、友人と遊ぶ約束をしていたのですが、突然『遊ぶな』と言い出しました。でも友人はもう自宅まで迎えに来てくれていて。そうしたら、激昂した彼に張り手をされ、私は意識が飛びました。気がつけば救急車を呼ぶ事態になっていて。その影響で、現在でも私は左耳の聴力がありません」
当然、妊婦への配慮など皆無だ。こんなエピソードもある。
「成田山にお参りに行ったときのことです。ただでさえ人混みで移動がしづらいことに苛立っていた彼は、つわりが酷くて早く移動できない私に怒りの矛先を向けてきました。妊娠しているから配慮してほしい旨を伝えても、『だったらお腹の子ども殺せよ』と怒鳴って私を引きずり回します。たくさんの人にぶつかって、私はひたすら謝っていた記憶があります」
結婚相手の暴力は妊娠中も、そして子どもが生まれてからも、止むことはなかった。そればかりか、危険は子どもにまで及んだ。
「妊娠中、ささいなことでキレて、すぐに『子ども殺せ』と怒鳴るんです。あるときは洗剤を無理矢理飲まされて、病院で胃洗浄を行うことになりました。別のときは包丁を持ってきて『腹を刺せ』と言って殴られるなど、散々でした。包丁の一件のときは、彼の会社で働く従業員もいたのに、止めてくれることはありませんでした。スーパーで私がボコボコに殴られたときも、警察を呼んでくれる人はいましたが、誰も止めたりはしないんだなと思いましたね。生まれてからも、泣き声に苛ついて子どもを殴る、などは日常茶飯事でした。現在、離婚することができてよかったと思っています」
◆「虐待は連鎖する」は逃げでしかない
前述の通り、るいるいさんは2児の母。SNSからも、傾ける愛情の深さが伝わってくる。そこには、るいるいさんの確固たる矜持がある。
「子どもは本当に可愛いです。元旦那は『自分も虐待家庭で育った』とよく言っていましたが、それはまるで虐待の連鎖をしていることの言い訳のように聞こえました。また、私がSNSで虐待の被害を告白したとき、知らない人から『虐待は連鎖するから、あなたも虐待をする可能性がある』と指摘されたこともありました。でも私は、虐待されたから自分も子どもを虐待するなんていうのは、情けない人間の逃げでしかなくて、本当にカッコいいのは『自分は決してしない』と固く誓って子どもを愛し抜くことじゃないかと思うんです」
全身を覆う刺青にも当然、意味がある。
「左の太ももには、天使と第一子の誕生花と出生時間の刺青を入れました。子どもを必ず幸せにするんだという私なりの誓いのようなものです。背中には、第二子の誕生花を大きく描いてもらい、人生において大切にしていることを英文で刻みました。またお腹にはスカルや蝶々を描き、辛い過去を“乗り越える”意味を持ちます。どの刺青も、私にとって『こういう人生でありたい』という願いを込めた大切なものであると同時に、愛する我が子との絆の意味があります」
◆将来の夢は「子連れでも利用可能なパーソナルトレーニングジム」
現在の収入源はTikTokなどを中心に、さまざまな仕事を掛け持ちしていると話するいるいさんには、将来的に叶えたい夢があるという。
「子連れでも利用可能なパーソナルトレーニングジムを開業したいですね。女性は出産後、体型の悩みが出てくる場合が多いですが、子育てに追われているとなかなか自分のケアに時間を割くことができません。まして、パートナーの理解がなければ、そうしたジムに通うことも難しいでしょう。だから子どもも一緒に行けるジムを作れたらと考えているんです」
裏切られれば信じることは怖くなる。まして実の両親や愛したパートナーからの有形無形の暴力を受ければ、生きる気力は目減りしていく。
だが、るいるいさんは決して顔を下げない。画面の向こうにいる無数の人たちに向けて、自分と愛する家族のありのままを発信し続ける。ときにいわれのない中傷を受けることもあるだろう。摩耗する、コスパの悪い生き方かもしれない。けれども強い意志によって、自らの幼少期に得られなかった幸せの手触りを確かめ、子どもに伝える挑戦に力強く乗り出した。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki