Linked Horizonが、ベストアルバム『進撃の記憶』を発売した。

TVアニメ『進撃の巨人』関連楽曲を並べ、壮大な物語を音楽によって追体験できる本作。既存曲は新たにマスタリングを行い、新曲「私が本当に欲しかったモノ」も収録。通常盤のジャケットは漫画原作者の諫山創氏による描き下ろしフルカラーイラスト、アナログ盤サイズの特装BOXにビッグサイズの歌詞カード封入と、まさに記念碑的作品となった。

が、本作は単なる “『進撃の巨人』の曲をまとめた”ものではない。10年にわたってTVアニメ『進撃の巨人』シリーズに寄り添ってきたLinked Horizonにしか描けなかった、“ストーリー”を感じることができるはずだ。その意味について、今回Linked Horizon主宰・Revoに取材を実施。本作、そして『進撃の巨人』を振り返ってもらった。

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◼︎「音楽にしたらこういうこともできるぜ」みたいな気持ちで表現していた

──今回はこれまでにLinked Horizonで手がけられた『進撃の巨人』関連の曲を集めた、言わばベストアルバムのような内容ですが、Revoさんご自身にとっては、どんな意味を持つ作品だと言えますか?

Revo:世間的に当てはまる言葉でいえばベストアルバムなんだけど、ただ、イコールベストアルバムかって言われたら、多分コンセプトアルバムの新作とも言える。でも、世の中には適切な言葉がないと思う。ベストアルバムでありながらも、1つのコンセプトアルバムとして新作といっても過言ではないからね。

──「コンセプトアルバム」というのは、つまりこれは『進撃の巨人』という作品をトータルして音楽で表したものとして新たに作られた作品、ってことですか。

Revo:そうですね。いわゆるベストアルバムやグレイテストヒッツみたいな人気のある曲を、特にストーリーとか関係なく、まあ普通は共通のストーリーとかないんですが(笑)。ピックアップしてぶっこみましたっていうのとはちょっとノリが違う。作品としてどういう曲を求め、どういう並びで入れるべきかみたいなことを、もう少しコンセプショナルな形で考えて構成された作品ではあるかな。少なくとも売れた順とか、人気順とかではないね。出発点が。結果それに近いとしても。


──特に今回の場合はもう完全にコラボレーションというか、諫山先生の絵が入り、しかもRevoさんを描いている形になっているわけですけども、これはどうしてそういうお話になったんでしょうか。

Revo:「紅蓮の弓矢」が収録されている、1番最初のシングル「自由への進撃」を出した時に、諫山先生に通常版のジャケ写を書き下ろしてもらってたんですよね。それを経て最後にもう1回、同じ形でやるのがいいんじゃないかってなって。アニメのイラストレーターさんたちとのコラボレーションが結構あって、CD毎に色々やってもらったりとかしてたじゃないですか。でも諌山さんには最初の1回以降お願いしていなかったので、やっぱりもう1度完結させるために最初と同じ形をやることはすごいエモいし、いいんじゃないかっていうのでお願いすることになったんです。恐れ多い気持ちも大いにありましたが(笑)。諌山先生には、特にこういうものを書いてほしいとかは一切言わずにお願いしました。「こういうベストアルバムを出そうと思ってるので、それで感じられたことを何か描いていただけませんか」と。

──実際に絵が上がってきた時の率直な感想は、いかがでしたか?

Revo:もうびっくりしましたよ。なんとなく、諌山さんにお願いしたとなれば、前回のように『進撃』のキャラがいると思ってたから。だけど今回は僕がいる。でも普通に考えたら、やっぱLinked HorizonというアーティストのCDなので、本人がいることは全然間違ってはないんですけど、正直なところそのくらい『進撃』の世界にどっぷりだったから、自分が出てくるっていう想像は全然してなくて。嬉しかったんですけど、なんか笑っちゃったというか。「マジかー!」みたいな(笑)。

──Linked Horizonには「ルクセンダルク大紀行」の頃から、しばしばそういうコンセプトがありましたが、本当にRevoさんが『進撃』の世界にいるんだ!ってことですよね。

Revo:そういう気持ちで作ってはいたんですけど、実際にはあの物語に僕は出てこないじゃないですか。あれ? 出てきませんよね? うん。何か頭がおかしなこと言ってるな(笑)。でも、諌山さん的にはそう思ってくれたのかもしれないよね。Revoが実際その世界に行って見てきたものを書いてるなっていうのを、感じ取ってくれたのかもしれない。



──しかし最初と最後で諌山さんにイラストを描いてもらうということは共通していても、何年も経過したことによって、最初の頃と、今回のアルバムを出すときの想いの違いというか、この作品に関する捉え方の違いみたいなものは、あるものですか?

