2024年5月号「王の獣」扉


【画像】2024年5月号「王の獣」扉

小学館「Cheese!」にて連載中のファンタジーアクション漫画「王の獣 掩蔽のアルカナ」。こちらの最新16巻発売に合わせて、音楽ユニット「キミのね」とのコラボレーション・ソング「ハルカナアルカナ」が制作され、現在、YouTubeにて公開されている。

これを記念して、「王の獣 掩蔽のアルカナ」の原作者・藤間麗さんと、同曲の作詞を手掛けた「キミのね」つむぎしゃちさんにインタビューを実施。コラボ実現の経緯や楽曲制作時のエピソードなどを語っていただいた。

「キミのね」


「亜人」と呼ばれる半人半獣の種族が人間に支配され、奴隷のように扱われている世界。生まれつき異能力を持っていたことで、皇族の男子に仕える“従獣”という職務に着いた亜人の少年、蘇月(そげつ)は、皇宮内で何者かに殺されてしまう。

蘇月の双子の姉、藍月(らんげつ)は弟の敵を討つため、男装して武勲を立て、かつて弟が仕えた第四皇子、天耀(てんよう)の従獣となる。天耀を弟の敵と信じていた藍月は彼を暗殺しようとするが、天耀は弟を殺した首謀者でないことが分かり……というのが、本作序盤のストーリー。

「ハルカナアルカナ」および、原作の名シーンがふんだんに散りばめられたミュージックビデオは、そうした序盤(単行本1巻、2巻に相当)の展開をイメージして制作されたという。今回のコラボ企画について質問する前に、まずは藤間さんに、最新16巻の見どころなどをうかがった。

■「キミのね」が「王の獣」をどう解釈してくれるかが楽しみ

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――最新16巻では、物語はどのように展開していくのでしょう?

【藤間麗】16巻では主人公たちが周辺の国と戦争を始めて、戦いがますます激しくなっていくさまを描いています。コミカルなシーンがほとんどなく、読んでいて辛くなってしまう方もいらっしゃると思うんですけど、最後は希望を見出せる形にしているので、最後まで読み切っていただけますと幸いです。

――特に注目してほしいポイントや見どころについてお聞かせください。

【藤間麗】とにかく主人公(藍月)が頑張るので、そこが見どころです。頑張る藍月に共感しながら読んでいただくことで、さらに物語に没入できると思います。

――読者ごとに推しのキャラは異なるものの、16巻に関しては藍月に寄り添って読んでほしいと?

【藤間麗】ぜひ、そうしていただければ! 物語的にも、この巻はある種のターニングポイントといいますか。作品全体を通して、ものすごく重要な戦いであり、藍月と天耀の今後の歩みにも大きく影響する出来事を描いているので、そこに注目していただきたいです。

他にも、戦いのなかにある絶望や希望、藍月の行動で戦争の風向きが変わっていくさまなど、ドラマチックな展開をふんだんに詰め込んでいるので、読み応えのある一冊になっていると思います。

――激しい戦闘だけでなく、重厚なドラマも見どころの一つとなりそうですね。

【藤間麗】それともう一点、16巻では藍月と天耀が別々の場所にいる……というのも、重要なポイントになります。藍月が戦場で戦うなか、天耀は皇宮で自分に与えられた役割を果たすという展開なんですけど、やはり少女漫画なので、読者の皆さんは恋愛描写も見たいはずだと思いまして。16巻には“離れているけど心は繋がっている”というシーンがあるので、そこから、会いたいけど会えない、もどかしい繋がりを感じてもらって。楽しんでいただけますと幸いです。

――最新16巻は「キミのね」とのコラボ展開も話題になっていますが、コラボの話を初めて聞かれたときはどう思われましたか?

【藤間麗】とにかく嬉しくて、期待しかなかったですね。楽曲のほうも全部聴かせていただいたのですが、ヴァイオリンの音色がすごく印象的で。どの曲も本当にすてきだったので、そんな「キミのね」さんに自分の作品をイメージした曲を作っていただけることをすごく楽しみにしていました。

――藤間さんは、曲づくりにはどのような形で関わられたのでしょう?

