なぜ日本人は「お金儲け」を嫌うのか…目の敵にされる「お金儲けをする人」の正体とは

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近年注目が集まっているアントレプレナーシップ。「起業家精神」と訳され、高い創造意欲とリスクを恐れぬ姿勢を特徴とするこの考え方は、起業を志す人々のみならず、刻一刻と変化する現代社会を生きるすべてのビジネスパーソンにとって有益な道標である。

本連載では、米国の起業家教育ナンバーワン大学で現在も教鞭をとる著者が思考と経験を綴った『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』(山川恭弘著)より抜粋して、ビジネスパーソンに”必携”の思考法をお届けする。

『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』連載第59回

『米経済学者「テロ犯罪者と起業家は一緒」…元米経済学会会長が唱えた「日本人は知らない」両者の共通点とは』より続く

お金儲けは悪いことなのか

日本では、お金儲けというと少しネガティブな印象があるかもしれません。たとえば、ある起業家が事業を起こして、軌道に乗ったところでバイアウトする。すると「結局、お金儲けだったんでしょう」と揶揄されてしまう。たとえば、プロ経営者としてあちこちの企業を渡り歩く人も、あまり良い目で見られません。プロ野球選手でも一つのチームに所属し続ける人はいいのですが、高額の給料をもらって移籍する選手に対して「金のためだろう」と冷ややかに見る人も珍しくありません。

どこかに「お金儲けは悪いこと」「お金儲けをしている人は、悪いことをしているんじゃないか」という思考があるように思います。たしかに、人を騙すようなことをして、金儲けに走ることは、よくない。

たとえば、いまだになくならない特殊詐欺。いわゆるオレオレ詐欺などですが、このスキームを最初に思いついた人には、語弊がありますが「アイデア」があります。クリエイティブな想像力、発想力があります。そして、一緒に詐欺を働く人を集める力があり、実際に実行する能力もあります。あえて語弊があることを承知でいうと、起業家としての資質があります。ただし、その資質の活かし方、方向が、大きく間違っているのです。破壊的なEntrepreneurshipは不幸しか生みません。

重要なのはお金儲けの手段

ITの世界でも同じことがあります。優秀なプログラマー、エンジニアは世界にたくさんいます。なかには画期的なプログラムを生み出す人もいる。その画期的な発想の一つが、すでに古典ともいわれるマルウェアの原型の一つ「トロイの木馬」です。今も、世界中で数多くのウイルス、マルウェアがはびこっており、それを活用した詐欺が横行しています。

一方で、それらへの対策を行うさまざまなサービス、対抗プログラムを開発しているプログラマーもいます。そこで求められる才能、技術は、ほとんど同じだといいます。片や詐欺を行うため、片やそれを止めるため、同じ能力を使っているのです。

きっとお金が儲かること自体は悪いことではないのです。なぜなら、多くの日本人ビジネスパーソンが大好きな、松下幸之助も本田宗一郎も、お金を儲けたのです。日本人が嫌いなのは「ズルをしてお金儲けをする人」です。「悪いことをして、お金儲けをする人」です。「楽をしてお金儲けをする人」です。

そうはいっても、他人の目はそれほど気にしなくてもいいのです。それよりも、自分自身に対し、「それはズルをしていないか」「悪いことではないのか」という視点で問いかける習慣が必要なのです。

『「父は桃太郎というやつに殺されました」…童話から学ぶ「正義」が持つ意外な危うさとは』へ続く

「父は桃太郎というやつに殺されました」…童話から学ぶ「正義」が持つ意外な危うさとは