Revo:うんまあ、どう考えてもあるでしょうね。やっぱり最初は先の分からないものを作ってるって感覚があったので。本当に手探りというか、これが正解なのかどうか分からないけども、やるしかねえと。今やるしかねえっていう気持ちで一緒に戦っていたというか。それが良かったとも思うんですが。ライナー、やるんだな。今。ここで、というライブ感が大事なので(笑)。

──Kアリーナ横浜で行われたライブフェス<進撃の巨人10th ANNIVERSARY “ATTACKFES” DAY1>(2024年1月27日開催)の時に、Linked Horizonが披露した新規のナレーションもそうでしたが、今やっと『進撃』という物語の全貌が明らかになったからこそ、「今だからこうする」という部分も、あるわけですよね。そもそも、あのナレーションはRevoさんが考えたものなんですよね?

Revo:原作から引用してるような部分もありますけど、二次創作っぽく聞こえた部分があるとすれば、そこは僕が考えてます。

──制作するときは、アニメや映画などクリエイティブ側とのやり取りもあるんでしょうか?

Revo:そうですね、ディスカッションするような形じゃなくて、「こういうものを考えてます、やってもいいですか?」っていうお伺いを立てて、「ちょっとここの表現は良くないと思います」みたいなのがあれば直していくって感じなんですけど、ダメ出しはあんまりないですね。

──なるほど。そういう意味でも、本当にRevoさんの楽曲もまた『進撃の巨人』の一部になっているとも言えますね。

Revo:本当に自由にやらせてもらってますね。貴重な経験をありがたいです。

──自由に、という意味では、それこそ「13の冬」みたいな曲もそうですよね。あれも、当初は原作の範疇を踏み越えたものとして作っていたわけですよね。

Revo:そうですね。ほか全ての曲がそうっちゃそうなんですけど、特に「13の冬」の場合でいえば、まず主題歌を提供する際には、どうしても自由度に限りがあるじゃないですか。今はもう時代が変わって、1曲でデジタルリリースすることもありますけど、自分は“CDにするには”っていう頭でどうしても考えちゃっていたんで、そうするとカップリング曲がやっぱ必要となってくるんですよね。CDを作るにあたって「カップリングにするんだったらこの路線だな」みたいなことを、いろんな可能性がありつつも、その時々で考えてやっていたんです。必要だから作ってはいるんですけど、完全に意味のないものではないし、その作品の中に存在しないものでもないから。



──なるほど。つまり「13の冬」の場合は、「憧憬と屍の道」とあわせてエレンとミカサのカップリングを作るということですよね。“一作品が1枚に収まるように”ということをまずは考えられたと。

Revo:あのタイミングではそうだったんですかね。全てのことは曲にできるんだろうけれども、基本的には、そのタイミングで求められてるものしか作れないじゃないですか。『進撃』の世界はものすごく広がっているわけだから、作ろうと思えば色々作れる可能性はあるけれど、全然関係ない曲をカップリングするのは嫌だし。その時はそこまで求められていなかったとしても、ストーリーに関係してるものを作っていけば、『進撃』のファンの人には楽しんでもらえるかなっていう思いがあった。勝手に作ったやつなんですけど、「あながちこれ、間違ってませんよね」みたいな。



──依頼した側が想定していないような球の投げ返し方をRevoさんがして、これも間違いではないよねっていうやりとりをされてた、と。

Revo:ややこしくなりそうなので、もう一度整理しますね(笑)。依頼されたのは「憧憬と屍の道」で、「13の冬」が勝手に作ったやつです。OP主題歌というビジネスとしては必要ないものであったかもしれないけれども、クリエイティブで言うと、「先の分からない今だからこそ面白いんじゃないですか」っていうタイミングもありますからね。そういう時に寄り添える良さというのが、世の中絶対にある。そういうタイミングでの出会いというか、運命というか。依頼する側がOPで想定していなかったからといって、自分がそのタイミングでカップリングに作った曲が必要ないわけでも、価値がないわけでもないんだろうなと。そのタイミングの本編で使われることを想定してなかったとしてもね。伏線として後の「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ…」へ繋がるわけですから。

──あとはやっぱり、Revoさんはそもそも原作ファンでいらっしゃいますから、曲を聴いてくれる人たちに「とにかくいい作品だから見てほしい」みたいな気持ちがあって、「この先どんどん面白くなるんだよ」という紹介をするような気持ちがあったのでしょうか。

