文科系部活の最大派閥「吹奏楽部」がいま抱えている「深刻な悩み」…それでも「吹部が好き!」顧問&部員が「好成績を残せたワケ」

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今月19日から「第72回全日本吹奏楽コンクール」が栃木県宇都宮市などで開催される。“中学生の部”から“職場・一般の部”まで、幅広い年齢層のアマチュア楽団が参加する、“吹奏楽の甲子園”とも称される一大イベントだが、その環境に“ある異変”が起きているという。

はたしていま、吹奏楽界が抱える諸問題とは――。

あの大物議員も吹奏楽部のOB・OG

青春小説『響け!ユーフォニアム』、バラエティ番組『笑ってコラえて』などで、「吹奏楽部」の存在を改めて知った方も多いだろう。

“ブラバン”とも“吹部”とも称される吹奏楽部は、文科系部活の最大派閥でもあり、現役部員はおおよそ100万人、経験者は1000万人を越える。10月に就任したばかりの石破茂総理も、対抗馬であった高市早苗・前経済安全保障担当大臣も、学生時代には吹奏楽部であったという。身の回りを探せば「自分も吹奏楽経験者です!」という方が、どこでも相当数いるはずだ。

しかし、各地の吹奏楽部の悩みは尽きない。『響け!ユーフォニアム』でも描かれているような部員の確保だけでなく、練習場所や活動資金、さらには「働き方改革」による指導者の確保など、『響け!〜』作中にも描ききれない「リアルな課題」と向き合っているのだ。

まずは、少子化を見据えて2024年から実施されたコンクールの制度改定を通じて、変わりゆく吹奏楽界の現状を見てみよう。

少子化・過疎化で「複数校合同チーム」も

吹奏楽コンクールの出場定員は、全国大会に繋がる「A部門」が中学で50人、高校で55人以内。現在、少子化と人口減少で、強豪校でも昔のように部員を確保できず、全国大会の出場に繋がらない小編成部門(各地で呼称に違いあり。35人以下など)出場に切り替えたり、コンクールの参加自体を辞めてしまう学校も多い。

10人、20人で好成績を収められないわけではないが、選曲が限られるなど、不利な点が生じがちだ。全日本吹奏楽連盟はこういった団体にも全国大会への門戸を開くため、複数の学校による「合同バンド」が出場できるよう、2024年度から中学校に限り出場ルールを改定した。

『響け!ユーフォニアム』なら、北宇治高校での単独出場のため、放課後すぐに仲良く練習に入れる。これが、交流のない他校同士となると、どう違うのか?

合同バンドとして北海道大会で好成績をおさめた「美幌中学校・美幌北中学校」にお話を伺った。

昨年までは美幌中がB編成(35人以内)、美幌北中がC編成(25人以内)で出場、うち美幌北中は、関東以北の東日本と北陸で独自に行われている「東日本学校吹奏楽大会」(30人以内の団体限定)で、北海道代表として山梨県甲府市に遠征、みごと「東日本大会の金賞」(この年は代表30団体中の上位11団体)を受賞している。

しかし部員数は、美幌中が30人、美幌北中が15人。美幌北中を東日本大会に導いた三木田秀明教諭は「これ以上部員が減ると、合奏自体ができない」と危機感を抱き、美幌北中サイドから合同バンド結成を打診したという。

2校合同とは思えない一体感

2つの学校は、距離にして4kmほど。互いの学校を行き来することで練習時間は減るが、美幌町の場合は2校のちょうど中間地点に音楽ホール「びほーる」があり、リハーサルなどに活用できたという。

美幌町は子供から大人まで昔から吹奏楽が盛んな土地柄で、昨年には「全日本小学生バンドフェスティバル」全国大会金賞を受賞した美幌小・東陽小合同の金管バンドもあり、中学が離れているといっても、もともと同じバンドだったメンバーも多かったとのこと。合同バンド結成の素地はあったと言えるだろう。

合同バンドは双方の先生が指導を分担、美幌中の櫻井恵教諭の指揮でA編成に出場した。なお「コンクールを聴くために全国を飛び回る吹奏楽愛好家」数人(筆者、音大卒の弟含む)で実際に拝聴したが、課題曲「勇気の旗を掲げて」冒頭3小節目、局の最初のハーモニーが驚くほどしっかり決まっていた。

また、要所で旋律が歌い込まれた音楽づくりに引き込まれ…2校合同とは思えない一体感のある演奏で、全員が後から「いいバンド見つけた!」と意見が一致した好演であった。

全国大会には進めなかったが、旭川・札幌・函館などに全国レベルの実力校が点在する北海道で、A編成の金賞(今年は16団体中6団体。うち代表は2団体)は、相当な快挙だ。A編成に出場すると東日本大会への出場はできないが、単独出場ではなし得ない大人数でのサウンド作りは、充実した体験だったという。現在のところ、2校と教育委員会の調整が叶えば、来年以降も合同バンドでの出場を考えているそうだ。

