バーキンから下北古着まで…転売ヤーも続出、空前の「中古品ブーム」のワケが見えてきた

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「中古市場」の盛り上がり

「中古市場(セカンダリーマーケット)」が昨今、ものすごく盛り上がっている。国内外問わずの「ブーム」といってもいい。そしておそらく、今後はブーム特有の熱がある程度冷めてからも、市場が成熟し、定着していくだろう。そんな話を駆け足になるが、ここでさせてほしい。

ただし、中古市場とひとくくりに語るのは無理がある。

専門誌『リサイクル通信』の調査によると「リセール経済圏」は、自動車を除くと2025年には10年前の2.5倍の3.5兆円になると見込まれているそうだ(『WWD JAPAN』2291号)。一方で、2024年9月放送の『ガイアの夜明け』(テレビ東京)では「リサイクル市場」が今や6.2兆円に拡大していると報道していた。どちらにしても大きな数字で相当な市場規模だが、いかんせん、数字が乖離している。

当然のことながら、新品市場(?)と同様に中古市場にも、さまざまなフェーズやカテゴリーに違いがある。切り取る角度が異なれば、同じテーマを話しているつもりでも、話が全く噛み合わない点に留意するべきだ。

この数字の乖離について、いきなり種明かしすると、『WWD JAPAN』が注目しているのは、主にファッション・ブランド商品のリセール市場で、『ガイアの夜明け』が報道しているのは、白物家電やぬいぐるみなどのジャンク品も含めたリサイクル品すべての市場規模の話である。リセール、リサイクル、リユースと中古市場の呼び方も各媒体で一定ではなく、筆者の見るところ、業界内はともかく、一般的には決まったルールや条件はなさそうだ。強いて言えば、売る側・買う側のどちらに話の重点を置くかで、変わっているのかもしれない。

市場拡大の理由とは……?

ともあれ、消費者の好みや経済事情、購入したい対象への予算や考え方によって、消費者の立ち位置はいくらでも変わる。

たとえば、服はフリマアプリの「メルカリ」で中古のユニクロ(メルカリでもっとも検索されるのはユニクロだ)を購入するので十分満足だが、推し活対象のフィギュアやアクリルスタンド(略してアクスタ)には定価以上の金額でも躊躇なく支払う人がいる。あるいは、地域掲示板サイト「ジモティー」でタダ同然で譲り受けたありあわせの家具で暮らしていても、PCやスマートフォンなどのガジェットの最新情報はキャッチアップし、新作iPhone発売日には必ずゲットしないと気が済まない人だっている。

「いろんな人がいるからね」の一言で済ませたら、話はここで終わってしまう。しかし、消費の流行は社会の動向と密接に関わっている。新品だけではなく、中古商品の市場規模が拡大しているなら、何かしらの理由があるのではないだろうか。

中古市場の「異なる景色」

中古市場に物が流れるには、誰かが不要な物を売却する買取先が必要で、それが「伊勢丹新宿店」や「コメ兵」なのか、郊外のロードサイドにある「ブックオフ」や「セカンドストリート」なのか、メルカリなのか、商業施設に店舗を構える「大黒屋」や「買取王国」なのか、突然家にやってきて金目のものを激安価格で買い叩いていく「押し買い」業者なのかで、見える景色もいささか変わってくる。

べらぼうな付加価値がついたアイテム売買で活況を呈しているラグジュアリー中古市場に参戦する富裕層がいる一方で、「昭和レトロ」な雑貨やファッションを楽しむために古着屋に通う若者がいる。美術品のオークションやプレミア価格がついた「エルメス」のバッグ「バーキン」を買うといった中古市場は、前者の究極の中古消費だし、東京・下北沢に密集した古着屋で楽しそうに物色する昭和レトロなファッションに身を包んだ若者たちの中古消費は、令和時代ならではだ。

中古と新品をシームレスに見比べる

そうした市場の盛り上がりを好機ととらえた、いわゆる「転売ヤー」や「せどり」に勤しむ人々が目立つようになったのも、ここ数年の現象だろう。筆者はリサイクルショップの「トレファク」で、仕事帰りと見られるスーツ姿の男性がスマホで検索しながら、慣れた手つきでせどりできそうな商品を探しているに違いないところを目撃したことがある。スマホの画面はメルカリだった。「ごく普通の人が今や、せどりを副業にする時代なんだな」と印象に残る場面だった。

筆者の周囲にいる20代の若者たちの多くは、欲しい服や小物があったらまず、ファッションショッピングサイト「ゾゾタウン」とメルカリで検索するという。新品と中古を同時に調べて、価格と商品の状態を天秤にかけ、「コスパの良いほう」を選ぶわけだ。もちろん、「知り合いならともかく、見知らぬ他人の古着は気持ち悪くて着られない」という人も若者に限らずいるが、「なぜか雑貨だとあまり気にならない」という人もいた。

ともあれ、買い物するにあたり、新品と中古をシームレスに見比べ、検討すること自体は、ごく普通の消費行動になっている。

ヤフオクからメルカリへ

日本のCtoC市場は、1999年の「ヤフー!オークション」スタートが、公園や広場で行うフリーマーケットの時代から一線を画す分岐点となった。さらに、ガラケーからスマートフォンに移行し始めた時期の2013年にメルカリが創業。いつでもどこでも手元で検索と売買が可能という簡単システムに魅了された(!)多くの人々によって、とうとうメルカリの事業規模は2024年にヤフオクを抜き去った。今や不要になった物を「メルカリ行き」と呼びならわすまでになっている。

