ロサンゼルス・ドジャース大谷翔平選手が、9月19日のマイアミ・マーリンズ戦で、50-50を超え、51-51を達成した。MLB史上初の偉業に、米メディアやSNSは大盛り上がりだ。

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 地元ロサンゼルス・タイムズのジャック・ハリス記者は記事冒頭「超人だ。別世界の人だ。信じられない。唯一無二だ」と述べ、大谷選手の歴史的快挙をどんな言葉で言い表したらいいのかわからないほど衝撃を受けている様子だ。

 スポーツ専門のケーブルチャンネルESPNのジェフ・パッサン記者も「新しいチームでの最初の年で…同じシーズンに、彼の親友が彼から1600万ドルを盗んだ…肘の再建手術からのリハビリ中…大谷翔平は50/50クラブを創設した」と大谷選手が水原一平元通訳の賭博スキャンダルや手術など数々の試練に襲われたにもかかわらず、成し遂げた偉業を絶賛している。

 ドジャースの試合をカバーしていることで知られるブレーク・ハリス記者も「MLB史上最高の試合パフォーマンスだ。50/50クラブに参加した。大谷翔平は我々の生涯で最高の選手だ」と19日のマーリンズ戦で見せた大谷選手の大活躍ぶり(6打数6安打3本塁打10打点2盗塁で、1試合10打点という球団記録を樹立した)に目を見張っている。


©時事通信社

50本盗塁の達成の難しさ

 アメリカが「50-50 クラブ」と呼ぶ50本塁打、50盗塁の達成がいかに難しいかは、過去の記録が物語っている。「50-50 クラブ」に近づいた選手もいたものの、誰も達成できていなかった。アレックス・ロドリゲス選手が、1998年に46盗塁を記録したが、本塁打50本には8本足りない42本だった。アルフォンソ・ソリアーノ選手は2006年に46本塁打を放ったが、盗塁は41に留まった。

 USA Today紙のコラムニスト、ボブ・ナイチンゲール記者は、大谷選手が「55-55クラブ」を創設する可能性を見据えてこう述べている。

「このゲームを永遠に“大谷翔平ゲーム”として記憶にとどめよう。50/50クラブの創立メンバー、そして、おそらく近いうちに55/55クラブの創立メンバーになるだろう」

「オオタニがジャッジに追いつくには時間が足りない」

 果たして、大谷選手は55-55を達成できるのか?  19日のマーリンズ戦で見せたようなパフォーマンスを残された試合でも見せ続ければ、それも可能に思われるが、歴代の1シーズンでの本塁打数と盗塁数の各記録だけを取れば難関にも見える。

 スポーツ専門紙「スポーティング・ニュース」によると、大谷選手は1シーズンでの本塁打数だけを取れば、歴代トップには遠く及ばない。2001年にはバリー・ボンズ選手が73本、2022年にはアーロン・ジャッジ選手が62本の本塁打を達成しており、同紙は、シーズン中に「オオタニがジャッジに追いつくには時間が足りない」との見方を示している。

 また、1シーズンの盗塁数の記録という点でも、大谷選手は歴代の記録には遠く及ばず、2023年には、ナショナルリーグでMVPを獲得したロナルド・アクーニャ・ジュニア選手の73盗塁を含めて、3人の選手が50盗塁を超えたと指摘している。また、今シーズンでは、エリー・デ・ラ・クルーズ選手が、60以上の盗塁を達成してリーグトップとなる見込みで、2010年以降に60以上の盗塁を決めた選手には、ディー・ストレンジ・ゴードン、マイケル・ボーン、ジョナサン・ビラーがいるという。

 しかし、それでも、同紙は、2008年以降、1シーズンに50本以上の本塁打を打った選手は、ジャッジ、マット・オルソン、ピート・アロンソ、ジャンカルロ・スタントン、クリス・デイビス、ホセ・バウティスタとほんの一握りだけに、「オオタニが達成しようとしている50-50は前例がない」と達成前から絶賛していた。

今年もMVPを獲得できるか否か

 そして、そんな前例を超えた大谷選手が、今年もMVPを獲得できるか否かに、今、アメリカでは大きな注目が集まっている。すでに、アメリカのメディアからは「大谷選手が50-50を達成すれば、MVPの獲得はかたい」(「スポーティング・ニュース」)という声や「たとえ50-50に届かなかったとしても、7年間のMLBのキャリアで3度目のMVP受賞は確実だ」(スポーツニュースサイトThe Big Lead)との見方も出ていたので、51-51にまで至った今、MVP獲得の可能性は大いに高まっていると言えるだろう。

 ESPNは大谷選手について「本塁打数ではアーロン・ジャッジ選手の53本に次ぎ、盗塁数ではエリー・デ・ラ・クルーズ選手の64個に次いでいる。この数字は、ニューヨーク・メッツのスター、フランシスコ・リンドーア選手の最近の背中の負傷を考慮すると、フルタイムの指名打者として初めてMVPを獲得するペースにあるようだ」とMVPレースでは大谷選手のライバルと目されているリンドーア選手を凌いだと見立てている。

