ここ数年、空前の副業ブームが到来しています。厚生労働省は2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、その後、2020年と2022年に二度の改定を経て、企業が従業員に対して副業を許可することを推奨しています。
この背景には、少子高齢化による労働人口の減少や、より柔軟な働き方を許す社会の必要性が高まっていることが挙げられます。
2024年11月にはフリーランス保護法が施行される見通しで、企業のフリーランスに対する不当な契約解除や不適切な報酬減額、支払いの遅延などが厳しく取り締まられるようになります。多くの人が複数の仕事を持ち、会社員とは別にフリーランスの顔を持つようになってきた今の時代に即した、大きな追い風となることでしょう。

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そう話すのは、4回の転職を経て外資系大手IT企業で部長を経験、転職・キャリアをテーマにX(旧Twitter)、note、書籍で情報を発信するライター、転職デビルこと安斎響市さん。サラリーマンとして働きながら執筆業の副業を経験、その後独立された安斎さんに、「副業を通じたキャリアの自立」について伺いました。

副業が「キャリアの保険」となる時代が到来

副業によって得られるメリットとして最も代表的なのが「収入の増加」です。これは、ただ単に手元のお金が増えるというだけではなく、「リスク分散」としての前向きな効果があります。
先行きが不透明で、将来の予測が難しい現代において、所属企業の突然の倒産やリストラといった事態に直面するリスクは誰にでもあります。たとえ大手有名企業に勤めていたとしても、10年後に経営状況がどうなっているかは分かりませんし、事業売却による出向/転籍や、早期希望退職プログラムなどの対象になる可能性もあります。

そのような予期せぬ出来事に対して、従来のように一つの職に依存する働き方は、ますますリスクが高くなっています。ここで注目されているのが「副業」です。
副業は、メインの仕事が安定しない時やライフスタイルの変化に備える「キャリアの保険」としての役割を果たします。たとえ本業でトラブルが発生しても、副業を持つことで生活を支える手段を確保できるのです。

副業は収入の補填だけでなく、スキルや経験の幅を広げる手段にもなります。特に、将来のキャリアチェンジを視野に入れている人にとって、副業で新しいスキルを磨くことは非常に有効です。また、これまで接点のなかった業界や人脈を築く機会にもなり、キャリアの幅を広げるチャンスが増えます。

副業を始める際の注意点

副業には多くのメリットがありますが、始める際には慎重な計画とバランス感覚が必要です。最も大切なのは「本業あっての副業」という意識を忘れないことです。
副業に精を出したせいで本業でのパフォーマンスが落ちたり、所属企業や取引先に迷惑をかけたりする状況を避けるため、本業と副業それぞれに投下するリソースをきちんと管理しなければなりません。
具体的には、副業に取り組む時間を本業の就業時間外に設定して直接的な影響が出ないようにすること、睡眠時間やリフレッシュの時間もきちんと確保して過労状態にならないようにすること 等です。
また、所属企業の労働契約や就業規則を事前に確認することも必要です。一部の企業では、副業が全面禁止されている場合や、事前申請して許可を得る必要がある場合があります。違反した場合、職場での信頼を失うリスクもありますので、あらかじめしっかりと確認しておくことが重要です。
当然ながら、税務面の準備も忘れてはいけません。 副業によって得た収入は、一定の金額を超えると確定申告が必要になる ため、その準備を怠らないようにしましょう。

このように、副業を始める際には様々な注意点があります。リスク分散のために検討したはずの副業なのに、逆に副業のせいで自分の首を絞めることにならないよう自己管理が必要です。

リスク分散に効果的な副業の選び方

副業選びにおいては、まずは、自分の保有スキルや過去の経験をダイレクトに活かせる内容を選ぶのが最も成果は出しやすいです。例えば、IT技術や英語、マーケティング、デザインなどのスキルを持っている人は、フリーランスの仕事やオンラインでのサービス提供が、副業として取り組みやすく、かつ市場の需要も高い分野です。
その他、ブログやせどり、オンライン秘書など、様々な副業の手法はありますが、重要なのは、個人的な適性があるもの、毎日やっていて楽しいもの、無理なく続けられるものを選ぶことです。
フルタイムの会社員として日々働きながら、そのうえで退社後の夜の時間帯や、休日のプライベートを削って副業をすることになる以上、自分がやっていて面白くないもの、苦手なものを副業にしても長期的に上手くいくはずがありません。

本業の会社員の仕事では、思い通りにならないこと、納得のいかないことにも我慢して「仕事だから」と自分を押し殺して働く部分もあることでしょう。しかし、本業の仕事が終わった後、さらに副業まで同じようにストレスが溜まる内容をやっていたら、とても精神的に持ちません。
個人で始める副業だからこそ、「本心からやりたいことをやる」「あえて会社員の仕事とは別のことをやる」のが、回りまわって成功への近道になる はずです。

副業を通じたキャリアの自立

副業は単なる収入源ではなく、自身のキャリアをより柔軟で多様なものにする手段でもあります。企業の枠にとらわれない働き方を実践することで、将来の不確実な状況にも対応できるスキルや経験を蓄積できるのです。
さらに、副業を通じて得た経験や人脈は、やがて本業にもプラスの影響を与えることがあります。副業で学んだスキルを本業に応用したり、新たなビジネスチャンスを見つけたりすることができるからです。

私自身は会社員時代、マーケティング/PRの仕事をしていたのですが、副業でSNS運用やブログ記事執筆を経験したことにより、本業の方でも、商品紹介のキャッチコピー作りやSNS販促、広報ブログ執筆などにダイレクトに知見を活かすことができました。
本業一筋で仕事をしていたら到底思いつかなかった新規アイディアを出せたり、副業で磨いた文章作成能力が本業にも役立ったりと、多くのメリットを感じていました。

このように、副業をうまく活用することで、 リスク分散を図りながらキャリアを豊かにすることが可能 です。「副業禁止」はもはや過去のものとなり、現代の働き方においては、複数の収入源やスキルを持つことが、自分自身のキャリアを守るための重要な要素となっています。

プロフィール

安斎響市@転職デビル

1987年生まれ。日系大手メーカー海外営業部、外資系大手IT企業の事業企画部長などを経て、2023年に独立。「転職とキャリア」をテーマに、X(旧Twitter)、note、書籍などで情報発信を続けている。Xフォロワー4.4万人。転職活動の実践ノウハウを語る週刊連載noteマガジンの有料会員は、累計7,000名を突破。

代表著書 『私にも転職って、できますか? ~はじめての転職活動のときに知りたかった本音の話~(ソーテック社)
『転職の最終兵器 未来を変える転職のための21のヒント(かんき出版)』
『すごい面接の技術 転職活動で「選ばれる人」になる唯一の方法(ソーテック社)』
『正しいキャリアの選び方 会社に縛られず「生き残る人材」になる100のルール(ソーテック社)』 X(旧Twitter) 安斎響市@転職デビル ブログ note(安斎響市@転職デビル)
転職デビルは夜しか眠れない。