Revo:布教しなきゃいけない、みたいな意識はほぼないかなあ。相手が巨大な作品だからっていうのがあるかもしれないですけど。Linked Horizonの方が、知る人ぞ知るっていう存在ですしね。これが逆だったら、もしかしたら「みんな知らないと思うけど、こんな作品があるんだぜ」って、“自分が伝道者になんなきゃ”みたいな感覚になるかもしれないけど、そういうのはなかったかな。どちらかというと、「君が今好きって言ってる『進撃』の面白さって、本当にどこまで分かってる?」っていう。それを、音楽の力で「もっともっとエモくできるぜ」「例えば、音楽にしたらこういうこともできるぜ」みたいな気持ちで表現していたのかもしれない。

──じゃあ原作のファンの人たちやアニメを見て好きになった人たちに、「この作品、いいよね。でも、もっともっと踏み込むこともできるよ」って気持ちが込められているんですね。そういう発想がやっぱり「神の御業」みたいな、“これはウォール教の曲だ”みたいなことに繋がったり、さらにはライブでの斬新な発想にも繋がるんですかね。

Revo:「神の御業」に関してはちょっと、ウォール教の伝道者みたいな、フランシスコ・ザビエルみたいな気持ちでやった部分もあるけど(笑)。ひとつの世界にダイブするっていうことは、こういうことでもあるよと。エレンがどうだ、ミカサがどうだとか、わかりやすいキャラクターに対して、コミットしていく感じっていうのはみんなあると思うけど、本当にコミットしていこうと思ったら、ウォール教にもね、入っていかないといけないぞと提示したわけです。客席を巻き込んでライブでもミサをやったからね、今思うとあの使命感は何だったんだろうね(笑)。今のご時世ちょっともう難しいけどね。『進撃の巨人』の漫画やアニメ、メインのキャラクターとかを「これいいよ」って周りに勧める人は多いだろうけど、ウォール教を広めようとしてる人は全然いないから、これはもう俺の使命なんじゃないかって。



──ウォール教を広めたのはRevoさんだけだったと(笑)

Revo:「あきらめたらそこで試合終了ですよ」って感じはちょっとあったかもしれないね(笑)。

◆インタビュー(2)へ


◼︎架空の歴史を描くことのエモーション

──『進撃』では、そういう物語の細部の細部にまでこだわる作り方があったと思うんですが、それは今までのLinked Horizonの作り方とは違うものだったんでしょうか?

Revo:どうなんだろうな。あんまり変わってないような気もするけどね。

──では、もともとRevoさんが物語を音楽にする場合には、メインキャラクターももちろん中心にあるわけですけれども、世界の端々まで掬い上げるようなイメージなのでしょうか。

Revo:物語を音楽にするっていう根本はどれも変わらないけど、『進撃』は原作があって、説明しないといけないことは原作側がしてくれている。だからその点に関してはサボることができるというか、みんな知ってる前提でやることができるんで、よりエモいシーンを描くことに注力はできていて。今言ったウォール教が例えとしては分かりやすいと思うんですけど、もし自分の作った物語を曲にするんだとしたら、その場合はウォール教の曲を書いてる場合じゃないんだよね。もっと他に伝えないといけないことがいっぱいあるから。

──たしかに、自作の物語となると、柱になるストーリーの部分を、そもそも自分以外だれも知らないわけですからね。

Revo:みたいなこともあるから、『進撃』では、そういう遊び心とかも発揮しやすい環境だったのかもしれない。

──一方で、これまでのRevoさんのディスコグラフィーとの関連で言うと、「14文字の伝言」ではSound Horizonの「Roman」へのオマージュが登場しますよね。なぜああいう手法を取られたのでしょうか。Sound Horizonの作品と『進撃の巨人』で、なにかシンクロするものを感じられたのでしょうか。

Revo:いくつかの要素があってそうなってると思うんですけど、まずシンクロするかどうかで言ったら、絶対シンクロする。というか、これは多分『進撃』に限った話じゃないんですけど、あらゆる感覚ってやっぱ繋がってるんですね、人間が作ってる以上。この作品の中にしかない感覚って、おそらくそんなに多くないんです。どういう切り口で行くかは違っても、抽象的な言葉で言ったら例えば「自由」だとか「愛」だとか、そういうのってどの作品の中にも大なり小なり入ってるじゃないですか。なら、例えば愛を表すメロディーがあるとか、自由を表すメロディーがあるんだったら、それは作品の垣根を越えて使っても齟齬はないはずっていうのがまずあるだろうと。



