市長には土建業者から「多額献金」が…!北海道釧路市「メガソーラー激増」の知られざる背景

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釧路市内を車で走っていると、雄大な湿原のなかに、突如として太陽光パネルの海が現れる。なぜ、釧路なのか。なぜ、外資系業者の参入を止められないのか。住民、土建業者、市長、徹底取材した。

前編記事『市の職員は「把握しきれない数です」とポツリ…!止まらない「メガソーラー開発」、外資系企業が釧路に群がる「裏事情」』より続く。

言い出したのは小泉進次郎

開発によって災害リスクも高まるとして、今年5月には地元住民が2万人の署名と計画中止を求める要望書を市長に提出した。音別町で歯科医院を経営する村上有二氏は、こう怒りを露にする。

「日本海溝・千島海溝沿い地震の想定津波高は20mを超えますが、メガソーラーの計画場所は津波災害警戒区域なのです。もし津波が起きてパネルが湿原に散乱すれば回収はほぼ不可能だし、パネルから火災が起きた場合には消防のアクセス道路がありません。大雨時の増水で湿原の中を走るJR根室線が脱線する危険性もあります。

しかし、開発を進める外資系企業はメガソーラーを投機対象としか考えておらず、さまざまなリスクを考慮していない。しかも、そうして発電された電気を使うのは、都市部の人たちなのです」

村上氏ら住民たちは、「そもそも国立公園内にメガソーラーを作ると言い出したのは小泉進次郎です」と憤る。進次郎氏が環境大臣だった'20年に、国立公園内で再生可能エネルギー発電所の設置を進める規制緩和を打ち出したことが、開発を加速させたというのだ。

太陽光発電の強引な工事はほかの場所でも起きている。市街地から30kmほど北西にある阿寒町に今年8月に完成したスペイン系事業者のメガソーラーは、事前の住民説明会もないまま民家の近くに建てられてしまい、住民が健康被害を受けた。

現地を訪れると、民家の真後ろに5000枚を超えるパネルが建っていた。住民は憤懣やるかたない様子でこう語る。

市長と地元土建業者の「関係」

「工事の際に鉄骨を打ち込む音がキンキンとうるさくて右耳が難聴になりました。2階の西側の部屋がパネルからの照り返しで暑くなってしまい、1階の部屋でエアコンをつけて寝ている。文句を言ったら業者から恫喝され、排水路を私たちの家の水路に繋げようとするなどヒドイ嫌がらせを受けました。こんなことがあって良いのでしょうか」

こうした太陽光発電の負の側面を抑えるために釧路市では昨年、「釧路市自然と共生する太陽光発電施設の設置に関するガイドライン」を作成し、さらに踏み込んだ規制を行うために条例化の作業も進めている。だが、今年9月に公表された条例案の骨子には、太陽光発電の抑制区域に肝心の「市街化調整区域」が含まれていないことがわかり、骨抜きの条例だと批判を浴びている。

背景には何があるのか。

4期目を務める釧路市の蝦名大也市長は、かねてから太陽光発電の規制に及び腰だと地元紙や環境保護関係者から批判されてきた。取材を進めると、市長と開発を進める地元土建業者の「癒着」を指摘する声も聞こえてくる。

「市長は太陽光に関わる地元土建業者のA社から多額の献金を受けていると言われている。そのため、強い姿勢で条例化に踏み切れないと囁かれているのです。こうした状況を地元紙は『支持基盤に配慮か』と報じ、市長が『太陽光を規制する条例を作るならA社の了承を得ないと』と言っているのを聞いた人もいます。

さらにA社と関係の深い市内の古参土地コンサルタント会社のB社が、外資を含めた多くの太陽光工事に絡んでいることも問題です。B社は土地取得に関する申請書類の偽造など、強引な行為を繰り返している」(道の行政関係者)

A社から市長への多額の献金

実際、政治資金収支報告書を見ると、'13年以降、A社とその社長から蝦名市長が責任者となっている政治団体などへわたったカネは約700万円。トータルではその数倍が献金されているとも言われている。

またB社の代表者についても、土地登記の際の委任状の名前を勝手に変更して'19年と'20年に法務大臣から戒告処分を受けただけではなく、市役所との協議記録を偽造したことが明らかになっている。

前述した音別町と阿寒町の工事にも2社が絡んでいて、被害を受けた阿寒町の住民を「恫喝」したのはB社の代表だったという。筆者は釧路市とこの住民が交わした記録文書も確認したが、そこには「『お宅の横を道路にしてもいいんだぞ』と(B社の代表から)恫喝された」との一文が残っていた。

