世界を見れば「反中」の国はそんなに多くない…日本が目を背けてきた「事実」

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中央アジアや中東・アフリカを中心とした協力体制を整えつつある中国。今まで強権を持っていた欧州各国は2022年に勃発したロシアのウクライナ侵攻によってゆっくりと力を落としている。そんな米欧露を横目に中国は覇権の確立を目指す。中国研究者でありインドの国立大学研究フェローの中川コージ氏は『日本が勝つための経済安全保障--エコノミック・インテリジェンス』(ワニブックス刊)にて、覇権の確立を目指す中国について解説している。本書より一部を抜粋して紹介する。

日本が思っているほど「親米」「反中」の国は多くない

アメリカ、中国は「超大国」ですが、日本はあくまでも「大国(地域大国・非超大国)」です。これは卑下しているわけでは全くありません。規模とポジションについての誇りある適正な自己認識です。また、「アメリカと常に足並みをそろえてさえいれば苦労しない」とか「アメリカのやることをスケールダウンして、何分の一、何十分の一レベルで真似をして追従していれば間違うことはない」などと思い込むのも危険です。

たとえば2022年2月末から発生したロシアによるウクライナ侵攻(宇露戦争)においては、欧米が日本に対して「一緒に足並みをそろえてロシアに圧力をかけてくれ、ウクライナを支援してくれ」と要請してきます。これに応えていれば何となく「やっている感」は出ますが、本来、日本がやるべきことはそれに加えて他にもあるはずです。

たとえば中国は、宇露戦争(中国側はウクライナ危機と称しています)の影で、欧露米の全世界的プレゼンス低下を鋭く見極め、中央アジア、南米や中東との結束を強化し、経済協力を表明するなど結びつきを強化していました。

ASEAN諸国のうち重要な国を狙った友好の一手を打ちつつ日米と連携するフィリピンとの対立を深めることでASEAN内の離間工作を進め、冷え切っていた中豪関係も温め直しました。日本も2022年5月に入ってから岸田首相がASEAN3カ国を歴訪するなど「対中牽制」とみられる動きを見せましたが、まだまだ中国の全地球規模での巧みな一手には及ばない範囲にとどまっています。

日本が思っているほどには、世界各国の「親米」「反中」度合いは高くはありません。むしろ「親中」でなくとも「反米」だったり、先に述べたように国連で何らかの採決を取る際には中国と足並みをそろえたりという関係性を、中国はアフリカを中心に構築しつつあります。

自由主義陣営が中国に負ける

2019年10月、人権問題を扱う国連総会第三委員会で欧米が中国によるウイグル人弾圧非難声明を出した際に、賛成したのは23カ国で、アジアでは日本だけが賛成したのが現状です。一方、中国を支持した国はロシアやパキスタンなど54カ国。数だけで言えば、国連での数の戦いで自由主義陣営はすでに中国に負けている状況です。

続く2021年6月の国連人権理事会で発表された新疆、香港、チベットの人権状況を懸念する共同声明では、欧米諸国や日本など44カ国が署名したのに対し、ベラルーシ代表が同日に発表した中国擁護の声明に署名した国はアフリカ、中東などを中心に69カ国に達しました。中国を支持する国々の方がずっと多く、自由主義陣営が劣勢、中国側の主張が優勢になる形勢で、国連が分断されつつあるのです。

欧露との協調に腐心してきた

これまでの中国は、2049年をめどにアメリカを軍事、産業経済、科学技術、文化、エンタメ、マネーなどで凌駕することを目標にしてきました。そして、その世界覇権を米国から奪取するために、中国は欧州主要国やロシアとの協調を図ることに長年腐心してきました。

大国の戦略的競争関係の構造上、中国がアメリカと頂上対峙するためには欧露が重要なパートナーになります。中国は、中国 vs. 米欧の構造になることを避けなければならず、中国 vs. 米国、として露欧が中国側につけばやりやすいと考えていたわけです。

しかし中国にとって難儀で、御(ぎょ)しがたいのは特権階級的な欧州各国(特に英・仏・独・伊)で、これらの国々に対しては、経済支援合作や原発宇宙技術開発合作を行い、かなり急進的な脱炭素政策にも迎合する、といったあらゆる手を使って、揉み手で下から目線で接近し、カネもヒトも投資してきました。すべてはアメリカを凌駕するためです。

中国にとっては「棚ぼたチャンス」

そうした背景のもとで2022年、宇露戦争が発生しました。

ロシアの侵攻前後では、欧米諸国が対露経済制裁を決める中で、中国はロシア・ウクライナへの二方美人で、主に経済的利得(ウクライナとの自由貿易も継続しつつ、露の天然資源を中国が購入したり迂回貿易をしたり)を確保すると見られていました。

しかし侵攻が長期化したことにより、ロシアは国際社会での信用を著しく毀損しただけでなく、直接的な経済ダメージも十分に受けつつあります。

そして将来的にロシアが国家解体的リセットにならない限り、欧州主要各国は自然エネルギー確保のコストが増加することに加えて、宇露問題が片付いた後でさえ軍事安全保障のコストを上げざるを得ないでしょう。よって欧州と露は長期的な「地盤沈下」を起こすことがほぼ確定してしまいました。

中国にとっては、元来より「2035年長期目標」などと表現されるように、これからの数十年間は欧露との協調期間を経て、G2構造(米中の両超大国が国際ルールを主導)を経由して、長期的にはG1構造(中国覇権の確立)に着地するという目論見がありました。いわば、欧露と社交ダンスを踊りながらG2を確立し、その後、G1へ至るというシナリオです。

ところが今般の偶発的な欧露の「地盤沈下」により、中国はこれまでのように欧州貴族国家のご機嫌取りをする必要性が低減します。もちろん、これまで通り対米戦略の一環として対欧州先進諸国協調は重要ですが、従来よりも対欧の戦略的重要度が低減し、コスト投下を緩くすることが可能になったので他の戦略的対象にエネルギーを割くことができるようになる、ということです。

言い換えれば、中国はロシア・ウクライナ問題の対処によって、欧露とのダンスでなりふり構わず尻尾を振って踊って、体力を消耗する必要がなくなりそうな状態になってきたということになります。長年米国に打診しながら足蹴(あしげ)にされ続けた悲願のG2構図に、実質的に自力シフトすることが可能になりそうな「棚ぼた」チャンスが発生したわけです。

続く記事【親中国家・オーストラリアがついに反旗を翻す! かと思いきや、途切れなかった「蜜月関係」】では親密さを深める中豪関係について、解説しています。

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