──確かに。

Revo:ただ、僕はひたすらSound Horizonのファンへのファンサービスで、引用しなくていいものまで引用してしまうのは、もう、過ぎたるは猶及ばざるが如しということでダメかなと思ってます。一部のファンが喜ぶからって理由で作品とマッチしてないものを入れることは、あり得ない。しかし、マッチするんだったら許されるよねっていう。初めて聴く人にとってみたらそんなもん何の関係もないので、そのシーンにその曲の歌詞やメロディーが合ってるのであれば、さらにそこに何らかの文脈を載せるのは自由。それで喜ぶ人がいるんだったらやぶさかではない。その全てに今気づかれなくても、込める意味はあると思うんだよね。作品は僕の命よりも先まで残り続けてゆくものだから。

──『進撃』の作品自体が、Revoさんが描く世界に近い何かを持っていたのかなと思いましたが、今のお話は、そうではなくて実はどんな作品でも、愛とか自由みたいな概念は通底するということですね。

Revo:そうですね。分かりやすい言葉で例えましたけど、そうじゃなくても、いろんな要素で繋がる部分がある。ただ、繋がりやすい作品とそうじゃない作品はあるでしょうけどね。



──『進撃』の場合、原作でも母親がすごく重要なキャラクターとか概念として出てくると思うんですけれども、ここまで掘り下げて「母」について語れる作品なのだとは、みんなあんまり考えていなかったと思うんですよね。しかし、やっぱり母親というものに光を当てようとなさったのは、さっきのウォール教の話のように、Revoさん的には「これは当然やるべきだろう、やれるだろう」と思われたせいですか。

Revo:そうですね。そういうことはSound Horizonでもやっていたので、すぐ想像はついたし、これはなんかいい物語音楽になるなと思ったのでやったんです。でも世間からするとやっぱりちょっと意外性はあったのかもしれないですね。アニメ1期の最初のエンディング、日笠陽子さんの「美しき残酷な世界」は、ミカサにフォーカスしたような曲だったじゃないですか。あそこをエレンのお母さんの曲にしたらどうだったのか、という話です。エレンのお母さんの曲をやってはいけないわけではないし、必要でないわけでもない。ただ、その時にアニメではお母さんにフォーカスしなかったと。

──そこは、やはり先ほどのタイミングが合うかどうかというお話ですね。ちなみに今回は特装盤のボーナストラックとして新曲「私が本当に欲しかったモノ」が収録されていますが、これは……始祖ユミルについての曲という風に考えて、いいんでしょうか?

Revo:考えてもいいと思います。もちろん自由に解釈してもらっていいんですけど。お前、アイコンも出しとるやんみたいな声が聞こえてきそうですが(笑)。



──あの曲も含めて、やはり『進撃』で母親を描くんだなと感激しました。しかし母と言わずとも、親子とか、世代について考えさせられる曲が数多くありますよね。それこそ「13の冬」もそうだし、「二ヶ月後の君へ」もそうだったし、「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ…」などもそうでした。そのように、歴史とか、時間の移り変わりに注目する曲が多かったのは、Revoさんから見て『進撃の巨人』がそういうお話だったということなんでしょうか。

Revo:『進撃』の中にもそういう部分があるし、僕が歴史とかそういうのが好きだっていうのも、大いに関係してると思います。そして作品が長く続いてきたら、その中で描かれている歴史も俯瞰して考えられるようになった。すると始祖ユミルから始まっているような話とか、もっと描かれてない部分に目が向いたというか。僕は歴史とかに対して、エモいって思う気持ちがあって。いま目の前にあるもののことを考えられるのは当たり前の話なんです。それも語り口によっては十分エモくなるんですけど、でも今ここにないものに思いを馳せることって、その時点でエモいんですよ。歴史のことって、人の現実や現在に切実に直面してないことが多いから。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言うように、個人的にそれは誤りだとは思うものの。大多数の人にとって、今すぐに考える必要はない過去のことが膨大だし、未来と同列には考えづらいことでもある。下手すれば無駄な学問だと思われてる節もある。そうであるにもかかわらず、過去の何かについて思ったり、考えたり、そういう情熱の全てがエモいと思いません?

──ノスタルジーなどもそうですが、「ここにない、すでに終わってしまったこと」に対して、思いを馳せること自体がエモーショナルだということですね。

Revo:僕たちは『進撃』の世界に生きてるわけでもないから、そもそも、その物語を受け取るとか、そういうこと自体もエモい。架空の歴史を見てるのと同じだからね。だけど実際の世界と共通するものが絶対あるはずだから。僕はかなり最初の方からそうと知らずに『進撃』にコミットしてきたけれども、すべて完結した今から『進撃』に触れようという人は、この壮大な歴史書というか、一大叙事詩を読む状態になるよね。とてもエモい体験だと思います。

◆インタビュー(3)へ


◼︎物語音楽と『進撃』の親和性

──Revoさんが、最初に「紅蓮の弓矢」を作られた時には、作品の歴史的なというか、壮大な流れは、もう結構見えていたと思われますか。

Revo:いや、どうかな。分かってなかったと思う。どこまで続くか知らずに作ってましたからね。面白いから続いてほしいなとは思ってましたけど、作品がいつ終わるかなんて分かんないじゃないですか。こんなに壮大な話になるとは思ってなかったっていうのが、やっぱり正直なところですね。

──では改めて、完結した今の時点で、Revoさんにとって『進撃』はどんな作品として見えていますか?

