大統領選直前のアメリカで話題沸騰! ハリケーンは共和党支持地域だけを通過する

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日本での報道をみていると、米大統領選の最終盤にさしかかっているにもかかわらず、アメリカの「陰謀論」が大々的に報じられてはいない、という印象を受ける。しかし、アメリカでは相変わらず陰謀論「花盛り」の状況がつづいている。

「ハリケーンをコントロールする政府」?

最近、耳目を集めたのは、9月26日夜にフロリダ州に上陸したハリケーン「へリーン」をめぐるものである。同州の北、ジョージア州選出の下院議員(共和党)、マージョリー・テイラー・グリーン(下(1))は10月3日、インフルエンサーのマット・ウォレスが作成した、「ヘリーン」が破壊していった経路を示す地図に、2020年の選挙結果を重ね合わせてもの(下(2))を添付して投稿した。合わせて、「これはハリケーンの被害を受けた地域の地図と政党別の選挙地図を重ね合わせたもので、ハリケーンの被害が選挙にどのような影響を与えるかを示している」とつぶやいた。

ウォレスの説明によれば、「嵐は、それらの重要なスイングステートのもっとも青い地域をほぼ計画的に避けているように見える。 同時に、赤い地域を荒廃させている」。どうやら、何者かが民主党支持者の多い「青い」地域を避け、共和党層の多い「赤い」地域により被害が出るように、暴風を進ませたのではないか――との憶測を広めようとしているように映る。

バイデンも名指しで非難

これに乗っかったグリーンは、最初の投稿につづいて、「そう、彼らは天候をコントロールできる。 それができないと嘘をつくのは馬鹿げている」とも、Xにツイートした。もっとも、この主張は馬鹿げているから、「局地的な雨を降らせる小規模な「雲の播種(はしゅ)」は可能だが、ハリケーンやその他の大きな嵐を発生させることは、現代の技術では不可能だ」という注意書きがXによってつけられている(下(3))。

グリーンは、「彼ら」がだれを指しているのかを明言していない。しかし、この発言は、ジョー・バイデン大統領を怒らせた。大統領は10月9日のホワイトハウスでのブリーフィングで、彼女の名前を挙げて、「あまりにも愚かだ。 もうやめさせなければならない」と発言したのだ(The Hillのビデオ[1分20秒前後]を参照)。

なお、気象操作のもっとも一般的な形態は、ヨウ化銀や塩化ナトリウムなどの物質を大気中に放出して、それらに水分を凝縮または凍結させ、雨を降らせる「雲の播種」である。しかし、ハリケーンは広大な地域における海水温の上昇、高湿度、低風速といった大規模な大気条件によって引き起こされる、巨大で複雑な嵐のシステムなため、グリーンの主張は首肯しがたい。

逮捕者まで出る

「ヘリーン」のわずか2週間後、ハリケーン「ミルトン」は、カテゴリー3の勢力を保ったままフロリダに上陸した。この二つのハリケーンを契機に、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の職員は、同庁が寄付金を横領し、災害援助をウクライナに流用しているという虚偽の主張を含む、大量の嫌がらせを受けるようになった、と「ニューヨーク・タイムズ」は報じている。

ワシントンD.C.を拠点に「ワシントン・ポスト」紙などで気象情報を担当するマシュー・カプチーは、ハリケーンの最中に、政府が天候を操作したという内容のコメントが数百件、また、それを隠蔽していると非難するメッセージが数十件寄せられたという。

現に、10月12日には、ノースカロライナ州の男性が、「ヘリーン」の同州への来襲以降、救援活動にあたっているFEMA職員を脅迫した容疑で逮捕された。その後、一般市民を脅かすような方法で武器を携帯することを違法とする法律により起訴された。

極右民兵組織による企み

どうやら、科学的根拠のまったくないまま、陰謀論めいた話に惑わされながら、違法な行動に出ることを厭(いと)わない多数の人が、アメリカにはたしかに存在する。そうしたなかで、いまもっとも恐れられているのが、極右民兵組織による大統領選への干渉である。

最近になって、「アメリカ人愛国者スリー・パーセント」(American Patriots Three Percent, AP3)という民兵組織からの内部メッセージと文書の大量流出により、2022年の中間選挙期間中に、このグループが、票の箱を監視する準軍事的活動を行う計画の一環として、選挙否定グループと連携していたことがわかった(「Wired」の情報)。

どうやら、同じような「企み」が大統領選絡みでも起きるのではないかとの懸念が広がっている。今年9月、選挙否定グループは、ウィスコンシン州やその他の州の保安官に「AI駆動」のカメラを寄付し、ドロップボックス(投票箱)をライブ配信し、投票する人々を遠隔監視する番組(「ドロップボックス監視リアリティショー」)を制作しようと計画している、との報道もあった。計画立案者は選挙陰謀論を推進してきた人物であり、9月になって、同グループは、11月5日に投票所から選挙不正の証拠となる写真や動画を投稿できる新しいアプリを立ち上げた。

陰謀論の起源

アメリカでは陰謀論が相変わらず、至る所でくすぶりつづけているようだ。ここでは、アメリカの陰謀論について詳しく考察するだけの紙幅はない。ごく簡単にその根源となっている点を挙げると、それは、冷戦時代の中央情報局(CIA)による秘密工作にあるといって間違いないだろう。たとえば、キューバ亡命者を本国侵攻のために訓練し、1961年4月17日、1400人のキューバ亡命者がキューバ南岸のピッグス湾に侵攻、1200人近いメンバーが降伏し、100人以上が死亡した事件は、アイゼンハワー政権時代にCIAが立案した計画だった。

だが、UPI通信は1961年4月17日付でつぎのようなワシントン電を公表した。

「ディーン・ラスク国務長官は本日、反カストロ派のキューバ侵攻はアメリカ国内から行われたものではないが、アメリカは参加者の目的に同情的であると述べた。ラスクは、キューバの問題はキューバ人自身が解決すべきものであるが、アメリカはこの半球における共産主義者の専制政治の拡大に無関心でないとのべた。」

しかし、この国務長官の発言は「真っ赤な嘘」であった。それにもかかわらず、多くの米メディアはこの説明を真に受けて、秘密工作について議論することを避けた。その結果、CIAのもっとも重要な作戦の多くは、国民への説明責任を免れることになり、それがその後のトンキン湾事件(1964年8月、北ベトナム沖のトンキン湾で北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に2発の魚雷を発射したとでっち上げた事件)によるアメリカのベトナム戦争への深入りにつながったと考えられる。

「現実」から「物語」が生まれる

こうした「現実」が、「ディープステート」(深層国家)と呼ばれる陰謀論に信憑(しんぴょう)性を与えたのである。1964年にジャーナリストのデビッド・ワイズとトーマス・ロスによって書かれた『The Invisible Government』(見えざる政府)の冒頭、「今日、米国には二つの政府が存在する」と書いた。「ひとつは目に見える政府」であり、「もうひとつは目に見えない政府である」としたのである。

つまり、国家機密と欺瞞(ぎまん)と「見えざる政府」の物語があれば、陰謀説はりっぱに根を張る。それだけではない。インターネットにより、誤った主張や陰謀論はかつてないほど広範囲に、かつ迅速に広まる可能性がある。ソーシャルメディアのアルゴリズムは、怒りや恐怖といった強い感情を引き起こすコンテンツを優先する。

国家機密は国家の欺瞞の裏返しであり、それを隠蔽してきた、「国家の現実」が陰謀論を招き寄せるのだ。臭いものに蓋(ふた)をしつづければ、しつづけるだけ、国家不信は高まるのである。

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