行楽の秋に訪れるべき場所はどこか。歴史評論家の香原斗志さんは「城めぐりをお勧めする。この時期だけの色鮮やかに飾られた城郭を見ることができるからだ」という。香原さんが選んだ「いま訪れるべき日本のお城ランキング」2024年秋編をお届けする――。

■京都の真ん中にあるけれど紅葉の名所

夏の城めぐりはキツイ。とくに今年は猛暑で、流れ出る汗の量が半端ではなかった。下手をしたら熱中症になる恐れもある。また、木が茂って建造物が見にくく、石垣も草に覆われて、石積みが良く見えないことが多い。危険な動物などに遭遇するリスクもある。

その点、秋は城めぐりにふさわしい季節である。歩きやすい気候で、草木が夏のようには生い茂っていない。だが、それだけでない。木の葉が美しく色づいて、城のある景色がとても映える。

夏に躊躇していた人は、ぜひこの時期に各地の城を訪れることを勧めたい。では、どこの城をめぐるのがいいか。そこで紅葉シーズンにこそ訪れたい8つの城をピックアップしてみた。景色の美しさだけではない。歴史的に価値があって、遺構がよく残り、それらと紅葉がマッチし、しかも訪れやすい、ということを選ぶ際の基準にした。

第8位は二条城(京都市中京区)。徳川家康が慶長6年(1601)に築城に着手した、京都における徳川将軍家の本拠地で、世界文化遺産に登録されている。現存する国宝の二の丸御殿で、最後の将軍の徳川慶喜が大政奉還を行ったことでも知られる。

京都の真ん中に位置する平地の城だが、ここが意外にも紅葉の名所なのである。

■緑の芝と紅葉の組み合わせがいい

歴史的景観を眺めるなら、二の丸御殿の前に広がる特別名勝、二の丸庭園がいい。作庭の名手、小堀遠州の手になる池泉回遊式庭園で、美しくも力強い石組と水面の合間に、色鮮やかな紅葉が映える。本丸の西側、重要文化財に指定されている西北土蔵の周囲も、石垣と堀を背景に、赤や黄色の紅葉と白い土蔵とのコントラストが美しい。

二条城二の丸庭園(写真=Nagono/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

一方、本丸御殿は、京都御苑内の旧桂宮邸を明治27年(1894)に移築したもので、本丸庭園も明治時代、ヨーロッパの庭園を意識して設計された。だから、二条城が「現役」だったころの景観ではないが、緑の芝と紅葉の組み合わせがいい。本丸の天守台からも、本丸庭園のほか、色づく紅葉を一望できる。

城内北側の清流園も、昭和39年(1964)から整備された庭だが、和洋折衷の庭園に色とりどりの木々の葉が調和する。

■色鮮やかに飾られる真田家の居城

第7位には丸岡城(福井県坂井市)を挙げたい。天正4年(1576)に柴田勝家の甥の勝豊が築いたとされるこの城には、天守が現存し、重要文化財に指定されている。外観が古式であるため、一時は日本最古の天守と考えられていたが、その後、寛永年間(1624〜44)に建てられたものだとわかった。とはいえ、小さな二重天守は古武士のような佇まいで味わい深く、屋根には珍しい石瓦が葺かれている。

丸岡城(写真=baku13/CC-BY-SA-2.1-JP/Wikimedia Commons)

城山の麓の堀跡にもうけられた霞ヶ城公園から山上の天守を眺めると、紅葉に囲まれて美しさが格別だ。もちろん、本丸にも多くのモミジがあり、古式の天守とモミジの組み合わせを間近から眺めるのも趣深い。

第6位には上田城(長野県上田市)を選んだ。天正11年(1583)に真田昌之が築いた城で、その2年後、徳川家康の軍勢を寄せつけず、慶長5年(1600)には徳川秀忠が率いる軍勢に足止めを食らわせ、関ヶ原合戦に遅参させたことでも知られる。

もっとも、真田氏の城のイメージが強い上田城だが、いまに残されているのは、元和8年(1622)に小諸(長野県小諸市)から移封になった仙谷忠政が再建したものだ。現在、本丸には3棟の二重櫓が建つ。西櫓は仙谷氏の時代から現在の位置に建っているが、南櫓と北櫓は明治初期に払い下げられ、遊郭に移築されたのち、紆余曲折を経ていまの位置に再建された。また、その2棟のあいだには、東虎口櫓門が伝統工法で再建されている。

その本丸跡では多くのモミジが紅葉する。また、二の丸堀の跡であるけやき並木散歩道は、黄色いケヤキと深紅のモミジが入り混じって美しい。場所を選ばずとも、城跡全体が鮮やかに彩られる。

■城だけでなく庭園も必見

第5位は和歌山城(和歌山県和歌山市)。豊臣秀吉の弟の秀長が築き、浅野幸長が大改築し、さらに徳川家康の十男、頼宣が元和5年(1619)に入封し、御三家の城にふさわしく整えた。三重三階の天守を核とした連立式天守が残っていたが、惜しくも昭和20年(1945)の空襲で焼失。同33年(1968)に外観復元されている。