Revo:日本だけじゃなくて世界で受け入れられてるということは、広く人の心に火をつけるような、そういう作品なんだと思うんです。そして、いろんな解釈があるにせよ、やっぱり「戦え!戦え!」と言ってる作品ではあるなと思ってます。そして、その「戦え!」ということを、みんなが応援というかエールのように受け止めることができたらいいなと思う。エレンみたいな苛烈な生き方は凡人にはできないよって思っちゃうかもしれないけど、人が命を懸けて何かをしてるところを見せられて、「お前はじゃあどうするんだ」みたいなことを問われているような気がするんだよね。この物語を見て「じゃあどう戦うか」って考えたときに、「よし、じゃあ他の民族を皆殺しにしよう!」とはならないんじゃないかな。そんな短絡的な物語じゃないから。



──うっかり、そういう風に考える人もいるでしょうか?

Revo:そういう風に読もうと思ったら読めるし、「心臓を捧げよ」っていう言葉自体も受け止め方次第ですけどね。諌山さん自身も作品の中でアンチテーゼとして出してたりとかもするから、なかなか難しい要素ではある。でも自分はどっちかというと、「戦争っていうものはなくならないにしても、戦争している側と戦うんじゃなくて、戦争をどうやったら止められるか、どうやったらなくせるかを考えるべき」「どうせ命を懸けるんだったら、そっちと戦うべきなんじゃないの」みたいなメッセージが浮き彫りになるように感じましたね。争い合う両サイド、読者はそのどちらのキャラにも思い入れが湧くよう仕向けられているわけじゃないですか。

──もちろん戦う話だし、バトルもめちゃくちゃあるけれども、それを最終的にはやめるための話。

Revo:アンハッピーエンドのような気もするけど、アンハッピーエンドでいい気もするしね。もしハッピーエンドで終わっちゃったらさ、めでたしめでたしでよかったですねって、もうそれでいいじゃんていうことで終わってしまうし。それに、「この結末だと、なんかしっくりこないな。もっといい結末あったんじゃないか」ってもし思う人がいるなら「君ならどうする?」ってことになってくるのかなとも思いますね。君が作品を問うなら、君も作品から問われるはずです。この重いテーマを果たして考え続けられるのかな、人類は。

──Sound Horizonの作品でも、アンハッピーエンドとは言わないけど、しかしハッピーとも言い切れない、という物語がいくつもありますね。

Revo:たしかに僕の作品も、そこそこに、アンハッピーエンド感はあるね(笑)。ハッピーエンドも好きなんですけどね。

──そもそも、ハッピーかハッピーじゃないか、で考えていないということですか。

Revo:まあ、バッドエンドも好きなんだけどね(笑)。もちろん、人には「気持ちよく終わりたい、モヤモヤしたくない」っていう気持ちが絶対ある。だけど、それだけじゃ絶対に生まれないものや、奥行き感っていうものもある。究極のところ、ハッピーかアンハッピーかっていう軸は、誰が決めてんの?っていう話なんですよ。本人がそれでいいって言ってんだったら、それは他人がどうこういう話じゃないような気もするし。でも、それは違うと言うのも間違ってるわけじゃない。結局お互いのエゴを優先するなら争いは絶えないと言う結果になるから、もうこのループはいいんじゃない? って感じだけど。難しいよね。

──「紅蓮の弓矢」の新規ナレーションで、アルミンが「夢見た自由に罪がないとしても、僕たちはその行いによって地獄に堕ちるだろう」と言うじゃないですか。それもまた、主人公サイドにも断罪されるべき部分があるんだということを重く受け止めていますね。

Revo:それは完全にありますよね。実際ものすごい数の人を殺してるから。途中からは覚悟を決めてやっちゃってたけど、直接手を下していなくても、自分が止められたかもしれないものを止められなかったっていうのは、意識としては自分が殺してるみたいなとこだし。それはアルミンとエレンの関係性から言っても、エレンが勝手にやったから俺は知りません、じゃ終われないもんね。



──一般的には良くないと思われるようなこともやってしまうとしても、だからこそ人間というか、それもひっくるめてエレンと共にいるわけですよね。僕たちファンもそうですが。

