定年後の誰にでも訪れる悲惨すぎる落とし穴…「俺は自由だ」と思う60歳以上の人が陥る「意外な勘違い」

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元伊藤忠商事会長、そして民間人初の中国大使を務めた丹羽宇一郎さん。仕事に生涯を捧げてきた名経営者も85歳を迎え、人生の佳境に差し掛かった。『老いた今だから』では、歳を重ねた今だからこそ見えてきた日々の楽しみ方が書かれている。

※本記事は丹羽宇一郎『老いた今だから』から抜粋・編集したものです。

定年してから気が付く

「定年後は何か新しい事業を起こそう。俺は大企業で大きなプロジェクトをいくつも成功させてきたのだから、きっとうまくいくはずだ」と考えている人もいると思います。

確かにそういう人は優秀で、これまで自分の責任で大きな成果を上げてきたという自負も強いことでしょう。しかし、そういう人であっても、定年退職後に「ゼロからスタートして起業するぞ」という気力を維持するのはかなり難しいと思います。

なぜなら、人間は一人では何もできないからです。

当たり前のことですが、仕事は「自分の責任」だけではできません。何人もの人の助けや励ましに支えられることで、成し遂げることができるのです。「自分一人でやった」というのは大きな勘違い。驕りというのは往々にして、こうした勘違いから生まれるということを、肝に銘じておかなければなりません。

企業で会長や社長をやってきた人も同じです。本人は「自分が会社を動かしてきた」と思っているかもしれませんが、実際には副社長や常務に「これをやっておいて」「あの書類はどこにある? 持ってきて」「この仕事は○○君に頼んでおいて」などと指示していただけで、自分では何一つやっていない。私自身、全部誰かに助けてもらっていました。

会社を動かすのは社員の総力です。社員たちが懸命に働いているからこそ、会社は動いている。しかし残念ながら、会社を辞めてから初めてそのことに気づき、「俺はいったい今まで何をやっていたんだ……」と愕然とする人は、けっして少なくないようです。

人間、一人でできることなど、たかが知れています。

家族の理解も必要

たとえば、起業して自宅で仕事をするようになれば、顧客からの連絡や訪問の対応をはじめ、いろいろな面で一人では処理しきれないことが出てくるはずです。配偶者や家族のサポートがなければ、お客様への対応一つ満足にできないかもしれない。そういうことを考えておく謙虚さが必要です。

私の場合、以前は家の外に事務所を持っていました。日比谷、赤坂、半蔵門、自宅に近い川崎市など、何度かその場所を移しましたが、二〇二三年三月いっぱいで完全に事務所を閉めました。理由はコロナ禍やお金の問題ではなく、自分自身の体調の問題です。

病気をして事務所に行くのが難しくなって以来、お客様から連絡があっても直接対応できず、秘書とのあいだで「こういうご連絡がありましたが、どうしますか」「それはこうお答えしてくれ」といったやりとりが続きました。これ以上事務所を開けておくと、かえってお客様に迷惑がかかると判断し、自宅で一人で仕事をすることにしたのです。

もちろん、事務所を閉めるにあたっては、事前にワイフに相談し、了解してもらいました。自宅療養中でも会議や打ち合わせはオンラインでできるので、私自身に不自由は何もありませんが、ワイフの仕事はいろいろと増えるからです。

起業を考えている人は、つい自分の仕事のことばかりに注意が向きがちですが、家族への影響も考えておかないと、理解と応援を得るのは難しいでしょう。

どこを拠点に仕事をするか、配偶者のサポートはどこまで必要か、家族の誰かに秘書的な役割を担ってもらうのか、その場合の報酬はどうするのか、といったことをよく考え、事前に家族に相談して了解を得ておく必要があると思います。

さらに連載記事〈ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」〉では、老後の生活を成功させるための秘訣を紹介しています。

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