〈中国・日本人男児刺殺〉「急に石を投げられ…」アフターコロナでヘイトを隠さない中国人たち。世界の日本人学校での風当たりは?「国へ帰れ!」や“つり目ポーズ”をされることも…

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中国南部・広東省深圳(しんせん)で9月18日午前、日本人学校に通う10歳の男児が刃物で刺され、19日未明に死亡した事件。その衝撃は日本国内だけでなく世界中に衝撃が広がっている。現地に住む日本人やアジア圏の日本人学校関係者に今回の事件について聞いた。

【画像】事件に対する中国人ネットユーザーによる誹謗中傷

アフターコロナで風当たりが強くなる在中日本人

9月18日午前、中国南部の広東省深圳で日本人学校に通う10歳の男子児童が保護者と一緒に登校していたところ、男に腹部を刃物で刺される事件が発生した。男児は病院で手当てを受けたが、19日未明に死亡した。現地警察によると、男性容疑者(44)がその場で逮捕された。

これについて岸田文雄首相は19日にXにてこのようにポストした。

「昨日、中国広東省深圳市で男に襲われた深圳日本人学校の児童が、19日未明に逝去されたとの報告を受けており、深い悲しみを禁じ得ません。心からのお悔やみを申し上げます。極めて卑劣な犯行であり、重大かつ深刻な事案と受け止めています」

中国外務省・林剣報道官の19日の記者会見によると、死亡した男児は深圳日本人学校に通う小学5年生。男児の父親は日本国籍、母親が中国国籍だと説明しているが、「これまで把握した情報から、これは個別の事案。類似の事件は、どの国でも起こりうる」とし、犯人についても前科者であること以外、動機などを含めて明らかにしていない。

「日本教育文化の象徴であるランドセルは海外の日本人学校でも例外ではない。犯人はランドセルを見て、被害男児が日本人だと判断したのかも。日本人学校に子どもを通わせるある保護者は、『目印になってしまうので、(子どもに)ランドセルを背負わせるのはやめようかと思ってる』と話すなど、現地日本人に警戒が広がっています」(中国駐在記者)

文部科学省が認定した「在外教育施設」にあたる日本人学校は、2024年4月15日現在で世界49カ国・1地域に94校存在する。そのうち、中国大陸の日本人学校は9都市に10校(上海に2校)と最多である。

中国にある別の日本人学校に勤務する30代男性教諭はこう語る。

「今回の事件を受けて、本校でも緊急職員会議が開かれ、大変慌しい状況です。今回の事件はいち教員として、非常にショックを受けました。同じ中国国内の日本人学校の児童がこんな目にあってしまうなんて、言葉になりません。今後、本校も子どもたちを守るために全教職員で一丸となり、対策を強化する予定です」

日本人学校は日本国籍の子どもを対象とした学校で、インターナショナルスクールとは違い、授業は日本語で日本国内と同等の教育課程を行なう。それゆえに、日中関係の悪影響を受けやすい。

今年6月24日には、中国東部・蘇州で日本人学校のバス襲撃事件が発生し、日本人2人が負傷、中国人スタッフ1人が命を落とした。

このような現状に、在中日本人たちは危機感を募らせている。中国で駐在員として勤務して4年目の40代・日本人女性はこう語る。

「コロナが収束するにつれて、現地での日本人への風当たりの強さは日に日に増してきているように感じます。2年ほど前から飲食店で日本人の友人と食事をしていると、他の客からにらまれたり、店員から中国語で暴言を吐かれたりすることが増えました。私の周りの日本人の多くがこのような差別を受けています。

知り合いは半年ほど前に、街中で見知らぬ中国人に急に石を投げられたそうです。日本人であることを知られるのが恐怖に感じるので、最近は外では極力、日本語を話さないように生活しています」

女性は現在、身の安全を確保するために一時帰国も検討していると話した。今回の事件を受け、中国に進出している日系企業は、駐在員やその帯同家族に対して、続々と一時帰国を認めているとのことだ。

フィリピンでの日本人の扱いは? 