Revo:例えば、身近に殺人鬼の友達がいたとして。出会ったタイミングで殺人鬼だったら殺人鬼としか思えないんだろうけど、子どもの頃からいろんな面を知っていて。楽しかった思い出も共有していて。大人になって殺人鬼になってしまったのだとして。果たしてそいつの全てを嫌いになれるんでしょうかね? 『進撃』はエレンサイドから物語を描いていますから。主人公っていうのはもう、感情移入するようにできてるんですよ。知れば知るほど嫌いになることもあるかもしれないけど、それでも何も知らない状態よりは感情移入する部分が出てくる。

──確かにそうですね。

Revo:Sound Horizonの作品でも、それは絶対そうだろうなと思って作ってます。それが主人公というものであるし。物語でもあるし。物語音楽っていうのにもそういう側面がある。つまり“誰かを主人公にする”ということを、僕は音楽を使ってやっている。

──物語を描くってことは、誰かを主人公にして、そいつのことを深く語っていくことだということですか。

Revo:正確に言うなら主役になるのは人間だけ、動物、いや生命体という概念だけではないと思いますが。エレンだったりアルミンだったり、英雄的な行動をしてる人たちを普通は物語の主軸にするんだけど、僕がウォール教の主題歌を作ったように、英雄以外のモブみたいなおじさんだって主人公にしようと思えばできるんです。

──そういう意味では、曲が1個1個分かれてそれぞれのシーンなりそれぞれの人物にフォーカスできることが、Revoさんが作ってらっしゃる物語音楽という形式のメリットなのかもしれないですね。群像劇にできるというか。

Revo:別に物語音楽だけの特権ではないけど、「誰だって物語なんだ」「誰だって主人公なんだ」っていうことを証明してるような気はします。誰しも、いい部分も悪い部分もある。皆さんだって、もしかしたら、隣の家に住んでる人よりもエレンやアルミンのことの方が分かってるかもしれないし。架空の人物なんだけどね。そんな感覚で現実の隣人のことを知っていけば、少しは無駄な争いも減るかもしれない。

◆インタビュー(4)へ


◼︎これは「ストーリーベストアルバム」です

──ちなみに今回の作品は、再マスタリングをなさったということですが、これは今まで、それぞれ別の盤として作られていたものを合わせることになったので、トータリティーを出す意図だと考えていいでしょうか。

Revo:各曲、それ自体が持ってるメロディーとか歌詞とか、いろんな楽器的な要素とか、そういうものは思ったよりちゃんと整合性が取れてるんですよ。10年以上の幅があっても、一貫した僕が考えてる『進撃』の世界観に収まってるというか。でも、時期によってどうもサウンドの傾向とかがやっぱちょっと違うんです。それを聴きやすく均したいなっていう思いがあった。もしかしたら、聴く人は思わないかもしれないけど、僕は「気が散るな」と思ったんですよ。それがいいか悪いかはまた別の問題ですけど。お酒のヴィンテージの楽しみ方みたいに、各楽曲に封じ込められたその時間を楽しむこともできたかもしれないけど。今回は個々に気をとられてほしくないなと思ったので、すっと曲が入ってくるように整えようと。

──全曲あわせて『進撃』という物語を表現したアルバムだから、曲単体で取り出した時に「何年前に録られた曲だから、こういう感じだ」みたいな部分に意識が向かないようにしたと。

Revo:そうですね。曲の背景を考えようと思ったら考えられるし、なぜこういう曲になっているのかとか、いろんな情報を知ってる人はいると思うんです。でも、なるべく気にならないようにしたかった。曲の背景を想像するのは自由です。でも、半強制的に感じさせてしまうのはノイズなので、なるべく取り除きたい気持ちがあった。

──いま、どの曲も“一貫した僕が考えてる『進撃』の世界観に収まってる”とおっしゃいましたね。例えばそれは、曲調とか楽器とか、そういう部分ですか?

Revo:そうですね。それはあると思うな。ただ、極論、僕が聴いてる音は誰にも伝わらないと思ってるんで。本当のことを言えば、自分の中の『進撃』の世界にはもっといろんな音が鳴ってるんですよ。でもそれを全部入れたら、誰にも受け取ってもらえなくなる自信がある。キャパオーバーだろうし。そもそも不快感の方が強くなるだろうし。予算だって、とても下りないだろうね。今の状態でも「音、入りすぎてるよ」って言われてると思うんで。だからより正確に言うと、僕が考えてる『進撃』の世界観を、より広く伝わるように間引いた範囲に収まってるって感じですかね。まあ、次第にみんなに馴染んでいったイメージで、各曲を統一して作っていったところはありますね。



──Revoさんとしても相当長いプロジェクトになったと思いますが、それがついに、このアルバムでひとまず完結になるわけですよね。ご自身では『進撃』での日々が、今後のSound Horizonの活動にフィードバックする部分があると思いますか。

Revo:絶対あるんだけど、それが何かとは言えないんですよね。やっぱり全部は繋がってると思います。分かりやすく「これが繋がっている」というものを出せるかどうかは分からないけど。でも、『進撃』との長いコラボレーションの中で、成長したり学んだ部分は絶対あるし。

──Revoさんご自身も、このプロジェクトが一段落することに、寂しさはある程度お持ちですか?

