交代出場時の鬼木監督と小林。4枚替えの采配も当たった。(C)SOCCER DIGEST

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[J1第34節]川崎 1−1 G大阪/10月18日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu

 2017年から8年、指揮を執り、1年目での悲願のリーグ制覇を含めた7つものタイトルを川崎にもたらしてきた鬼木達監督の今季限りでの退任が決定した後の初のゲーム。川崎はホームでのG大阪戦を1−1で引き分けた。

 様々な想いが駆け巡った発表から2日。指揮官は「特別、自分のために頑張るとかそういうものはむしろいらないという話をしていて、とにかく選手一人ひとりが輝くことを求めて」と振り返ったが、簡単に割り切れるものではなかったはずだ。それほど鬼木監督がクラブに残してきたものは大きかったということだろう。

 それでも0−1で迎えた試合終盤、やはりチームを救ったのは、それこそ指揮官と苦楽をともにしてきた37歳の魂のストライカー、小林悠であった。

 相手ペナルティエリア左、深い位置からの遠野大弥のクロスを、小林は打点の高いヘッドで相手に競り勝ちながら決めてみせた。今季はVAR判定などでの“幻のゴール”が多かったが、ここで結果を残すのが小林悠という男なのであろう。

 これで今季はリーグ戦での2得点目だが、10節の広島戦ではJ1通算140ゴール目を挙げ、“カズさん超え”を達成。G大阪戦で通算ゴールを141点に増やし、途中出場からの通算ゴール数は歴代トップになったとも言われる。
【動画】川崎の小林のゴール
 そして感動的だったのは、試合後、引き上げてきた小林が、鬼木監督とガッチリ握手をかわした姿だ。

「オニさんが『やっぱり悠が決めてくれたな』と言ってくれて。いろんな意味があったと思うんです。でも僕はオニさんの退任が決まって最初のゴールを『悠がやっぱり決めてくれたな』と言ってくれたのかなと感じました。その瞬間ちょっと涙が...ちょっと答えられなかったというか...。

 うん...でも、やっぱりもう一点取ってオニさんを勝たせたかった。今日は絶対に自分が決めなくちゃいけないとピッチに立ちましたし、最後決めたかったですね」

 それこそ2010年に小林が大卒で川崎に入団した際に、同時にトップチームのコーチに就いたのが鬼木監督だった。2017年に小林をキャプテンに任命したのも、当時初の監督に挑戦した師だった。そのシーズン、川崎は悲願のリーグ初制覇を果たし、小林はリーグMVPと得点王をダブル受賞したのは、広く知られるところだ。

「2010年からコーチをしているオニさんとは、“同期”と言いますか、監督になる前からずっとお世話になっていたので、やっぱり寂しさはありますね。

 個人的には今季はタイトルがなくなって、オニさんの退任が決まって、モチベーション的にも本当に難しい状況でしたが、正直オニさんとやれる残りの試合をどう戦うかというメンタルでやるのが、僕にとっては良いモチベーションになると思うので、少しでも多くの勝利を共有したいです」

 鬼木体制で戦えるのは、リーグ戦の5試合(悪天候で延期になった浦和戦は後半45分を戦う)とACLエリートの4試合。そのピッチで小林がひとつでも多くのゴールを奪う姿を願いたい。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)