「前言撤回」「有言不実行」と言われてもいっさい気にしない…図太すぎる石破茂総理を支える「宗教的バックボーン」

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父は田中角栄の友

自民党総裁の石破茂首相がプロテスタント長老派(プレスビテリアン)の信者であることはあまり知られていない。

正直いって筆者も石破氏がクリスチャンであるとは承知していたが、それ以上でもそれ以下でもなかった。だが、石破氏は敬虔なクリスチャンというよりも「筋金入り」と知って腑に落ちることがあった。

1875(明治8年)年11月、京都に同志社大学の前身である同志社英学校を創立した幕末から明治にかけてのクリスチャン教育者の新島襄の愛弟子・金森通倫牧師は母方の曽祖父。同祖父・金森太郎は徳島県知事、山形県知事を歴任。熱心なクリスチャンだった母・和子が通った日本基督教団鳥取教会で石破氏は洗礼を受けた。慶應義塾高校から同大学法学部に進学する直前の18歳の時だ。すなわち、石破氏はクリスチャン4代目である。

ちなみに、父・石破二朗は戦前の内務省官僚出身で、戦後は旧建設省都市局長、官房長、事務次官を歴任し、鳥取県知事を経て参院議員(鈴木善幸政権の旧自治大臣)。祖父・市造が県内八頭郡大御門村長、村議を歴任したので政治家3代目。父が田中角栄元首相に口説かれて政界に転出したことは永田町でよく知られるエピソードだ。

そして石破氏も父の急死によって1983年1月に角栄の強い勧誘もあり旧三井銀行を退職して木曜クラブ(田中派)事務局員になる。政治の道に脚を踏み入れた。初当選は86年7月の総選挙。

齢67歳、衆院当選12回の石破は、挑戦5回目にして自民党総裁の座を掌中に収めた。これまで自民党内の非主流派であり続けたことから「媚びない」、「党内野党」、「正論アウトサイダー」などと呼ばれ、今回総裁選の前と後で主張が変わったとして「ブレる」、「前言撤回」、「有言不実行」と断じられた。

では、政治家・石破茂とはいったい何者なのか。

寄り道をしても構わない

石破氏を、あえて簡潔に「神のご加護を信じつつ、敬して止まない角栄的なリアリスト」と言い表したい。

このように位置付ける理由は、石破氏のクリスチャニティに求める事ができる。石破氏は長老派(プレスビテリアン)とされるが、カルヴァン派であるとも言われている。16世紀のフランス出身の神学者で、改革派教会の教理と実践を指導したジャン・カルヴァンは厳格な教会改革と政治改革をスイスのジュネーブを拠点に実行した「神権政治」の指導者である。

著書『キリスト教綱要』では、魂の救済は予め神によって決められているとの「予定説」を唱えた。一方でカルヴァンは、神から与えられた現世の職業を含むすべてに対して誠実に生きるべきとも説く。そう、教義では現世でリアリストであることを否定していない。それだけではない。「改革」志向が強いことも同宗派の特色(キーワード)なのだ。

以て石破氏は、政治と宗教の間に矛盾を感じない。プロセスはどうでもいいとまで言わないが、すべてはゴールに行き着くことにある。すなわち、設定した政治課題の実現に向けてたとえその過程で寄り道しても、目的地に到達すればそれで良し―これが石破氏の政治手法のようだ。

そう考えると得心できることが少なくない。

あのトランプと「同じ宗派」

たとえば厳しい批判もある「アジア版NATO構想」である。NATO(北大西洋条約機構)加盟国の過半はヨーロッパ大陸に位置する欧州諸国であり、東・南シナ海からマラッカ海峡を経てインド、太平洋に至る海洋国家が過半のアジア諸国とでは地政学から歴史・宗教までが大きく異なる。要するに、リアリティがない。

ところが石破首相は、怯むどころか燃えるのだ。まるで自分には神のご加護があるからだとでも言わんばかりである。衆院選公示前の10月12日の各党党首討論会(日本記者クラブ主催)でも「アジア版NATO」だけでなく、持論の「日米地位協定見直し」推進にも言及した。

27日投開票の衆院選で自公合わせて過半数233議席をクリアすれば、石破首相はほぼ間違いなく12月初旬にニューヨークを訪れる。11月5日の米大統領選で「55:45」の確率で勝利する「ドナルド・トランプ次期大統領」と会談する。

石破氏が「貴方と私は同じプロテスタント長老派です。神はこの会談を必ずや祝福されることでしょう」と語りかけるや、トランプ氏は力強いハグで返すはずだ。

「これこそ神のご加護だ!」と叫んで……。

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