Revo:「あるけど、別のこともやっていかないといけないからね」ってことは、いい機会だからちゃんと言っとかないといけないかもしれないね。「まだまだ、『進撃』の曲を作れるだろう」って思ってる人たちがいると思うから。あのキャラの曲がない。このキャラの曲もないぞって。「ある程度はそういうのは諦めないとダメだよ。本当にそう思ってんだったら君が作れ」というメッセージを僕は出していかないといけないかもしれない。甘えるんじゃない!と(笑)。Revoの曲に満足してる場合じゃないんだよ。君だって、もっといい曲が作れるかもしれないし、曲に限らず絵とかも描けるかもしれない。

──それは、すごくいい話ですね。Revoさんの手を離れて、次の誰かが作り手になる。でもクリエイターになるって、そういうことですもんね。「この世界は、もう終わっちゃうんだ。じゃあ自分で書こうかな」みたいな。物語を作ろうとする動機って、最初はそんな感じですよね。

Revo:クリエイターだけがそうってわけではないけど、「考えるのはみんな自由ですからね」っていうことを、ずっと伝えてきたつもりです。現実がどうであっても、君の中の自由は君を裏切らない。それを見つけようぜ。

──では、それも踏まえてこの1枚にパッケージされた『進撃』の今までの楽曲については、リスナーの皆さんには、どういうふうに聴いてほしいと思っていますか。

Revo:自由に聴いてほしいとは思ってます。しかし「こう聴いてほしい」という意味では、曲順や音質を整えた時点で、こっちからある意味、強制してるんですよね。ある種のバイアスはかけてる。だからそれが全てで、それ以上は言葉で言うことでは、あんまりないです。その先は、本当に、自由だと思うんで。『進撃の記憶』というタイトルですからね。僕は、僕の記憶を、曲というフォーマットに沿って、並べて1枚にしたつもりです。しかし記憶って1人1人違うと思うし、曲に対しての思いも人それぞれですよね。だから『進撃の記憶』を聴くことで、自ずとそれぞれの『進撃』の記憶が蘇ってきてくれたらいいなと思います。

──おっしゃるとおり、リスナー自身の『進撃』が脳裏に再現されたらいいですよね。ちなみに、曲順もある種のバイアスだとおっしゃいましたが、曲順については、結構ガチガチに「これしかない」という順で考えたんですか?

Revo:そうですね、しっくり来るか来ないかっていう流れがやっぱあるんで。『進撃の軌跡』からはそんなには変えてないんですけどね。あれを完全に変えてしまったら、『進撃の軌跡』の否定になってしまうから。そんな意図なんて全くないのに。逆に大幅に変えたとしたら何かあったのかなって思わせてしまうじゃないですか(笑)。だからやっぱり、この流れにすべきだなという素直な曲順になってます。最初は1枚のコンセプトアルバムとして曲順通りに聴いてほしいけど、もちろん強制できることではないし。ランダム再生も面白いんじゃないかと思うし。サブスクとかで聴いてもらってもいいんじゃないかとも思うけど、盤としてのひとつの理想はやっぱりありますね。クリエイターってエゴイストだから(笑)。

──そうですか!個人的には『進撃の軌跡』のときは「うわ、次の曲はこれがくるか」みたいに思って聴いていましたが。

Revo:でもまあ、そんな難しくはないと思いますよ。基本的には、時系列みたいなもんだから。ただ冒頭で、このアルバムを表す適切な言葉がないと思うと言いましたが、いま話していてひとつ思いつきました。世の中にある言葉じゃないし、そういう風に宣伝で打ち出していたわけじゃないんだけど、この作品って、つまり「ストーリーベストアルバム」なんだよね。

──おー!なるほど!

