子どもの運動音痴を改善するコツとは?

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 10月14日は「スポーツの日」です。この日は、全国でさまざまなスポーツイベントが行われます。ところで、運動が得意な子どももいれば、苦手な子どももいますが、両者は何が違うのでしょうか。子どもが運動音痴を克服することは可能なのでしょうか。

 幼児・小学生向けのスポーツ教室「忍者ナイン」を展開する、やる気スイッチグループ(東京都中央区)教育第3事業本部研修採用課長で、元日本オリンピック委員会強化スタッフの植木五行さんに聞きました。

正しい体の使い方を知らないのが原因

Q.「運動神経」という言葉がよく使われますが、この言葉は主にどのような能力を指しているのでしょうか。

植木さん「多くの人は『運動神経』という言葉を『運動能力』と同じ意味で使っているかもしれません。しかし、実際には運動神経とは、運動時に体を動かすために使われる神経全般を指すものであり、運動能力とはイコールではありません」

Q.運動が得意な子どもと苦手な子どもは何が違うのでしょうか。運動神経の発達状況の違いも含めて、教えてください。

植木さん「現在に至るまでのあらゆる経験値の違いが運動の得意、不得意に大きく影響していると考えられます。運動の経験はもちろんですが、体を動かす遊びや日常の経験も子どもたちの運動能力に影響を与えます。

運動が苦手な子というのは、運動に必要な神経が少ない状態(つながっていない状態)である一方、運動が得意な子は運動に必要な神経が多く、脳からの指令をスムーズに伝達できるようになっている状態だといえます。

ところで、運動が苦手な人のことを運動音痴と呼ぶことが多いかもしれませんが、運動音痴とは一般的にどのような状態のことを指すのでしょうか。どのような動作ができないと運動音痴なのか、分かりますか。ボールを遠くに飛ばせないから運動音痴なのか、速く走れないから運動音痴なのか、はっきりとしたイメージを持っている人はそれほど多くないと思います。

逆に運動が得意な人、運動神経が良いといわれる人をイメージしてください。例えば、多くのダンサーは初めて見る振り付けでも、数回練習すればすぐ踊れてしまいます。そんな場面を見ると、『この人は運動神経が良いな』と思うのではないでしょうか。

しかし、ダンサーが初めての動作をすぐに習得できるのには理由があります。なぜなら、ダンサーは過去に類似した振り付けや体の使い方を習得しており、それにより初めて見る振り付けであっても、過去に習得した動作の中からさまざまな動作を選んで掛け合わせ、正しい動作にすぐにたどり着くことができてしまうからです。

私は子どもたちや保護者に対して、『運動音痴な人はいない。運動が苦手なのは、体の正しい使い方を知らないだけ』と教えていますが、ここにヒントが隠されています」

運動音痴を克服するのに役立つ9つの基礎動作

Q.では、子どもが運動音痴を克服することは可能ということなのでしょうか。そのためにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。

植木さん「子どもが運動音痴を克服することは可能です。そのためには、子どもにさまざまな運動(スポーツ)を経験させることが重要です。一つの運動をやり続けることも大切ですが、それではその運動に合った体の使い方しか覚えることができず、他のさまざまな運動に対応できなくなります。

特に運動神経が良いと言われるぐらい、運動ができるようにするには、幼少期にさまざまな運動を経験させることが大切になります。それも一度だけではなく、何度か繰り返して経験していくことで、新たな神経回路が構築され、自分の動きたいように体を動かすことができるようになるのです。

幼少期の子どもは、自分がやりたいことを限定することができる子の方が少なく、実は、何の才能があるか分からないものです。だからこそ、保護者はいろいろなスポーツを経験させ、子どもが楽しんでいるようであれば継続させ、嫌がっていれば無理にやらせずに次のスポーツに切り替えてあげる必要があります。

あらゆる運動(スポーツ)に応用できる9つの基礎動作を身に付けることで、子どもが運動音痴を克服したり、運動がより得意になったりする可能性が高まります。9つの基礎動作とは、『走る』『跳ぶ』『投げる』『打つ』『捕る』『蹴る』『組む』『バランス』『リズム』のことで、運動の際にこれらの動作をバランスよく身に付けるのが望ましいです。

当社が展開する、幼児・小学生向けのスポーツ教室『忍者ナイン』のプログラムは、スポーツ科学を駆使し、9つの基礎動作を遊びながら身に付けることができる内容になっています」

Q.子どもが運動音痴を克服したり、運動能力をより向上させたりしたい場合、何歳ごろまでにさまざまな運動を経験させるべきなのでしょうか。また、大人が運動音痴を克服することは可能なのでしょうか。

植木さん「10歳ごろまでにさまざまな運動を経験させましょう。なぜなら、10歳ごろに体の神経系がほぼ完成するといわれており、運動の経験が神経系の成長と密接に関係しているからです。具体的には、神経の成長が急速に行われるのは3〜6歳で、その時期からさまざまな運動を経験できるようにすることが理想的と考えられます。

運動が苦手な大人も、時間をかけることで運動ができるようになります。ただ、子どもよりも多くの時間を必要とします」

Q.子どもによって、得意なスポーツ、苦手なスポーツはそれぞれ存在するのでしょうか。

植木さん「子どもによって得意なスポーツ、苦手なスポーツはそれぞれ存在します。正確には、過去の経験で得意になっているというのが正しいかもしれません。

例えば、子どもが得意とするスポーツがあったとします。これは、そのスポーツに必要な体の使い方や感覚などを含め、過去にそれに類似した経験をしたり、その経験を繰り返したりすることで偶発的に身に付けた能力が、結果的にそのスポーツに必要な能力と合致したことが考えられます。そうなると、そのスポーツ自体の経験がなくても最初からできる場合もあれば、短期間でできるようになる場合もあります。

子どもの得意なスポーツと苦手なスポーツを見分けるコツとしては、何度も言うようにさまざまな運動を経験させてみることです。その中で、最初から上手くできているものや、少しやるだけですぐにコツをつかんでいくものに関しては、過去の類似の経験からその運動に必要な神経回路がある程度構築されていると考えられ、その子に向いているスポーツと考えることができます」