大谷選手 vsリンドーア選手

 “X”でも「リンドーアって、誰だっけ? 今夜、オオタニにMVPをあげよう」「リンドーアの方がオオタニよりMVPにふさわしいと考える変人がまだいるのだろうか?」「僕はメッツの大ファンでリンドーアが大好きだが、ニューヨークのメディアが実際にMVPを争っているかのように報道するのは、まったくもって笑止千万。オオタニの方がはるかに上だ。そして彼はヤンキースのスター選手よりも優れている」などの声があがっている。

 ファングラフス版のWAR(Wins Above Replacement(打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標)を見ると、リンドーア選手7.4vs大谷選手7.0でリンドーア選手がリード(※9月19日の活躍によって大谷選手のWARは7.7まで急上昇して、リンドーア選手を逆転した)。しかし、ベースボール・リファレンス版のWARでは、大谷選手7.3 vsリンドーア選手6.6と大谷選手がリードしている状況だ。

大谷選手への皮肉な見方

 もっとも、誰しもが、大谷選手を応援しているわけではないようだ。2022年に殿堂入りしたデビッド・オルティス選手は、大谷選手がナショナルリーグのMVPを受賞する可能性について、ちょっと皮肉な見方をしており、Marca.comでこう言及している。

「MLBは、私がDH(指名打者)だったため、MVPを授与しないという“問題”を常に抱えていた。今年は、MLBの“プリティー・ガール(可愛い女の子)”であるオオタニが(MVP受賞)レースに参戦しているので、彼らが何と言うか見てみよう」

 オルティス選手は、ミネソタ・ツインズとボストン・レッドソックスに20年にわたって所属していたが、DHだったため、MVPを受賞できなかった。しかし、同じDHでも、大谷選手は“プリティー・ガール”なので受賞できるのではないかと、同選手は斜めに見ているのである。それにしても、大谷選手のことを“プリティー・ガール”と呼ぶとは、それだけ、大谷選手を高評価するとともに、その実力に嫉妬心も感じているのかもしれない。

“プリティー・ガール”発言に批判の声が

 オルティス選手による“プリティー・ガール”発言には批判の声が上がった。

 ニューズウィーク誌は「オルティス選手がアジア人男性(オオタニ選手のこと)を女性化することは、たとえそのスポーツで最も有名なプロスポーツ選手であっても、危険で、昔からあるステレオタイプな見方が続くことになり、公の議論にはふさわしくない」と問題視している。

大谷ファンが厳しく非難

“X”でも、大谷ファンが厳しく非難した。

「オルティスは、自分がMVPを獲れなかったのに、オオタニが獲れる可能性があることに嫉妬している。でも、オオタニがメディアの産物だとか、MLBのプリティー・ガールだとか言うのは乱暴だ。オルティスは20年間で20盗塁もできなかった。オオタニは50盗塁するよ」

「あなた以外にオオタニについて悪く言う人を私は知りません。あなたは彼を“プリティー・ガール”と呼びました。オルティスさん、女の子にしては、彼は悪くないですよね? 私には、あなたの発言は負け惜しみに聞こえます」

 オルティス選手は、MVP受賞レースでは、リンドーア選手は不利な立場に置かれていると考えており、「彼らは毎日、オオタニが50-50を達成するよう励ましているが、リンドーアのような選手は励まされていない」と話している。オルティス選手は大谷選手にばかりメディアのスポットライトが当たっていることにやはり不満を感じているようだ。

大谷選手を登板させるよう熱烈なラブコール

 大谷選手の偉業により12年連続のプレーオフ進出を決めたドジャース

 ドジャースではまだ1試合も投球していない大谷選手だが、プレーオフで登板することを待望する声もあがっている。ロサンゼルス・タイムズのコラムニスト、ビル・プラシュケ氏は9月12日付けのコラムの中で、大谷選手を登板させるよう熱烈なラブコールを送っている。同氏は、ドジャースが最後に優勝した2020年のワールドシリーズでは、そのシーズン、ブルペンで練習したのはたった1回だけだったフリオ・ウリアス投手が救世主となってゲームを攻略するという異例のシナリオが起きてドジャースがタイトルを獲得したという前例をあげ、こう訴えている。

「今シーズンの救世主は? オオタニ・ショウヘイ。これは起こり得る。これは起こるべきだ。これがハリウッドであり、これがオオタニなのだから。本当に起こったらどんなに素晴らしいことか? チームとファン、そしてこの街にタイトル獲得の最高のチャンスを与えないのは職務怠慢だ。状況が整い、オオタニがボールを取る意思がある時に彼を起用しないのは、まったく間違っている」

 同氏は「彼はオオタニ・ショウヘイだ。彼は何でもできる」と大谷選手を神格化するようにコラムを締めくくっている。

「可能性は非常に低い」が「ゼロではない」

 当の大谷選手はどのように考えているのか?

 ESPNによると、9月17日のマイアミ・マーリンズ戦後、「プレーオフで投球できる体力があると思うか?」と尋ねられた大谷選手は苦笑いした後、「よくわからない」と答えたという。また、ロバーツ監督は、大谷選手がポストシーズンで登板する可能性について「可能性は非常に低い」が「ゼロではない」と言及しているという。

 果たして、51-51を達成した大谷選手には、MVP受賞、プレーオフでの登板、そしてドジャース8度目のワールドシリーズ優勝という、まさにハリウッド映画のようなめくるめく展開が待っているのだろうか?

(飯塚 真紀子)