和歌山城西之丸庭園(写真=663highland/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons)

和歌山城で紅葉がとりわけ美しいのは、江戸初期に自然の起伏をたくみに利用して造成された池泉回遊式の庭園、西の丸庭園である。国の名勝であるこの庭には「紅葉渓庭園」という別名があり、約60本のイロハモミジやイチョウなどが鮮やかに色づく。それらが池に映り込んだ美しさはたとえようもない。庭園から紅葉越しに見上げる天守も格別だ。

■夜間ライトアップで幻想的な光景に

第4位は会津若松城(福島県会津若松市)とした。東北屈指の名城で、蒲生氏郷や上杉景勝、加藤嘉明らが城主を務め、寛永20年(1643)、3代将軍徳川家光の弟の保科正之が入封してからは、会津松平家の居城になった。戊辰戦争では新政府軍に包囲され、砲撃を受けながら1カ月にわたって耐え、堅城ぶりを見せつけた。

別名、鶴ヶ城とも呼ばれる会津若松城(写真=Raita Futo/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

その後、天守をはじめとする建造物は、朝敵とされた会津藩への見せしめのように放置されたうえで取り壊されたが、天守と走長屋は昭和40年(1965)に鉄筋コンクリートで外観復元された。また、平成13年(2001)には南走長屋と干飯櫓が木造で復元されている。

城を囲む木々の全体が赤く染まり、圧巻の紅葉が楽しめる。紅葉時期には夜間のライトアップも行われ、色鮮やかな紅葉と石垣、白亜の天守が織りなす幻想的な夜景が味わえる。

■1100本のカエデによる落ち葉の絨毯

第3位には弘前城(青森県弘前市)を挙げておく。弘前藩主として君臨した津軽氏の居城として、津軽平野に築かれた弘前城は、現在も堀、石垣、土塁などがほぼ完存する、全国でもきわめて貴重な城である。そのうえ三重三階の天守のほか、3棟の櫓と5棟の門も現存する。

弘前城(写真=Feri88/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

そんな城内にはおよそ1100本ものカエデが生え、木々が鮮やかに染まるだけでなく、真っ赤な落葉の絨毯も美しい。また、約2600本のサクラの葉も、寒い地方なので色づきがよく、こちらの美しさも侮れない。現在、天守を曳屋して石垣の解体工事を行っている。その箇所は若干、無粋な景色を呈しているが、ほかのエリアだけで十分に楽しめる。

第2位は世界遺産の姫路城(兵庫県姫路市)としたい。言わずと知れた世界遺産であり、大天守をはじめ8棟が国宝に、74棟が重要文化財に指定されている。複雑に積まれた石垣と、その上に建てられた白亜の櫓や門、塀が重層的に折り重なり、その頂点に3棟の小天守に囲まれた大天守がそびえる。この唯一無二の景観は圧倒的に美しい。

じつは、姫路城の中核を占める姫山は、天守のすぐ北側の斜面にケヤキやモミジバフウなど、秋に鮮やかに紅葉する木が集中的に生えている。北側から紅葉越しに眺めた白亜の天守は、息をのむほど美しい。

姫路城を訪れたら好古園(正式名称は姫路城西御屋敷跡庭園好古園)も訪れたい。発掘された武家屋敷の遺構を活かして作庭された池泉回遊式庭園で、鮮やかに染まった姫山の樹林を借景に、大滝や大池の眺めを紅葉とともに楽しめる。絶景である。

秋の姫路城(写真=Corpse Reviver/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

■世界遺産に近づいた名城

さて、いよいよ第1位である。10月9日に文化庁がユネスコの事前評価の結果を発表し、課題はあるものの、世界遺産に登録する評価基準を満たす可能性があるとされた彦根城を挙げたい。

彦根市金亀町にある彦根城(写真=先従隗始/CC-Zero/Wikimedia Commons)

徳川四天王の一人、井伊直政が藩祖である彦根藩井伊家の城で、直政の死後、大坂の豊臣包囲網の一環として、徳川家康の支援で築かれた。すなわち諸大名が自費で工事を担当する天下普請で工事がはじめられ、慶長20年(1615)の大坂夏の陣で豊臣氏が滅んで以後は、井伊家単独で工事を続け、完成した。

国宝の天守のほか、天秤櫓など重要文化財に指定されている建造物が5棟現存する。城の中核をなす金亀山の北側の麓には、井伊家の下屋敷に付随して作庭された池泉回遊式庭園、玄宮園があり、この庭が秋にはあでやかに色づく。

国の名勝に指定されているこの庭園から遠望する天守は、彦根城の代表的景観だが、とりわけ紅葉の季節は美しい。また、紅葉時は夜間にLED照明で庭がライトアップされ、日中とはまた違った幽玄な景色が味わえる。

むろん、金亀山自体も赤や黄で染まる。現存する建造物を間近から、紅葉を重ねて眺めても美しい。

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香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家
神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。
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(歴史評論家、音楽評論家 香原 斗志)