「おにぎりを買いに来てギガ回復」もいいけど…「未来のコンビニ」に必要なもっと本質的なこと
ローソンが発表した「未来のコンビニ」の中身
コンビニ開業から50年が経つ2024年は、新たなコンビニの形を打ち出そうと各社が動き出している。コンビニは今後どのような形態になり、我々消費者の利便性はどう変わるのか。その様相を解説していきたい。まず今回は、私の古巣であるローソンについて見ていこう。
【画像】今回の会見では「品出しロボ」や「遠隔接客」、「ローソンタウン」も発表された
9月18日、ローソンが行った合同会見には、ローソンの竹増貞信社長、三菱商事の中西勝也社長、KDDIの高橋誠社長が立った。「未来のコンビニ」の展示という主旨で、スマホレジ、AIサイネージ、飲料品出しロボットなどがお披露目されたのである。
これらは、すでにローソンを含めた各社が展開しているものがほとんどで、目新しさはない。だが、竹増社長が話していたように、ポイントはハード面のテクノロジーではなく、KDDIの力を借り、これまでパッチワークになっていたシステムを2028年までに効率的なシステムへ変更させる点にある。デジタル庁がマイナンバーなどを利用して省庁や地方自治体のシステムを統合し、効率化していっているのと同じ考え方だ。
私はローソン勤務時代に、コピー機のオンライン化を進める担当もしていた。当時は、住民票などをコンビニで取得するため、オンラインを使用した新サービスの展開を目指していた。コンビニのシステム周りのことは多少理解しているのだが、当時も今も、ローソンではレジと複合コピー機は基本連動していないし、マルチメディア端末「Loppi」の連動も一部にとどまっている。店員からすれば扱う端末ごとに作業がバラバラで、手間がかかる。また、利用者にとっても支払い方法が多岐にわたり繁雑になるデメリットがある。
人手不足の解決や利便性向上を目指すならば、ここのシームレス化は避けて通れない課題だ。チケットの発券や、Uberなどの配達業者との連携のための機器、ファーストフードの製造・廃棄する端末、そして従業員が発注する仕組みなどを、今後いかにシームレス化していくのかが大事になる。
ローソンはKDDIらとともにこれを実現し、店舗の究極のワンオペを目指す方向を鮮明にしてきた。2030年までに店舗の作業を30%削減するという目標も、先の会見で打ち出している。
「コンビニでギガが回復する新体験」
会見の発表内容以外でも、ローソンは公式サイトなどで、2030年に向けた店舗の形を紹介している。その中では、アバタークルーによる接客や、OTC医薬品(薬剤師らへの相談が必要な医薬品)のリモート販売、そのほか、なんでも相談窓口という機能を持った「リモートよろず相談」を構想している。こちらはスマホやパソコンでは体験できない、新たな仕掛けがより必要になっていくことだろう。
また、ドローンやロボット配送など、規制緩和が今後の展開の鍵となる分野に関しては、三菱商事グループの知見と人脈を生かし、政府などと交渉していくのかもしれない。
ローソンは、非上場化を経た今年8月に、KDDIと三菱商事が50%ずつ出資する共同経営体制に移行している。KDDIが50%保有した後の取り組みとして特筆すべきなのは、「コンビニでギガが回復する新体験」(KDDI高橋社長)だろう。
これは、povoのeSIMユーザーを対象としたもので、ローソンへの来店1回あたり100MBの通信容量が回復し、月間10回、1GBまでチャージされるというサービスである。2024年度内に開始予定。買い物をしなくても、来店するだけでギガが回復するのだという。
ローソンにとっては、来店客の“ついで買い”を狙う戦略となり、KDDI(au)にはドコモやソフトバンク、楽天など他社との国内回線数獲得競争を有利にする狙いがある。
また、外国人観光客にとっても、日本はフリーWi-Fiの少なさがインバウンドのアキレス腱になっている。その解決策として、ローソン店舗でのWi-Fiの強化を実現すれば、さらに他社との差別化がはかれるだろう。
どれだけ仕組みが優れていても…
こうした取り組みでローソンが目指すのは「リアル小売ビジネスをトランスフォームする“グローバルリアルテックコンビニエンス”」という未来像だ。これ自体には私としても期待大だが、コンビニは小売業である以上、どれだけ仕組みが優れていても、良い商品の品揃えがなければ、誰も買わないという大原則を忘れてはならない。
50周年を迎える日本のコンビニの歴史を振り返ると、前半の25年で、今の日本式コンビニの大枠はほぼ完成してしまったといえる。直近の25年では、おにぎりやスイーツ、カウンターファストフードなどが進化し、高付加価値商品の単価アップが売上を支えてきた。
特に、メーカーとの協業を含めたプライベートブランド商品を中心とする、自社開発商品が売り場の大半を占めるようになったことがその象徴だ。1998年以降は税制改正による6回のタバコ料金の値上げもコンビニの売上を支えており、タバコの売上が全体の約4分の1を占めるまでになってしまっている。
未来のコンビニ像を考えるうえで「良い商品」とは何か。私は、今後、コンビニには“できたて”の中食(持ち帰りの弁当類)がますます求められると考えられている。最近、セブン-イレブンが店内で揚げるドーナツの取り組みをはじめたが、これもできたて需要を見越したものだと考えている(詳細は別記事「“ミスド”を目指すとまた失敗する… セブンはなぜ「ドーナツ」に再挑戦するのか」を参照)。
超高齢化で人口減が続く中、ローソンに限らずコンビニ全体では、年間来店客数が減少している。コロナ前の2019年の年間来店客数は174億5,871万人だったが、2023年は161億8,136万人とおよそ13億人の顧客が減少する厳しい状況が続いているのだ(参考:日本フランチャイズチェーン協会)。中食、とくにできたてのものを拡充させ、高齢者らの来店を増やせるかが、これを打破するひとつのポイントでもある。
まちかど厨房という武器
今回のローソンの会見では、主旨と異なるためか、中食に触れられることはほとんどなかった。だが、全国の約9,300店舗のローソンには、店内調理した弁当やおにぎり、サンドイッチなどを提供するブランド「まちかど厨房」がある。厨房が設置された小売店という視点で見れば、ローソンは国内最大規模の店舗数を誇る。今後、さらに“まちかど厨房”を拡充することで、厨房の数で勝るローソンは他社よりも優位に立てる。現在のところ、調理方法としては「揚げる」が主流だが、KDDIとのタッグによってIoTを活用し、揚げる以外の調理も期待できそうである。
ローソンが打ち出した、グローバルリアルテックコンビニエンスは、50年経過したコンビニが、今後100年に続くための新たなチャレンジが詰まっていた。同時に、商売人としてのリアルの接客、そして基本的な商品開発も、コンビニの次なる50年のためには重要になるだろう。
渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。
デイリー新潮編集部