常勝ソフトバンクホークスを支える「打撃投手」が明かす「打ちやすい球」の「4つの特徴」

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小久保裕紀監督のもと、4年ぶりにパ・リーグ優勝を果たした福岡ソフトバンクホークス。打撃投手としてチームを支えるのは、92年ドラフト3位で福岡ダイエーホークスに入団した濱涯泰司さん。99年の引退以降、25年にわたってホークスのバッティングピッチャーを務め、数々の名打者の活躍をアシストしてきました。「打たれる」ために投げるバッティングピッチャーは、プロの投手とは違う「職人芸」の仕事。その知られざる世界について、著書『職業・打撃投手』(ワニブックス刊)よりご紹介します。

打撃投手は「裏方」のひとつ

プロ野球の球団では、さまざまな仕事をする人たちが働いています。その中で私たち打撃投手は、一般的にチームスタッフと呼ばれています。

チームスタッフとは、試合や練習といった「野球の現場」を回していくために必要なスタッフのこと。「裏方」「裏方さん」と呼ばれることもあります。

打撃投手の他に、投手の練習パートナーであるブルペン捕手、選手の体のケアを行うトレーナー、試合の記録をつけるスコアラー、メディア対応を行う広報、外国人選手とのコミュニケーションに欠かせない通訳、スケジュール管理など庶務を受け持つマネージャー、試合や練習に必要な備品や設備を管理する用具係といった仕事があります。

専門の資格や勉強が必要なトレーナーと通訳は別ですが、その他の職種については、選手だった人が現役を引退したあと、チームスタッフとして球団に残るケースがほとんどです。

特に打撃投手は、日本のプロ野球(NPB)に所属していた投手が引退して打撃投手に転身するケースがほとんどです。ただ、最近ではNPBに所属することなく、打撃投手として採用された人もいると聞きます。

甘くない打撃投手の立場

華やかに見えるプロ野球選手という仕事ですが、毎年毎年新しい選手が入ってきますから、競争に勝ち抜かなければ、すぐにクビ(戦力外)になってしまうのが現実です。

一方、打撃投手は、きちんと仕事ができていればクビになることはありません。ただし、この「きちんと仕事ができていれば」という条件は、簡単なようでなかなか難しいものなのです。そのため、打撃投手はクビになるケースも比較的多く、チームスタッフの中ではもっとも厳しい境遇にあるといえるでしょう。

チームスタッフ全般という話でいえば、そう簡単にはクビにならないので、現役を引退する選手が誰でも、いつでもなれるわけではありません。

よくプロ野球選手のセカンドキャリアが話題になることがありますが、引退後にチームスタッフとして球団に残るというのは、好きな野球、しかもプロ野球に携わっていけるという点で、境遇としては恵まれているほうだと私は思います。

契約は基本的に1年ごとの更新です。選手と違ってチームの順位や成績によって給料が跳ね上がるようなことはありません。

支配下登録だった投手が打撃投手になると給料は下がることになります。ただし、育成契約だった選手が打撃投手になると、多くの場合、給料は上がることになります。

その後は年齢と経験に応じて少しずつ「定期昇給」があり、下がることはまずありません。優勝してもそれによって給料が上がることはありませんが、臨時ボーナスが出ます。嬉しいですし、やりがいを感じます。

プロ野球選手は、野球協約に基づく球団との独占契約がある一方、クビも日常茶飯事ですし、トレードもあり、一般的な雇用とはかけ離れた世界です。

チームスタッフは、一般社会の雇用形態とほぼ同じ。いわゆる嘱託とか契約社員に近いものだと思います。

「打ちやすい球」を投げる4つのコツ

具体的に打撃投手の仕事内容について見ていきましょう。

試合前のバッティング練習では、選手たちはイメージと動作にズレがないか、スイング軌道に狂いがないかなど、選手自身でチェックポイントを確認します。

キャンプでは数多くのバッティング練習をすることで、そうした動作や感覚などを私なりに固めていきます。打撃投手が一定の打ちやすい球を投げることで、そうした確認作業を効率良く進めることができるのです。

では、打ちやすい球とはどんな球なのでしょうか。

工業製品や農作物に「規格」があるように、私たち打撃投手が投げる球にも「規格」のようなものがあるのです。

(1)球速は100キロから110キロの間

(2)球種は垂直方向のバックスピンがかかった直球(フォーシーム)

(3)コースの基本はど真ん中(打者がコースを指定する場合もある)

(4)投球間隔は、打者の間合いに合わせる

これが理想ですが、機械ではないので完璧にはできません。それでも、いつもできるように努力しています。それぞれ、本職の投手から打撃投手になる時に対応しなくてはいけません。

打撃投手の「常識」として、打撃投手の握りというのがあります。本職の投手のストレートの握りは人差し指と中指をくっつけて縫い目にかけますが、人差し指と中指の間を開いて握ると左右のブレが小さくなるのです。私も先輩から教わりました。

打ちやすい球を投げるのは簡単そうで難しいのですが、何より厄介なのは精神的重圧との戦いです。

「打ちにくい球」の練習はしない

打撃投手が投げる打ちやすい球を打って、それでバッターにとって練習になるのかと疑問に思う方もいるでしょう。

試合では相手ピッチャーがバッターのタイミングを外したり、的を絞らせないために、球速を変えたり、球質を変えたり、投げる場所、高低・内外を変えたり、投球間隔を変えたりして投げているのだから、それを打てるようにする練習が必要なのではないか。

確かにそういった実戦的な練習もあります。その場合は、打撃投手が投げた球を打つのではなく、現役の投手が投げます。真剣勝負に近い形の練習です。

「フリーバッティング」「シートバッティング」「ライブBP」(※投手の最終調整の意味合いで行う実戦形式の練習)といった練習がそれに当たります。抑えようとするピッチャー、打とうとするバッター、両方にとっての練習です。最近はCS局やネット配信でキャンプの様子が中継されるので、ご存じの方も多いでしょうが、キャンプも中盤になってくると、そういった練習が行われます。

ただ、こうした練習をしたところで一軍の試合で参考になるのかどうかは微妙なところです。いくら実戦形式といっても、同じユニフォームを着ている味方同士では、どこか真剣勝負にはならないところがあります。むしろ、一軍レベルかどうかの参考にしたり、試合出場に向けたステップとして行われる練習といっていいでしょう。

ともかく、試合前のバッティング練習の目的は感覚のチェックが中心で、打ちにくい

ボールを打つ練習はしません。

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