検査の結果が良好の日はラーメン

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教育入院、緊急入院を繰り返し、そのたびに「規則正しい生活を送ろう」と反省するものの、結局、食生活は乱れ、定期検査の数値は悪くなる。50代の絵本作家・塚本やすしさんが重い腰をあげ、本気で健康になろうと思ったきっかけは、医師のある台詞だった――。

※本稿は、塚本やすし『イラスト日記 ゆるして!糖尿病』(主婦の友社、監修:白澤卓二)の一部を再編集したものです。

■それでもやめられない暴飲暴食…3カ月ごとにやってくる

教育入院、緊急入院と2回も入院して、そのたびに「規則正しい生活を送ろう」と反省するのだが、その気持ちがどうしても続かない。40代にもなると、粗食というか和食をおいしく感じるようになった。和食は健康食といわれているが、おいしいのでつい食べすぎてしまう。それでは意味がない。

外を歩いていると、おいしそうな店の看板が目に入り、ついフラフラと入ってしまう。どうしても、暴飲暴食がやめられないのだ。

出所=『イラスト日記 ゆるして!糖尿病』(主婦の友社)

だいたい、健康的な生活を3カ月くらい送り、がまんできず不摂生な生活に戻り、また3カ月過ごす、というのがルーティンになっていた。

3カ月サイクルなのは、ちょうど病院の定期検査が3カ月に1回なので、そのせいだと思う。医者に怒られて健康的な生活を送り、ほめられたら不摂生な生活に戻る。まさしくイタチごっこである。

健康的な生活を送るということは、食生活が制限されるということだ。好きなものを食べられない。私にとっては苦行の日々である。

好きなものも食べられず、なんのために生まれてきたんだろう、などと落ち込むこともあった。50代になると、少し落ち着いてきたのだが、暴飲暴食は相変わらず続いていた。イベントの仕事で、地方に行くことが増えたのだが、各地で夕飯をご馳走になる。

地方の食べ物は、珍しいうえにおいしいものばかりだ。お酒もおいしいし、とても楽しい時間を過ごす。これが禁酒をしている期間にあたると、お酒は飲まないで炭酸水を飲むようにしていた。その量も半端ない。30本くらい飲むのだ。ある店の主人には「最高記録」または「変人!」と言われた。今考えると素直にお酒を飲んでいればと思う。

■大食いだし早食いだ…油断するとすぐ太る

食べることに対しては、とにかく貪欲だ。朝ごはんを食べ終わると、昼ごはんのことを考え、しばらくしたらおやつのことを考え、夕食のことを考える。この時間がとても好きだ。

そして、超早食いでもある。卵かけごはんなら8秒で食べるし、ふつうの刺し身定食なら3分で食べ終わる。こんな食べ方をしているから、体重はどんどん増えていく。

病院での定期検査で怒られたり、自分でもさすがにまずいと思ったりすると、流行りのダイエットを試す。すると、体重は面白いように落ちる。一番太っていた頃は88kgだが、ダイエットすると75kgくらいまではすぐに落ちていた。やせたり、太ったり、自由自在だ。脂肪の着ぐるみを脱いだり、着たりしている感じだ。いっそ全部脱ぎ捨てたい。でも、冬は“ぜい肉のミートテック”が暖かいからいいやと思ったりしたこともある(やせると寒く感じる)。すぐにやせていいなと思われるかもしれないが、やせたり太ったりを繰り返すのは、正直、めんどくさい。

あと、人に会うと「やせた?」とか「太ったでしょう?」などと聞かれるのだが、これもやりとりが多いのでめんどくさくなる。

こんな生活が25年ぐらい続いた。すぐにやせるなら、その生活を続ければいいと思われるかもしれない。でも、それが難しいのだ。規則正しい生活というものを、ずっとは続けられなかった。油断するとすぐに元の生活に戻ってしまう。

また、50代になると、体重がなかなか落ちなくなってきてしまった。誰か100g20円くらいぜい肉買ってくれないかな、とか思ったりしたこともある。なんならタダであげてもいい。

■「このままだと死んじゃうよ!」新しい主治医にいきなり怒られる

節制と暴飲暴食を繰り返し、やせたり太ったりを繰り返しながら、3カ月に1回、定期検査に通っていた。そんなある日、定期検査で病院に行くと主治医がかわっている。

出所=『イラスト日記 ゆるして!糖尿病』(主婦の友社)