日本人学校・補習校などへの援助のほか、教育相談・情報提供等を実施する「公益財団法人 海外子女教育振興財団」の職員は「在外教育施設では、国や地域に合わせた安全対策が取られています」と話す。

では、各国の日本人学校や補習校では、どのような安全対策が取られているのだろうか。約2年前にフィリピンのマニラ日本人学校に勤務していた50代・男性教諭はこう語る。

「フィリピンは銃社会のため、学校の近隣で現地の方が銃殺された事件が起こったこともあります。フィリピンで生活していると、そのような事件をたびたび耳にしました。また、フィリピンでは子どもが人身売買の被害に遭うケースも多いため、生徒には子どもたちだけで外を出歩かないよう注意喚起していました。

学校には専用のIDカードを持っている人しか入れない決まりになっていました。校内は24時間体制で警備員が巡回していましたが、勤務中にスマホでゲームをしていたり、YouTubeを見ている警備員も多かったです。

夜間まで学校に残って仕事をしていた際に、警備員が居眠りしていたこともありました。部外者が警備員の目を盗んで校内に侵入することも、容易にできる環境だったと思います。ただ、フィリピンは学校だけでなく、ショッピングモールやスーパーマーケットなど多くの人が集まる施設には、必ずと言っていいほど警備員が配置されているのですが、だいたいどこへ行ってもみんな同じような勤務態度なので、『文化の違いもあるし、仕方ないのかなぁ』と思っていました」

男性教諭は現地で日本人をターゲットにしたヘイトや差別についてこう続けた。

「街を歩いていたら30代前半くらいの見知らぬフィリピン人男性にすれ違いざま、指で目尻を引っ張る“つり目(スラントアイ)ポーズ”をされたことがあります。

あと、タクシーをアプリで予約した際に、予定時間を大幅に過ぎても来なかったのでキャンセルしたら、そのドライバーからアプリのメッセージ機能で『国へ帰れ』とタガログ語で送られてきたこともあります」

この男性教諭によれば、フィリピンでは、日本人や中国人、韓国人をターゲットにしたスリなどの犯罪が圧倒的に多く、常に危機感を持って生活していたとのことだ。

タイでは日本人ヘイトはないものの… 

続いて、タイの日本人学校に勤務する20代・女性教諭はこう語る。

「タイでは日本人に対するヘイトや差別を見たことも聞いたこともないです。しかし、タイは銃の所持率が高く、私の周りのタイ人も普通に銃を所持しています。そのため、学校の警備体制は徹底されており、部外者は一切校内に侵入できない決まりになっているので、学校見学も禁止されています。

普段、生活をしていて治安が悪いと感じることは少ないのですが、交通状況が非常に悪く、運転が荒い車が多いです。

学校のホームページには、『本校駐車場内で起きた事故・トラブルに関しましては学校は一切責任を負いかねますので、ご利用の際には十分ご注意ください。また、警備員及び監視カメラは、児童生徒の安全のために配置・設置しておりますので、それ以外の目的での監視カメラ映像閲覧要求がございましてもご要望にはお応えできませんのでご了承ください』という文言が記載されています。

また、治安以上に交通安全を配慮し、徒歩ではなく自家用車やスクールバスで通学させる家庭が多い印象です。しかし、スクールバス代は1学期当たり約2~3万バーツ(約8万7千円~13万円)と大変高く、毎日渋滞もひどいため、中にはバイクタクシーに乗って通学している生徒もいます」

次に、約1年前にインドの補習校に勤務していた30代・男性教諭はこう語る。

「私が勤務していた補習校はインターナショナルスクールの校舎内にあったので、そこでの授業が終わり次第、補習校に来る児童生徒が多かったです。インターナショナルスクールは日本人学校や補習校に比べて学費が高く、資金が潤沢なので校舎は綺麗で設備はとてもしっかりしていました。外から部外者が侵入できない造りで、入り口には常に警備員が立っていました。

そのため、校内で身の危険を感じたことはありませんし、児童生徒は車で通学していたので、校舎周辺を出歩くことはありませんでした」

海外で生活する日本人の安全が一刻も早く確保されることを心より願う。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班