こうして家の中にあるものすべてが「資産」になり得るという思考が一般化すると、何かを買って仮にそれが失敗だったとしても「メルカリ行きにすればいいや」となり、買い物するさいのハードルが低くなる可能性がある。さらに、「もしかしてメルカリ行きにするかも?」とか「しばらく使ったらメルカリ行きにしよう」と最初から想定して買い物をすると、慣れた人ほど、半ば自然に「売れやすい」形や色を選ぶことになる。

つまり、出口を見越した売れやすさを基準に買い物するのだ。こうした考え方が習慣化すれば、消費の仕方への影響は少なくない。賢い消費とも言えるが、自分の個性や好きなものへの追求の否定にも繋がりかねない。

ロレックス、エルメスの争奪戦

売れやすい商品が人気となれば、人気なうえに品薄なアイテムが争奪戦となる。

顕著な例をあげると、新品はもちろん、中古でも定価以上で売買されるロレックスの腕時計やエルメスのバッグ界隈が今、大変なことになっている。人気商品を手に入れるために、ロレックスやエルメスの店舗をハシゴしまくる「ロレックス・マラソン」「エルメス・パトロール(略してエルパト)」といった俗語まで生まれる状況だ。開店と同時に長蛇の列ができたり、整理券が配られたりで、相当な上顧客でもない限り、目が飛び出る額の商品を買うつもりでも優雅なショッピングとはいかなくなっている。正直言って、どうかしていると思うが、2024年現在、それが実情だ。

ヴィンテージ消費も同質化

こうした情報が出回り始めると、ブランド物や高級品がタンスの肥やしになっている富裕層が片付けや次のお買い物のちょっとした足しに、と不要品の出口を探すようになる。

その受け皿の最大手が名古屋発祥のコメ兵だが、この買い取りビジネスに最近参戦し、注目されているのが三越伊勢丹の「アイムグリーン」である。ここ数年、売上高更新を続けている伊勢丹新宿店は、他の百貨店が潰れたり、場所貸しのショッピングモール化したりする中で、外商を中心とした富裕層の囲い込みが今のところ、功を奏している。「アイムグリーン」は、伊勢丹で買ったものを伊勢丹が買い取り、伊勢丹でまた買い物をしてもらう、という好循環を狙ったものだ。もちろん、伊勢丹で買ったものでなくても真贋をチェックしたうえで買い取り可能なので、伊勢丹という「のれん」を介して、顧客との信頼関係を強固にするために中古市場を活かした施策である。

そうした富裕層が手放したブランド品がどこに行くかというと、リサイクル業界内で売買され、さまざまな種類の店舗に並べられるが、ここ数年、急増しているのは厳選したブランド商品だけを扱う「ヴィンテージショップ」だ。ヴィンテージショップでの買い物の様子や戦利品をYouTubeに投稿する人たちも増えており、視聴回数も好調のようだ。

イケているヴィンテージショップの代表的な存在「VCM」や「アメリ」は、セレクトのセンスの良さで、ファッション感度が高い層に支持されている。ここからエルメスのブレスレット「シェーヌダンクル」の人気に火が付き、インフルエンサーがこぞってシェーヌダンクルを身に着ける、といった現象さえ起きている。今は入手困難となった、状態の良い過去の商品がたくさん並び、その中から好きに選べるのにもかかわらず、ヴィンテージ消費でも同質化が進んでいくのかもしれないと、筆者が思った興味深い流行だ。

また、昔から質流れ市 のようなイベントは各地で行われていたが、こうしたイベントにインバウンドや海外の業者も殺到している。日本人が使った中古品は傷みが少ないという理由に加えて、最近は円安が需要に拍車をかけているようだ。バブル時代に日本人が買いまくった、古いブランド品も海外に輸出されており、メイド・イン・ジャパンならぬユーズド・イン・ジャパンの中古品が十分にビジネスになっている。

中古市場拡大は必然だった

ことほどさように中古市場と一口に言っても、その様相は多種多様なのである。

本原稿は2024年10月15日に書いている。ここのところ、金相場が上がり続けているが、本日も金の国内小売価格は過去最高値を更新し、1グラムあたり1万4000円を突破した。ちなみにコロナ禍前の2019年は4500円前後であった。5年で約3倍。貴金属の中古市場がさらに盛り上がるのは必至だ。家に眠る貴金属がこぞって市場に吐き出されるに違いない。並行して、ここ数年、年に何回も価格改定している貴金属の新品価格も上がるだろう。

最近、ショッピングモールの空き店舗や広場で古着マーケットが開かれているのを見かけるようになった。ユーズド品に抵抗がなくなった人が増えたことと、苦戦するモールの事情が合致した結果である。什器に凝る必要がないので、低コストで空間を埋められて、「SDGs」的なお題目にも沿い、需要もそれなりにあるからだ。

あのユニクロも「循環型社会」を目指す取り組みとして、自社の古着販売を始めている。中古市場は企業のSDGsの施策に組み込むのにも、うってつけだ。中古市場拡大は必然と言っていい。

新品需要が主だった消費生活に中古市場がうまく組み込まれるようになったのは、基本的には良い流れだと思う。ただし、経済的な事情で中古品しか買えない層の選択肢が増えてよかったね、といった安易な「問題解決先」として中古市場が機能する一面があるとすれば、少々気がかりだ。

ともあれ我々はおそらく、これまで以上に新品と中古の間を行ったり来たりする消費生活が当たり前の時代を生きることになる。

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