検査表を見る先生が「なんだか偉そうだな」と思って見ていたら、いきなり怒り始めた。「おい! 真面目に節制をしないとダメじゃないか! このままだと死んじゃうよ。いつ脳卒中で倒れてもおかしくない数値だ!」

こんな勢いで怒られたのは小学生の頃にイタズラをし、先生に怒られたとき以来だ。久しぶりすぎてびっくりして目に涙がたまった。思わず「わかりました。やってみます」とオドオド言うと「やってみますじゃないんだよ! やるんだよ!」とさらに怒られる。

さすがに私も怒りがわくが、「そこまで言うならやるよ! やってやるよ!」と思った。そして「はい。やります」と小さく弱い声で先生に返事をした。それと同時に「この先生を見返してやろう」と心の中で誓ったのだ。それくらい怒られたインパクトがすごかった。この年になってあんな勢いで怒られるとは思わなかった。これ以外で、あんな怒られ方をするのはケンカをしたときの妻だけである。

■今度こそ生活を改めるあの先生を見返してやる!

病院の主治医はよくかわるのだが、これほど怒られたことはなかった。当時はその医者の偉そうな態度に怒りしか感じなかった。でも冷静になると、これまで繰り返してきた節制と暴飲暴食の日々を思い出し、反省もした。

出所=『イラスト日記 ゆるして!糖尿病』(主婦の友社)

50代になって、簡単にやせられなくなってきた。体の不調も感じている。確かに、このまま同じような生活をしているとまずいことになりそうだ。

子どもはもう独立し、子育ては終わったが、孫のことなどまだまだ楽しみがある。元気なじいさんになるためには、ここでどうにかしないと……。

それに、あの偉そうな先生を見返してやりたい。その日から、私は生活を整えた。それまでの経験から、何をすればいいのかはわかっている。あれをまたやればいいんだ!

食事は和食。日中はウォーキングして水分をしっかり摂る。疲れたら昼寝する。夕方はサウナや銭湯に通って汗を流し、自宅に帰って晩酌をして寝る(晩酌か! と突っこまれるかもだが、これはやめられない)。

文字にすると簡単なのだが、続けるのは難しい。でも、「次の検査であの先生をあっと言わせたい」という気持ちがモチベーションになった。

■3カ月後、定期検査の日…数値は激変し主治医は泣いていた

こんな生活を3カ月続け、定期検査の日が来た。あの主治医を見返す日が来たのだ。朝飯は抜いて血糖値が上がらないようにした。朝から鶯谷にあるサウナにも行った。汗を流してから病院を受診するのだ。やる気満々だ。

出所=『イラスト日記 ゆるして!糖尿病』(主婦の友社)
塚本やすし『イラスト日記 ゆるして!糖尿病』(主婦の友社、監修:白澤卓二)

病院に行き血液と尿を提出した。待合室は満席である。自動血圧計で血圧を測る。血圧は上が138mmHg、下は95mmHgである。正常値だ。その日は特に人が多く、予約の時間が来ても順番が来ない。でもイライラしない。病院で待つことは慣れっこだ。文庫本を読んで順番を待つ。私の順番が来た。いよいよ決戦の時が来たのだ。

ドアを開けてイスに座る主治医を見ると、データを食い入るように見ている。私はイスに座った。主治医は視線をパソコンから私に向けた。主治医の目がうるんでいる。うんうんとうなずきながら「がんばりましたね! すべて正常値です。何をしたんですか?」と尋ねてきた。

私は食事を改め運動を始めたことを伝えた。こんな短期間でこんなにも血糖値が下がるのは、非常に珍しいらしい。うるうるしている先生を見て、私もうるうるしながら「先生のおかげです!」とお礼を言った。

出所=『イラスト日記 ゆるして!糖尿病』(主婦の友社)

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塚本 やすし(つかもと・やすし)
絵本作家
東京都出身。『しんでくれた』(谷川俊太郎・詩/佼成出版社)で第25回けんぶち絵本の里大賞のびばからす賞、『やきざかなののろい』(ポプラ社)で第6回リブロ絵本大賞・第9回ようちえん絵本大賞。『戦争と平和を見つめる絵本 わたしの「やめて」』(自由と平和のための京大有志の会・文/朝日新聞出版)で第7回ようちえん絵本大賞など数多くの賞を受賞。日本全国の図書館やイベント会場、書店などで読み聞かせやライブペインティングを行っている。主な著書に『おにのパンや』『とんかつのぼうけん』『このすしなあに』『とうめいにんげんのしょくじ』(以上ポプラ社)など多数。
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(絵本作家 塚本 やすし)