「ゴミ屋敷」で入念に準備していた…「49歳中年引きこもり」がで首相官邸を襲撃した「意外な理由」

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全身を防護服で覆い、顔にはガスマスク

「事件当日の朝、ガレージにあるはずの息子の車が見当たらないことに気づき、『仕事に行ったのかな』と喜んでいました。まさか火炎瓶を投げに行っていたとは……。中年の引きこもりだと思っていましたが、じつは時間をかけて準備をしていたようです」

自宅のリビングで淡々と語る男性。 東京・千代田区の自民党本部に火炎瓶を投げ込んだ後、首相官邸前に車で突入し、現行犯逮捕された臼田敦伸容疑者(49)の父親だ。

事件があったのは10月19日早朝。自民党本部前に軽自動車で乗り付けた臼田容疑者は、運転席から降りると、高圧洗浄機のような機器で警察官に液体を噴射。全身を防護服で覆い、顔にはガスマスクのようなものを被っていた。さらに、車内から取り出した火炎瓶を複数本、本部正面入り口付近に投げ込んだ。

その後、約500メートル離れた首相官邸前に移動し、侵入防止用の柵に突入。運転席から飛び出し、発煙筒を警察官に投げつけ、公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕された。

軽自動車の車内にはガソリンが入ったポリタンク20個のほか、火炎瓶と発煙筒が複数残されていた。警視庁公安部は計画的だったとみて事件の背景やいきさつを調べているが、臼田容疑者は黙秘しているという。

家族で反原発活動

臼田容疑者は埼玉県川口市で父親と2人暮らし。川口市内で歯科医院を営む父親の篤伸さん(79)は、警視庁からの連絡で事件を知ったという。

「息子は性格的に人を殺したりするような人間ではありません。ただ、悪い意味で正義感が強い。背景にあるのは自公政権が行っている政策に対する反発・反感かもしれません。自分なりに考えた末の行動なのでしょう。ただ、暴力で言論を抑制しようとするのはもってのほかです」

様々なモノが雑然と置かれているリビングには反原発の張り紙があり、新聞記事など反原発関係の資料も山積みになっていた。臼田容疑者は、2011年の東日本大震災を機に反原発を訴える活動に熱心に関わるようになったという。

「関西電力大飯原発の再稼働をめぐり、近くでテントを張り、抗議活動に参加していました。反原発の考え方は理解できます。テントに寝泊まりすることはありませんでしたが、私も集会に参加したり、資金をカンパするなど息子の活動を応援していました。90歳になる私の姉も同様に息子の活動を応援していました。

ただここ数年、息子は活動をともにしていた仲間との関係も断ち切っており、彼らからの電話にも出ていませんでした。活動をやめたのは慕っていた指導者が亡くなったことも影響しているかもしれません。

今回の事件の動機についてはっきりしたことはわかりませんが、反原発との関係は薄いと思います。あくまで政治的なもの、政権に対する反発でしょう。それを間違えた形で突発させてしまった」

自室は「ゴミ屋敷」

臼田容疑者は高校を卒業後、ウェブサイトの制作や長距離トラックの運転手といった職を転々とした。数年前からはウーバーイーツの配達員をしていたという。

「親への反発として家に帰ってこない時期もありました。私は家出だと思っていましたが、じつは川崎と九州を往復する長距離トラックの運転手をしていました。運転手は8年ほどやっており、この時期は川崎にある寮やアパートに住んでいました。

ここ15年ほど2人暮らしです。私は1階、息子は2階で生活していました。食事も別々で、お互い干渉しない生活です。親子間の会話は少なく、最後に話したのは事件の4日ほど前です。

ただ、立ち行った話こそしませんでしたが、親子の関係は悪くなかったと思います。ハッピーという犬を飼っていますが、親子で協力して世話をしていました。犬がいることで親子関係はうまくいっていたと思います。

息子には一時期交際していた女性もいました。反原発の活動で知り合い、うちにも泊まりに来ていました。ただ、相手方の信仰の問題もあってか、長続きしませんでした」

ウーバーイーツの配達員をやめたのは約半年前。以降、自室にこもるようになったという。自宅からはガラス瓶などが押収されており、自宅で火炎瓶などを作っていた疑いがある。

「息子が不在のときにペットボトルを処分することもありましたが、部屋はゴミやら何やらが散乱しており、まさにゴミ屋敷です。

要するに中年の引きこもりだと思っていました。ところが、実際には仕事をやめてから材料を揃えるなど綿密に準備をしていたようです。半年どころか、何年もかけて計画を練っていたのかもしれません」

こう言うと、篤伸さんは「パソコンなど多くは警察に押収されてしまいましたが」と臼田容疑者の部屋とガレージに案内してくれた。

部屋の床には電気コードや段ボールなどが散乱し、机の上にはパソコンのディスプレイやキーボード、飲み残しのペットボトルなどがいくつも置かれていた。一方、ガレージには一斗缶や段ボールなどが積み上がっていた。

つづく後編記事『特殊な家庭環境、反原発活動…「首相官邸突入男」の実父が明かした「中年引きこもり」がテロを決意するまで』では引き続き、臼田容疑者の生い立ちや家庭環境について、父親が明かしています。

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