なお2024年のコンクールでは、「中学生の部」で合同バンド6団体が県などの代表として各支部の大会に進み、うち「浜の宮中学校・中部中学校」(いずれも兵庫県加古川市)が関西代表として、合同バンド初の全国大会出場を果たす。少子化を見据えた制度改定が、さっそく実を結んだと言えるだろう。

吹奏楽部の「資金調達」問題

吹奏楽部の運営には、資金確保、指導者確保など、少子化以外にもさまざまな苦労がつきまとう(『響け〜』での北宇治高校吹奏楽部の何気ない演奏の影にも、こういった苦労はあるはず)。リアルな実情を見てみよう。

まず吹奏楽部には、楽器が必要だ。学校によって違うとはいえ、自前での楽器購入が約3割、その場合は「平均30万3983円」の費用がかかっているという。各校で使用される楽器は良心的な価格設定ではあるが、それでも「平均24万4480円(新品購入の場合)」となっている(2020年・マーケットエンターブライズ 「吹奏楽部の活動に関する実態調査」より)。

なお参考までに、筆者は当初、学校備品を使用していたものの、高校2年で楽器(テナートロンボーン)を購入。14万5000円の資金は、ふつうに労働(朝練習前の牛乳配達)で調達した。

運営する側の資金力も必要だ。文化庁資料によると、標準的な吹奏楽部の活動費用は「バス代6万円×3回」「トラック3万円×4回」など、総計87万5000円。

一方で収入は1人1000円程度の部費と、年額10万円程度の学校予算。収支はそうそう合わず、赤字を埋めるために対外演奏(町のイベント、結婚式場など)で謝礼を稼いだり、定期演奏会のパンフレットで広告を募ったり、寄付を集めたり、さまざまな資金調達が行われる。

吹奏楽部の「教員の残業」問題

また、顧問や現役部員が頭を下げて地域をまわることも多く、中には未成年なのに熟年サラリーマンのような営業スキルで、寄付や優遇(トラック代の割引など)を勝ち取ってくる吹奏楽部員や、給料が出る訳でもないのに働くOBもいたりする。

しかし、どうしても野球やサッカーより寄付が集まりづらく、学校によっては「野球応援のため」として楽器購入に至る場合も。一方で、双方の縁が深い学校では、野球部OBの方の企業が吹奏楽部のコンサートに広告を出してくれるなど、見事にギブアンドテイクの関係が完成している場合まである。

台所事情は学校・団体それぞれ。こういった部活運営のノウハウは、もっと共有された方が良いだろう。

「働き方改革」による指導者の確保も問題となっている。教職員に適用される「給特法」は、給与に調整額が上乗せされる代わりに平日の残業代が出ず、休日の「部活手当」も、時給換算で1000円台といったところ。吹奏楽部に限らず、活発な部活動は、この待遇にもかかわらず、生徒のために汗を流す教職員に支えられている。

吹奏楽部は経験者が多い分、「笑ってコラえて!」で有名になった淀川工科高校・丸谷明夫先生(もともと電気科の教諭)のように、音楽教師でなくても指導できる教員も多い。さまざまな先生方の頑張りやマンパワーが部活の支えに…過度に頼ってはいけない。顧問の先生も人間なので、一定の負担軽減策は必要だ。

近年は、外部からの地域指導員を呼ぶ場合もあるが、待遇が必ずしも十分ではない(例:横浜市 は「基本1週間当たり1〜4日、1日2時間程度 時給1840円」)。吹奏楽部に限らず、「先生に負担をかけない部活指導の確立」「待遇や労働環境の向上」を考えなければいけない。

吹奏楽部で身につく「社会で使える実戦スキル」

こうして振り返ると、吹奏楽部は父兄の負担も大きく、子どもを入部させようか迷う方も多いだろう。しかし、「中・高での吹奏楽部入部はメリットが大きい!」と、筆者は断言する。

吹奏楽経験では「クラス別・男女別」だけでないコミュニティスキルが磨かれ、体育会系・文科系双方のマインドを持てる。かつ対外的な活動の多さから社会性やマナー、集客のために観客のニーズを読む力、ステージ経験から精神面や度胸も磨かれる。

さらに、資金面などで早くから大人の理屈に付き合うため、社会ですぐ役に立つコスト意識、陰で支える支援者への気配りが身につく。吹奏楽経験で得られるのは音楽の知識、根性やコミュニティスキルだけでなく、社会人として「マーケティング」「マネジメント」「戦略立案」に活かせるような経験ができてしまうのだ。

参考までに、「知らない人と会話すると、緊張で翌日に発熱」という極度の“コミュ障”が、吹奏楽部で徐々にスキルを身につけ、会社員として営業部の管理職を全うした、筆者のような事例もある。

吹奏楽経験は最高に楽しいだけでなく、「リアルに役に立つ!入部して&子供を入部させて損はない!」と、声を大にして言わせていただきたい。

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