人間にとって一番怖いものはなにか。それは人間かもしれない。ノンフィクションライターの小野一光さんは、神奈川県座間市のアパートの一室で9人を殺害・解体した白石隆浩死刑囚と面会を重ねた。小野さんが見た犯人の素顔とは――。
写真提供=共同通信社
9人の切断遺体が見つかる事件があったアパート前に手向けられた花束=2017年11月6日午後、神奈川県座間市 - 写真提供=共同通信社

■「座間9人殺害事件」の犯人が私に語った秘密

「(インターホンの)画面越しに警察手帳を見せられたんです。そのときに“終わった”と思いました。ドアを開くと、5人くらいがドカドカと部屋に入ってきて、それで僕は壁に手をついて、『ここに××さんの遺体が――』、『ここには××さんの遺体が――』って、そのうち鑑識とか応援の警察官が20人から30人くらい来ましたね」

彼はいきなり事実を認めると話し始めた。

2020年7月9日。立川拘置所で2回目の面会をしたときのことだ……。

男の名前は白石隆浩(現:確定死刑囚)。そのとき29歳。

17年10月に逮捕された白石は、神奈川県座間市の自宅アパートで女性8人、男性1人の計9人を殺害し、全員の遺体を風呂場で解体していた。この「座間9人殺害事件」の犯人である彼が、捜査員に「ここには――」と指差したのは、室内に雑然と置かれていた、解体済みの遺体の入った、クーラーボックスやRVボックスについて。

冒頭の状況で警察に踏み込まれた彼は、8件の強盗・強制性交等殺人、1件の強盗殺人、9件の死体損壊と死体遺棄罪で起訴されており、拘置所で私が面会したときは、同年9月30日から始まる初公判を控える身であった。

■淡々と犯行の詳細を語りだす

被害者の人数からいって、当然ながら検察による死刑求刑が予想される事案であり、私は死刑の回避を望む白石が、きたる裁判に備えて自身の犯行への関与を否認したり、弁解したりするものだと思っていた。

だが、そのような様子はまったくなく、彼は淡々と自身の犯行を認め、それまで世間では知られていなかった死体損壊と死体遺棄の様子について、詳細な内容を明かすのだ。

部屋に遺体を残しておくことに躊躇はなかったのかと問う私に、彼は言う。

「携帯で処分方法をいろいろ調べたんですね。そうしたら、遺体の見つかるリスクが高いのが、“捨てに行くときの職質”と“穴を掘って埋めようとしているとき”、あと“埋めたのを犬に掘り出されて”だったんですよ。だから、いずれレンタル倉庫を借りようと思っていました。その矢先だったんです」

室内に遺体を置いていると、臭気等に悩まされたのではないかとの質問には、「いろいろ調べて、完璧に処理してたんです。それで全然臭わなかった」と嘯く。白石は事あるごとに携帯を使って、方法を調べていたようだ。

東京拘置所(東京都葛飾区小菅)(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

■「人生で嗅いだことのない臭い」

「臭い消しについては、『腐敗臭』でやると、バーッと出てきますよ。漂白剤が効くとか、猫砂がいいとか……。その通りに試してやってました。もう、●●(商品名)が半端ないです。まな板の消毒とかにもいいし……」

その発言とは矛盾するが、そうやってもなお消えることのない遺体の臭気の強さについて、アクリル板越しに訴えたこともある。

「臭いは強いです。とくに内臓とか尋常じゃないです。腹を割ったときが一番すごい。割った瞬間に臭いが出てきますから。臭いについては警察でも聞かれたんですけど、説明しようがない。それまでの人生で嗅いだことのない臭いです」

私としてはその臭いよりも、遺体を解体する気味の悪さが先立つような気がするのだが、彼はそうではなかったようだ。淡々と話す。

「(気味の悪さは)自分でなんとか乗り越えました。腐敗臭で満たされるのは辛かったですよ。最初の解体には2日かかったんですね。その2日間は腐敗臭で満たされてたから辛かったです。ただ、腐敗臭がとにかく辛いけど、捕まりたくない一心だったんです」

■クーラーボックスの中に入っていたもの

解体用の道具についても、彼はネットを駆使して情報を収集していた。

「片刃ノコギリと包丁2本、あと包丁を研ぐための砥石とハサミを用意しました。ハサミは皮を切るためです。人間の皮って尋常じゃないくらい硬いんですよ。分厚いし切れない。最初は包丁でやろうとしたんですけど、刃が滑って切れないから……。骨から肉をそぎ落として、鍋で煮て猫砂に入れてました。鍋で煮るときはキムチ鍋の素を入れて消臭してました」

