学生服や体操服になぜ名前を入れるの? リユース店が考えたこと

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日本銀行が10月10日に発表した企業物価指数によると、2024年9月の国内企業物価は、前年比2.8%と(8月:同2.6%)上昇している。

電気代などは前月から横ばいではあるが、米価はじめ、食品の値上げはずっと家計を圧迫している。そういうお金の問題だけではなく、衣料に関しては新品を購入して着られなくなったものを廃棄することが問題にもなっている中、「絶対数年しか着ないのに新品で購入する衣服」である制服をどのように対策すればいいのか。ジャーナリストのなかのかおりさんが開店して5年になる学生服リユースショップ「さくらや」を取材。前編ではリユースショップを開店した経緯をお伝えした。後編ではさらにリユースのしにくい現状の背景をお届けする。

独占も…声上げることが大事

今、ちば八千代店は、池上さんとスタッフ2人が働く。何とか人件費や家賃を、まかなっている。5年続けてみて、必要とされていると感じる。制服を捨てずにリユースできるし、地域の人たちの家計を助けるというやりがいもあると、池上さんは語る。

制服に関しては、業者がぴったりサイズを勧め、頻繁に買い替えることもあると聞く。中学時代はどれぐらい成長するか予測できないから、大きめを買いたいものだ。ある私立校の関係者に聞いたが、学校は特定の制服業者と長年の付き合いがある。リユース活動を保護者が始めるにあたり、業者との関係を壊さない規模にしたそうだ。そのあたりを、池上さんはどう感じるのだろうか。

「娘が行った私立高校は、ジャケットが3万3000円で、知る中で一番高い。高校生はそんなに大きくはならないし、3年生になったときに若干短くても、注意されないと思います。ただ受験の際に着ていくので、短いと変とか、先生に指摘されて買い直しに来られた方はいる。学校に言われたら、買い直すしかない。

娘が中学の時は、中1で買った制服を中3まで着ました。ちょうど成長期だったんですよね。制服採寸の日をギリギリまで引っ張って、注文しました。成長して、ギリギリのサイズで卒業しました。

娘の高校は、お友達から制服をもらえるから買わないと言えない。指定されたものは全部買ってください、というパターンでした。私たちは、それをひっくり返しました。カバンとか体操着なども含め、全部で何十万円とかかる世界。特定の業者の独占が、何十年も続いているシステムがありますよね。公立の制服も安いわけではなく、10万近くします」

こうした長く続く独占状態のほかに、近年は様々なトラブルがあるという。

「オンライン入力の注文を、始めた学校があります。普段のウエストサイズを入力し、制服サイズが勝手に算出されるんですけど、明らかに間違っている。デカパン競争みたいな、大きすぎる制服が来たって、駆け込んでこられる方が多くて。なので、当店ではその学校の受験話を聞いたら、採寸は気をつけてくださいねってお伝えするんです。ウエストサイズが大きくても、下は細い子だっているし、お尻周りが大きい子もいる。機械ではわかりません」

また、制服や体操着に刺繍で名前を入れなければ、リユースしやすいだろうに、それも続いている。

「リユースしにくいように、入れるのかもしれません。近くの中学校の体操服に、それまで名前は入っていなかったんですが、学年色で名前の刺繍を入れることになりました。中学って、兄弟が一緒に上がる家庭も多い。学年色で入れると、1枚ずつ買わなきゃいけない。保護者の指摘で、今年から名前の刺繍がなくなったんです。声を上げることって大事ですね」

どこにお金をかけたいかはみんな違う

近年、リユースやSDGsの活動が盛んになった。さらに物価高で苦しい家庭が多く、お金を使いたくない、割安なリユース品を買いたいというのもうなずける。筆者も、学校のリユース会でお下がりをいただき、とても助かっている。業者にも事情はあるだろうが、再利用できるものは循環させてほしいと思ってしまう。

「コロナ禍の影響は大きく、千葉県の内房から車で来られたお父さんがいて、その方は、コロナで家計が苦しいようでした。男の子が2人いて、制服を買わなきゃいけない。リユースの学ラン一式を、買って帰られました。千葉県の全域から連絡がありました。事情を聞くのは、はばかられますが、困った人は増えているんじゃないかと感じます。

実は近くに、制服屋さんがあるんですよ。ここのお店を始め、コロナ禍で暇なときに、カートにさくらやののぼりを立てて、リサイクルショップや学生服屋さんにも乗り込んでいった。制服やさんが、家計とかサイズアップで困ったら、2着目はリユース店がありますよって、情報としてお客さんに言ってくださっていた。住み分けはできている。1着目は正規で買って、その後はリユースで買ってもいいのではないでしょうか。

例えば新品で冬服一式、ジャケット、ブラウス、スカート等買うと、7万はする。リユースで買うと、カバンも含め高くて3万。タイミングよくサイズの合うものがあった場合は、中高の制服だったら2万ぐらいですから」(池上さん)

他にも、学校で揃えなければいけないものが増えているのも、家計が苦しい原因の一つだと池上さんは考える。

「タブレットは、一番大きな要因。数万円しますし、学校によっては、型も決められている。

あとは、制服のデザインを変更していく学校がすごく多い。この子に10万かけて、次の子にも10万かけて、お下がりができず、どこが削れるのっていう話になる。デザイン変更は、近年の流行で、公立でも増えましたよね。子どもたちにはSDGs教育をしているのに、その子たちの制服を全部捨てるって言っているのと同じ。リユースもできないです。1アイテムだけデザインを変えて、あとは生かせばいいのに」

地域の循環が生まれる

コロナ禍や物価高と、子育て家庭に厳しい状況が続く中、池上さんがリユースショップを運営して5年。どんなところが、やりがいなのだろうか。

「生活していて、ありがとうございますって言われることってそんなにないですね。この仕事は、常にその言葉を浴びている。

あとはここを通じて、地域活動ができることが、嬉しい。生理の貧困の支援活動もしています。お店を立ち上げて、お客さんがいなかった頃、テレビで生理の貧困のニュースを見て。大学生がコロナでバイトがなくて、生理用品で困っているなら、女性が動いた方がいい。生理用品を買って店で用意していたんですよ。

こういう活動を始めましたってSNSに上げたら、皆さんがさくらやに持ってきてくださるんです。病気などで生理がひどい人って、1ヵ月に1箱ぐらいの勢いで使う。それが治ってストックが倉庫の中にあり、10箱ぐらい持ってきてくださった。あるおじいちゃんは、自分はお金を使うところもないから、せめて地域の役に立ちたいと思ったんだけど、何をすればいいかわからない、テレビで見たから使ってほしいって寄付してくれました」

このように、リユースショップを通して、地域の中で自然にネットワークが広がった。

「リユースショップがなくなっても、悩まないで生活できる社会になればいい。でも、使えるものを再利用するのは大事だと思う。コロナ禍で、制服はいらなくなるなと思った。学校に行かなくて済むようになる、オンラインで物事が進むようになるからと。結局、制服って、画一的な昔の教育の一部です。

でも、手をかけた制服の良さはわかります。制服の下に着るワイシャツとかブラウスとか、プライベートブランドで買う方は多くて、買取をしたときに、触ってわかる。制服メーカーさんのシャツは高いんですよ。5000円のものもあって、スーパーで買えば1980円ですが、質が違う。いいものであったら、長くもつ。昔からの技術で作られた制服の良さは、もちろんある。それが買えない人はリユースで。選択の自由が、必要だと思います」

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