【藤間麗】私は只々、お任せする感じでした。「キミのね」さんが「王の獣」をどのように捉えて、曲に落とし込んでくださるのか? 一ファンとして、そこを楽しみにしていた感じです。途中で一度、デモ音源を聴かせていただいたんですけど、その時点ですでにものすごくいい感じだったので「このまま進めてください」とだけお伝えして。あとはひたすら、楽しみに待っていました。

■自分たちのなかの“知らない引き出し”を開けてもらえました



――「王の獣」に対する率直な感想をお聞かせください。

【つむぎしゃち】コラボが決まったときに発売されていたのが14巻までだったので、そこまでを一気に読ませていただいたんですけど、セリフや心情を語る言葉がかなり深くて、グッとくるシーンがたくさんあったのが印象的でした。物語の舞台や藍月たちが置かれている状況は架空のものだけど、この気持ちはわかる……といいますか。共感できる描写がたくさんある作品だなと思ったので、今回の曲づくりでも、そうした感情を素直に表現することを意識しました。

――他にも「王の獣」を通して、音楽制作においてインスピレーションを受けた部分はありますか?

【つむぎしゃち】物語が進むにつれ、登場人物たちの感情はどんどん変化していくので、どのシーンを切り取るかで曲調はだいぶ変わるなと思っていたんです。それを「キミのね」のメンバーとも話しました。もっと恋愛面にクローズアップして、キュンとするようなラブソングに仕上げることもできたんですけど、今回はコラボ曲を通して、より多くの方に「王の獣」を知ってほしいという思いがあったので、単行本の1巻と2巻にフィーチャーして、藍月の感情の葛藤を表現する形にまとめさせていただきました。

――今回のコラボにおいて、曲作りにおける“新しい気づき”はありましたか?

【つむぎしゃち】自分たちのなかにあった“知らない引き出し”を開けていただいた……という感覚です。「私たちのなかには、まだまだこんな言葉や感情の表現方法があったんだ」ということを気づかせていただいたといいますか。その甲斐あって、これまでの「キミのね」の楽曲と比べても、かなり感情の乗った一曲に仕上がっていると思います。

「キミのね」は“かわいい曲を歌っているユニット”というイメージで認識されていることが多いと思うんですけど、「ハルカナアルカナ」は私たち史上、いちばんかっこいいロックな作品であり、こうした変化は「王の獣」と出会わなければ生じなかったことなので、今回、このようにしてコラボをさせていただけたことには本当に感謝しています。

――これから「ハルカナアルカナ」を聴かれる皆さんに向けて、「ここを聴いてほしい」というポイントなどがありましたら教えてください。

【つむぎしゃち】かなり早口な曲なので、歌うのも覚えるのもたいへんだと思います。でも歌詞は、私が「王の獣」から受けたインスピレーションをそのまま書き綴ったものなので、コミックスと照らし合わせながら歌っていただければ、「このフレーズはこういう意味か」といった発見があると思います。そうした楽しみ方もしていただけると嬉しいですね。

それと、なんといっても大谷舞のヴァイオリンがかっこよくて。レコーディングの際も「ここはもっとこうしたほうが、より感情や疾走感を表現できるかも」といった感じで、アレンジにもとことんこだわって制作したので、聴きごたえのある一曲になっていると思います。

■作中全シーンをイメージした曲制作に興味津々

――今後、さらにいっしょに挑戦してみたいことや、コラボレーションの企画案などがありましたら、お聞きしたいです。

【つむぎしゃち】先ほど「どのシーンを切り取るかで曲調は変わる」とお話ししましたが、じつは作曲中、「このシーンだったらこんなイメージじゃない?」とか、「挿入歌として使っていただけるならこんな曲にしたい」といった妄想で、かなり盛り上がりまして(笑)。もしよかったら、今後も別のシーンをイメージする形で、曲を作らせていただけたら嬉しいなと思っています。