後に開かれた裁判で検察は、警察の捜査員が自宅へ踏み込んだ際に白石が指差した、クーラーボックスやRVボックスの中身について触れた。その内容が明らかになる前に、私と面会した白石は次のように語る。

「警察がやって来たときは、(それぞれのボックスの中に)骨と首から上があったんです。首から上は、バラすのがめちゃくちゃ大変なんですよ。調べたら、とくに顔の上半分がとにかく骨が硬いみたいなんです。だからやる前に諦めて、首ごと捨てるつもりでした」

■殺害と雑談を同列に語る

私は白石との面会で、最大で30分間ある面会時間のうち、最初の5分と最後の5分は、事件について話さないことにしていた。つまり、全体の3分の1が雑談だ。

彼はその際に、将棋を趣味にしていることや、カップヌードルミニに七味唐辛子を入れるのが気に入っていること、橋本環奈や深田恭子のような顔が好みであることなどを話し、屈託なく笑っていた。しかし、そうした軽い話題に挟まれた時間で、遺体解体時の様子といった、耳を覆いたくなる話を平然とする。私がする質問と白石による回答のあまりの生々しさに、室内でメモを取る刑務官が、辟易とした表情を見せたことが記憶に残る。

写真=iStock.com/Klubovy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Klubovy

面会時の白石は拘置所のコロナ対策で顔の半分がマスクで隠れていたが、視線に険はなく柔和な印象。話し方も穏やかで声もソフトだ。事前に見たSNSの写真ではほっそりした優男であるが、拘禁生活によってやや太り、癖毛が伸ばし放題で肩まであることから、あるお笑い芸人を想起させた。面会時の服装は一貫して、拘置所で支給される手術着に似たデザインの、ペパーミントグリーンの半袖と半ズボンの上下というもの。

そんな白石は、最初の被害者Aさん(当時21)に対し、いきなり手で首を絞めるなどして失神させ、強制性交を行う。そして自身の欲望を満たした後は躊躇なく殺害していた。

■これは残酷な話なんですけど…

「これは残酷な話なんですけど、その女の子(Aさん)を借りた部屋に呼ぶ前に、ノコギリとかを買ってました。最初から殺るつもりで……」

そう語る白石が選択したのは、失神させた被害者の手足を、事前に用意した結束バンドで縛り、ロフトに縄をかけて絞まるように輪を作り、その中に被害者の首を入れる方法。

一連の話を聞いて、初めての殺人について「どんな気持ちだった?」と尋ねた私に、彼は答えている。

「正直、運動をしていないのに、ものすごくドキドキしました……」

つまり、極度の興奮を覚えていたのだ。

Aさんの殺害以降、レイプ願望が芽生えたという白石は、口封じのために殺害した男性Cさんを除き、自殺願望のある女性を次々と騙してアパートに誘い入れた。そのうえで、〈女性がカネづるになりそうにない、本気で自殺する気がないと判断したら、いきなり首を絞めて失神させ性交。その後、首を吊って殺し、カネを奪う。証拠隠滅のため死体を徹底的に損壊、遺棄〉(検察側冒頭陳述より)という手口で、犯行を重ねていったのである。

■突如打ち切られた面会

なかには性的衝動が抑えられず、殺害後に被害者への“屍姦”を行ったケースまであったことが、裁判では明らかにされている。

私と白石との面会は、開始から2カ月と7日、11回目を終えたところで、唐突に彼から打ち切られた。尋ねる手段がないため、正確な理由を知る術はないが、事前に断りを入れたうえで、面会の結果を週刊誌で連載しており、記事が掲載された雑誌を拘置所へ送っていた。その内容について、なにかが彼の逆鱗に触れたのではないかと思っている。

後に開かれた裁判によって、白石が私に語っていたことは“事実”であったことが裏付けられたが、裁判の傍聴時に見た彼の姿は、拘置所での面会とは異なり、自身の生を放棄したかのような投げやりな態度が目立った。地裁での死刑判決後、弁護団による控訴を取り下げた彼の死刑は、21年1月に確定した。

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小野 一光(おの・いっこう)
ノンフィクションライター
1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てノンフィクションライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに北九州監禁殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。著作に『完全犯罪捜査マニュアル』『東京二重生活』『風俗ライター、戦場へ行く』などがある。
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(ノンフィクションライター 小野 一光)