Revo:例えばSound Horizonの『Nein』の手法と比べると、曲名も一緒だし、過去作品に収録したのと同じ曲の入った、いわゆるベストアルバムなんだけれども、でもそれが1個のストーリーラインになっている。「ベストアルバム」と呼ばれるものを、どうしたら物語音楽にできるかっていう手法で作ったベストアルバム。だから、多分「ストーリーベストアルバム」って呼ぶべきなんだと思います。

取材・文◎さやわか

ベストアルバム『進撃の記憶』

2024年8月7日発売
予約:https://lnk.to/LH_al03_S

・特装盤 (PCSC受注生産限定)(SCCA-50003/税込16,500円)

・通常盤 (初回出荷限定諫山創描き下ろしジャケット)(PCCA-06307/税込2,200円)

・通常盤 (永続仕様)(PCCA-06308/税込2,200円)
https://shingeki.linked-horizon.com/

■特装盤(PCSC受注生産限定)
SCCA-50003 / 税込16,500円

【収録内容】
1. 紅蓮の弓矢(TVアニメ「進撃の巨人」Season1 前期オープニング主題歌)
2. 14文字の伝言
3. 最期の戦果
4. 自由の翼(TVアニメ「進撃の巨人」Season1 後期オープニング主題歌)
5. 双翼のヒカリ
6. 彼女は冷たい棺の中で
7. 心臓を捧げよ!(TVアニメ「進撃の巨人」Season2 オープニング主題歌)
8. 神の御業
9. もしこの壁の中が一軒の家だとしたら
10. 黄昏の楽園
11. 革命の夜に
12. 暁の鎮魂歌(TVアニメ「進撃の巨人」Season 3 Part.1 エンディングテーマ)
13. 憧憬と屍の道(TVアニメ「進撃の巨人」Season 3 Part.2オープニングテーマ)
14. 13の冬
15. 最後の巨人(TVアニメ「進撃の巨人」 The Final Season 完結編(各話版)オープニングテーマ)
16. 二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・(TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season 完結編(後編)主題歌)
[ボーナストラック]
私が本当に欲しかったモノ ※特装盤(受注生産限定)のみ収録

[特装盤特典]
アナログ盤サイズ歌詞カード

特装盤予約受付期間:2024年5月9日(木)12:00〜2024年6月7日(金)23:59
※ご予約いただいた方のみの完全受注限定商品となります。
※予約締切日以降の販売予定はございませんのでご注意下さい。
※ポニーキャニオンショッピングクラブ限定販売となります。全国CDショップ等での販売はございません。

詳細
https://shingeki.linked-horizon.com/release/

■通常盤 (初回出荷限定諫山創描き下ろしジャケット)
PCCA-06307 / 税込2,200円

【収録内容】
1. 紅蓮の弓矢(TVアニメ「進撃の巨人」Season1 前期オープニング主題歌)
2. 14文字の伝言
3. 最期の戦果
4. 自由の翼(TVアニメ「進撃の巨人」Season1 後期オープニング主題歌)
5. 双翼のヒカリ
6. 彼女は冷たい棺の中で
7. 心臓を捧げよ!(TVアニメ「進撃の巨人」Season2 オープニング主題歌)
8. 神の御業
9. もしこの壁の中が一軒の家だとしたら
10. 黄昏の楽園
11. 革命の夜に
12. 暁の鎮魂歌 (TVアニメ「進撃の巨人」Season 3 Part.1 エンディングテーマ)
13. 憧憬と屍の道(TVアニメ「進撃の巨人」Season 3 Part.2 オープニングテーマ)
14. 13の冬
15. 最後の巨人(TVアニメ「進撃の巨人」 The Final Season 完結編(各話版)オープニングテーマ)
16. 二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・(TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season 完結編(後編)主題歌)
※通常盤には歌詞カードは封入されません。

■通常盤 (永続仕様)
PCCA-06308 / 税込2,200円

【収録内容】
1. 紅蓮の弓矢(TVアニメ「進撃の巨人」Season1 前期オープニング主題歌)
2. 14文字の伝言
3. 最期の戦果
4. 自由の翼(TVアニメ「進撃の巨人」Season1 後期オープニング主題歌)
5. 双翼のヒカリ
6. 彼女は冷たい棺の中で
7. 心臓を捧げよ!(TVアニメ「進撃の巨人」Season2 オープニング主題歌)
8. 神の御業
9. もしこの壁の中が一軒の家だとしたら
10. 黄昏の楽園
11. 革命の夜に
12. 暁の鎮魂歌 (TVアニメ「進撃の巨人」Season 3 Part.1 エンディングテーマ)
13. 憧憬と屍の道(TVアニメ「進撃の巨人」Season 3 Part.2 オープニングテーマ)
14. 13の冬
15. 最後の巨人(TVアニメ「進撃の巨人」 The Final Season 完結編(各話版)オープニングテーマ)
16. 二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・(TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season 完結編(後編)主題歌)
※通常盤には歌詞カードは封入されません。

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