――そうした展開ができたらおもしろそうですね。

【つむぎしゃち】そもそもの話になってしまうんですけど、漫画って、みんな読んでいるときに、頭のなかでいろんなBGMが流れていると思うんです。戦闘シーンなら激しい曲だったり、恋愛シーンならキュンキュンするような曲だったり。私自身、「もしこのシーンが映像になったら」といったことを妄想するのが大好きなので、「王の獣」に関しても勝手にいろいろと曲の構想を練らせていただいています。

【藤間麗】私は曲作りのたいへんさがわからないので、気軽に「よろしくお願いします」とはいえないんですけど、そうやっていろいろ考えていただけることはめちゃくちゃ嬉しいです。本当に形にできるといいですね。

【つむぎしゃち】全シーンをイメージした楽曲で、サントラCDとか出したいです! それと1点、私からも質問させてください。「ハルカナアルカナ」では、藍月の気持ちに入り込んで歌詞を作らせていただいた……ということもあり、各キャラクターの感情の動きがすごく印象に残っているんですけど、まず最初に描きたい感情があって、そこからストーリーを考えられているのか? それとも全体を通しての大きなテーマがあって、そこから1話ずつのエピソードを描かれているのか? 「王の獣」を制作されるうえでいちばん最初にあるものは何なのか、教えていただきたいです。

【藤間麗】まずはキャラクターありきといいますか、「こういったシチュエーションなら、このキャラはどう動くだろう?」といった考え方でお話を作るようにしています。「こういう流れに持っていきたいから、このキャラはこう動かそう」ではなく、藍月や天耀ならこういうとき、きっとこうするだろう……ということが自然と見えてくるので、それに沿って絵に起こしている感じです。

ちなみに、私からもお聞きしたいんですけど、「ハルカナアルカナ」では歌詞のなかに“アルカナ”というフレーズが使われていますが、こちらにはタロットカードを連想させる狙いもあったりしますか?

【つむぎしゃち】そうなんです! 気づいてくださってありがとうございます。

【藤間麗】やっぱり! きっとそうなんじゃないかな……と思って、じつは16巻の表紙は、若干ですがタロットカードを連想させる構図で描いているんです。月をイメージしたり、藍月たちを正位置と逆位置で配置したりして。たぶん、いわないとわからないくらいの要素だと思うんですけど、こちらは歌詞から影響を受けた部分になります。

――お二人とも貴重なお話をありがとうございます。それでは最後に、今回のコラボレーションに注目しているファンの皆さんに向けて、ひと一言ずつメッセージをお願いします。

【藤間麗】まずはコラボ曲で、「キミのね」さんの音楽や世界観を楽しんでいただいて。そうして「王の獣」にも興味を持っていただけたら、こちらもぜひ、お手に取っていただきたいです。逆に「王の獣」読者の皆さんには、今回のコラボを通して、曲そのものやMVも楽しんでいただきたいですね。楽曲と単行本の1巻と2巻のシーンが融合した、非常に見ごたえのあるMVになっていますので、より多くの方にご試聴いただけますと嬉しいです。

【つむぎしゃち】「王の獣」はたくさんの方に愛されている作品なので、今回のコラボは「キミのね」としてはすごいプレッシャーだったんです。作品ファンの皆さんにどう受け止めてもらえるか、作曲中は不安だらけでしたが、私たちも本当に「王の獣」をリスペクトして作らせていただいているので、ひとりでも多くお方にご試聴いただいて。楽しんでいただけましたら幸いです。

■ハルカナアルカナ

SINGLE - 2024.08.22 Release

月刊『Cheese!』連載漫画『王の獣〜掩蔽のアルカナ〜』コラボレーションソング

音楽ユニット「キミのね」とのコラボレーション・ソング「ハルカナアルカナ」


キミのね

つむぎしゃち(ストーリーテラー)、大谷舞(バイオリン)、久下真音(サウンドプロデュース)から成る音楽ユニット。2023年「あいまいハロー」でデビュー。 2024年春アニメ「ゆるキャン△SEASON3」OP曲「レイドバックジャーニー」「ハルカナ アルカナ」は9thシングル。

取材・文=ソムタム田井