市長との「癒着疑惑」についてA社に取材を申し込むと、同社の役員が対応した。

「(献金に関しては)蝦名市長のお父さんがウチの会社にいた縁で長年の付き合いがあります。そのため、蝦名氏が釧路市議会議員になった'93年当時から支援をしているのです。支援は釧路市の発展のためにしているので見返りを求めるものではないし、献金でウチの仕事が増えたということもありません」

「電気が必要ないの?」

B社の代表にも話を聞くと、「行政処分を受けた原因はほかの書類とつけ間違えただけ」と釈明したうえで、太陽光発電の現状を話しだした。

「うちの会社で扱っている案件には外資も多い。実績があるからどんどん客が来る。とにかく太陽光に関係する仕事が忙しくて昨年は5日しか休めなかった。外資がどんどん入ってくるのは、彼らは太陽光ファンドを作り、売電収入による配当と利回りを見込んで投資家が集まっているから。今や外国企業にとってメガソーラーは完全に投機対象なんです」

そして、メガソーラーのリスクについて聞くと、こう声を荒らげた。

「災害なんてどこででも起きるもの!もし市街化調整区域で太陽光を作らせないと言うのなら国が土地を買い取るべきだ。太陽光に反対する人たちは電気が必要ないの?

そんなに嫌なら家のブレーカーを落とせばいい!」

太陽光発電をめぐる様々な問題に、当の蝦名市長はどう答えるのか。質問書を送付すると、概ね次のように回答した。

市長は「現実的ではない」と語るが

「(太陽光条例で市街化調整区域を抑制区域に含めることに関しては)市街化調整区域内には約4万5000筆の土地があり、膨大な所有者数になる。同区域内に法的な規制を設けるためには地権者等との調整を図ることが必要なため現実的ではありません。

太陽光発電施設の設置については、各法律をはじめ、国で定めたルールがあるため、本市の豊かな自然や、希少な野生生物の保護を検討するには、太陽光発電施設の設置に係る条例の中では規制の限界があり、自然保護を目的とした新たな手法が必要と考えております。そのため、(自然環境を主語とした)新たな条例の制定を視野に環境省とも協議を開始したところです。

(地元土建業者との癒着に関しては)そのような事実は一切なく、市長選に向けた意図的な声や報道と疑わざるを得ません」

北海道教育大学釧路校教授で市の環境審議会の委員を務める伊原禎雄氏は、市長の姿勢にこう疑問を投げかける。

「市街化調整区域で建築物を建てることは法律で規制されていますが、太陽光パネルは非建築物の扱いのため条例で建設を規制できないというのが市の説明です。しかし、他の市町村では規制しているところもある。できるにも関わらず制定中の条例ではやらず、別の条例にわけることは理解できません。そもそもキタサンショウウオを市の文化財として保護する一方、取り締まる法律がないから生息域に太陽光パネルを置いても構わないというのでは矛盾しています。市長には責任を持って欲しい」

さらに、釧路市環境審議会会長の神田房行氏(元北海道教育大学教授)もこう指摘する。

「市が次に進めると言う『自然環境を主語にした条例』は、骨抜きの太陽光条例を批判された市長が市街化調整区域を規制しないかわりに代案として言い出したものです。一見、良い取り組みに聞こえますが、自然環境や希少種の保護条例で土地を保護区に指定するには地権者と契約を締結する必要があって相当ハードルが高く、すでに保護されている公有地や保護団体の保護地くらいしか保護区指定できません。一方、現在制定中の太陽光条例では地権者の同意がなくても、広域で太陽光の規制ができるため、釧路に殺到している外資ソーラーなどから守るには太陽光条例で厳しい規制をかけるのがすぐに取り組めて有効なのです」

市街化調整区域などへの太陽光発電を規制する条例を6年前に設けた大阪府箕面市を取材したところ、地権者からの同意は得ていないと言う。つまり、神田氏が指摘するよう、太陽光条例であれば地権者の同意不要で市街化調整区域への設置規制ができるのだ。

釧路市長選は10月27日に行われ、5期目を目指す蝦名氏と太陽光規制に柔軟な姿勢を見せる他候補との対決が注目される。15万人の市民が行く末を見守っている。

「週刊現代」2024年10月19日号より

市の職員は「把握しきれない数です」とポツリ…!止まらない「メガソーラー開発」、外資系企業が釧路に群がる「裏事情」